朝。いつも通りに目が覚めた明石国行はどこか違和感を覚えた。
 とりあえず眼鏡、と枕元に手を伸ばして固まってしまう。それが人の手ではなかったから。黒くてもふっとして小さい、獣の前足。大混乱である。慌てて布団から出てくるくるとたとたと自分の体を確認したところ、どうやら、猫、の姿になってしまっているようだった。
 明石は隣の布団を見る。そこでは恋仲の薬研藤四郎が眠っているはずで、彼なら自分のこの状況をどうにか……は出来ないかもしれないが、なんらかの助けにはなってくれると信じていたから。けれども哀れ明石国行、布団のふくらみはどう考えても人ひとり眠っている大きさではない。恐る恐る薬研の布団に近付いて覗き込んでみれば、真っ黒なうさぎが一羽いたのだった。
 気持ちよさそうに眠るうさぎを見て、ああ、これは薬研に間違いないなと悟った明石は、はぁ、とため息をついて元いた布団にもぐってしまった。これは夢や。あほらし、あほな夢や。そう念じながら。あたたかな布団に包まれ、明石は二度寝を決め込んでしまったのだった。
 起床の時刻から一分。
「明石! 貴様近侍だろう!」
 すぱんと障子が開け放たれ、そこにいたのはへし切長谷部。長谷部の大声に明石は飛び上がって驚き、そうっと布団から入口の様子をうかがう。大変残念なことに猫の姿のままだった。
 困惑したのは長谷部だ。薬研と明石のふたり部屋に人がいないのだから。ずかずかと部屋に入り込み、まずは明石の首根っこを引っ掴む。
「お前……もしかして明石か?」
 尋問するような口調に明石はすっかり怯えてしまい、返事をしようとしたのだが、口から洩れたのはにゃあ、というか細い鳴き声だった。
「薬研はっ!」
 明石の首を掴んだまま長谷部は隣の布団もめくり、そこで気持ちよさそうに眠り続けているうさぎを見て頭を抱える。なおうさぎ、起きる気配がない。薬研は確かにもともと朝が弱いのだけれど。
 長谷部は薬研と明石を小脇に抱えて審神者の執務室へと走ったのだった。それはもう、機動を活かしたものすごい速さだった。
 長谷部が審神者に薬研と明石の状況を説明し、審神者は気まずそうにスマートフォン端末の画面を長谷部に見せた。うさぎの着ぐるみの薬研藤四郎もちもちマスコット、猫の着ぐるみの明石国行もちもちマスコットが仲良く並んでいる写真があった。
「ごめん……昨晩お酒飲んで調子に乗って写真を撮りまくりました……」
 長谷部の腕の中で明石は、はた迷惑な話や、と呆れていた。あの主はんに酒飲ましたらあかん、と強く思った。この本丸の主である審神者の霊力にはムラがあって、たとえば体調を崩したときなどに霊力が暴走することがある。いわゆる霊力バグというやつだ。ほぼ常に近侍をやっている明石が一番被害者になることが多くて、またか、とぐったりとしてしまう。けれど、それならば対処法もわからないこともない。嫌な慣れだが。丸一日が過ぎれば元どおり、というのは予想がついたので、明石は猫の姿であることだし、一日寝ててもかまへんやろ、とせめてもの前向きさを発揮させていた。なお、薬研はまだ眠っている。朝弱いにも程がある。いつも明石にとって朝の大事業が薬研を起床時間までに叩き起こすことだったりする。
「そういうわけだ。近侍代理は俺。明石と薬研は適当に可愛がってやってくれ」
 朝食会場である大広間で長谷部はそう宣言し、猫の明石とようやく起きたうさぎの薬研を放った。黒いうさぎはもそもそとしてから黒猫に飛び掛かる。驚いた様子の黒猫は飛び跳ねてからシャーっとうさぎを威嚇した。
「喧嘩するほど仲がいいってかあ?」
 和泉守兼定がうさぎと猫にちょっかいをかける。うさぎは和泉守の手に臆することなくまた猫に飛び掛かろうとする。
「ねぇ、薬研と明石って恋仲なんだよね?」
 疑問を呈したのは大和守安定。うさぎの魔の手から猫を守るように抱きかかえ、そしてこう言葉を継ぐ。
「薬研ばっかり好きなんじゃない? 明石さん優しいから」
 そんなことねぇよ、と言ったのが愛染国俊だった。
「国行はこんなだけど、たぶんかなり薬研のことが好きだぜ」
 そうだよ、と蛍丸も援護する。
「国行、確かに押しに弱いけどそこまで弱くない、ちゃんと芯はしっかりしてる」
 ふーん、と猫を大和守から受け取りながら加州清光が言う。
「黒猫、超カワイイから新選組で預かろっか」
「清光に賛成!」
「あーでも、猫のご飯どうしよっか。ええと、あ、五虎退」
「は、はいっ」
 突然呼ばれた五虎退が加州に返事をした。
「ちょっとさ、虎くんたちのご飯、分けてくんない?」
「は、はい!」
 五虎退はとたとたと大広間から出ていき、しばらくして小袋を抱えて戻ってきた。
「こ、これ、虎くんたちのごはんですっ」
「ありがと、五虎退」
 加州は五虎退の頭を撫でて猫用のごはんを受け取った。
「薬研のことですが」
 声を上げたのは一期一振だ。
「粟田口で預かってよろしいですな?」
 その声には凄みがあって有無を言わさぬ口調だったし、特に異を唱えるものもいなかったので、うさぎの薬研は粟田口で預かり、猫の明石は新選組で預かることになった。大広間の朝食が片付けられて、霊力バグが発生した異常事態の本丸は出陣も取りやめられて男士たちはそれぞれに散っていった。
 さて、新選組の部屋に連れてこられた明石だったが、大変に大変に困っていた。こんな面倒な事態、眠って過ごしてしまいたいのに新選組の刀たちはどうしても明石にちょっかいをかけてくる。特に明石目線でひどいのが和泉守で、撫で方が雑なのでひょいと逃げると「おお! 追いかけっこか!」と後をついてくる。加州の後ろに隠れれば「そら、こういうのが好きなんだろう?」と紐をちらちらと揺らしてみせる。無視しておきたいのだが体が猫になったせいか無意識に手を伸ばしてしまい、そこから抱え上げられて「可愛いもんだなあ!」ともうべたべたべたべた触ってくる。いやや、勘にして、と思いながら和泉守から逃げ、加州の後ろ、大和守の後ろ、堀川国広の後ろ、と部屋中を逃げ回った結果、長曽祢虎徹の膝の上に身を落ち着ければようやく和泉守の猛攻は止まった。
「長曽祢さん、その猫、俺に渡してくんねえか?」
 和泉守の言葉にはっはっは、と長曽祢は笑い、のんびりさせてやろうじゃねえか、と言ったので和泉守も諦めた。
「ね、和泉守」
 加州が呼びかける。なんだあ、と返事をした和泉守に加州はにやけた顔で言ってやった。
「ガーキ」
 なんだとお、と和泉守は吹きあがり、新選組の部屋はずっとずっと騒がしくて明石は結局ゆっくり眠ることなどできなかった。
 一方、粟田口の部屋に連れてこられた薬研だが、こちらは多少面倒だなと思いながらもそれなりにのんびり過ごしていた。秋田藤四郎が調べ上げたうさぎの知識によって、うさぎの体に対して困ることは何一つなされなかったし、もとより子供姿の短刀が多い粟田口では可愛いもの好きも多く、薬研は順番に優しくなでられるのを受け入れていた。
「薬研兄さん、花冠作ってきました!」
 そう言って部屋に入ってきたのは前田藤四郎で、平野藤四郎がそっと薬研の頭に小さな花冠をかぶせてやる。どこからともなくかわいいー、と声が上がり、けれども薬研はもそもそと身じろぎして花冠を落とし、もしゃもしゃと食べ始めた。うさぎの体にゃなかなか旨いもんだな、などと考えながら。
「もー薬研、そういうとこ」
 文句を呈したのは乱藤四郎で、呆れたような言い草だがもしゃもしゃと花冠を食べる薬研をそっとなでる。薬研兄さんですからね、と前田が言って、そうなんだよねえ、と乱は返した。食べたら眠くなるもので、薬研はそのままそこで寝入ることにした。粟田口の男士たちはそれをあたたかく見守り、うさぎの薬研が不自由のないように気を遣ってくれていた。
 異常事態ながらどこかのんびりした本丸の一日が暮れ、うさぎの薬研と猫の明石をどこで寝かせるべきか話し合いが行われた。話し合いの間、うさぎと猫は同じ部屋で放たれ、そしてやはりうさぎが猫に飛び掛かって猫が怯えたように威嚇してしまうので、これはふたりの部屋にこのまま返すのはよくない、ということが共有され、結局昼間と同じ部屋で朝まで預かることになった。
 猫の明石は長曽祢の懐に潜り込み、うさぎの薬研は秋田の枕元でうずくまった。
 翌朝。目を覚ました長曽祢は腕の中にいる明石に飛び上がって驚いたし、秋田は寝相の悪い薬研に頭を蹴られてずいぶん早くに目が覚めてしまったのだった。
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さとうこおり
ちょっとタバコ吸ってきます
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さとうこおり
たばこにかいめー
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さとうこおり
おわりですー
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書けるといいな♪「恋仲の薬明、薬研がうさぎになって明石がねこになる話」
初公開日: 2021年09月23日
最終更新日: 2021年09月23日
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コメント
さっきネタが浮かんだのでざっと書きます。
書き上げられればたぶんベッターにあげます。