無駄に記憶力がいいもので、前回と同じホテルを取った。
べつに執着している訳じゃない。道を覚えており、周囲に土地勘があるからだ。
チェックインは機械で自動でできるようになっていた。前回はフロントで、十四がイタリア語も英語も分からないと散々喚き散らかしたのを覚えている。だったら俺の後ろにいればいいと思うのに、彼はいつも俺の先を歩きたがった。ひとやさん、あれ何ですか。ひとやさん、あれ綺麗ですね……振り向いてはキラキラとした目で見つめる、その目の色さえ鮮明に思い出せる、ぴょこんと散らばる後ろ髪、太陽に反射する金色のメッシュが眩しかった。
チェックインを終えて、部屋に荷物を置く。
まだ外は明るい。散歩に出ようと考えていたのに、一人の部屋のそこかしこに記憶の十四がいるもので辟易した。
ひとやさんベッドルーム二つありますよ、どっちがいいっすか? 広さは変わんないっすね、あっでもこっちの方がサイドチェストが大きいっす! ……どっちでもいいよ好きにしろ、と言ったら、彼は何を遠慮したのかサイドチェストが小さい方の部屋を選ぶものだから大いに笑った。やれアイマスクだのハンドクリームだの、物が多いのは明らかに彼のほうだというのに。
洗面ボウルが二つあることにも感動して、頭上に大きなシャワーヘッドが設置されたシャワースペースを見ては映画みたいだと感動していた。海外の映画みたいっす、と言うもので、まぁ海外だからなと返せば照れくさそうに笑った。
自分海外旅行初めてなんで。ひとやさんと一緒に来れて嬉しいっす。
まだ到着して一日しか経っていない、観光なんて何もしてない、部屋に荷物を置いただけなのにそんなに嬉しそうな顔をされるものだから……なんだか照れは伝染して、俺の頬まで赤くなった。
ひとやさんかわいい、と呟いて、うっとりした目で俺に近寄り、結局唇は重なって、初日の観光は出来なくなった。
思い出して、唇が歪む。すべての記憶に十四がいる。
記憶を吹っ切って外に出た。道が石造りっすよ! とひとつひとつに十四は大騒ぎしていたっけ。
行くあてもなく、ただ、あの時も十四と見たコロッセオへと足は向かう。信号の角、本場のジェラートっす! と止める間もなく十四が駆け込んだジェラート屋は無くなっていた。前は何を買ったっけ。思い出す素振りなどしてみたが本当はもうとっくに思い出している、十四はピスタチオ、俺はレモンのフレーバーを買ったんだ。一口ください、一口あげます、とスプーンをアーンしてくる十四に呆れて、けれど周りを見て下さいっす! と主張されて周囲を見れば、年齢も性別も気にせず二人きりの世界に没頭するカップルばかりで驚いた。
ここは愛の国っすからね、となぜか自慢げな十四が更にスプーンを押しつけてくるもので、仕方なくのテイを崩さず口を開ける。舌先に溶けるピスタチオ味は甘かった。