ヤマネコは木の上から伺っていました。
そこには、可愛らしいお嬢さんがいたのです。ただし、こんな山の中にはあまりにも似つかわしくない服装で。
ヤマネコはお嬢さんが怪我をしていないことに気付きました。つまり、分け入ってきたわけではなさそうです。ただ奇妙な光景に、ヤマネコは木の上で身を隠したまま考え込んでしまいました。
「よいしょっと」
お嬢さんは荷物から日傘を取り出しました。着ているワンピースによく似合うフリルたっぷりの日傘です。
「ここはどこかしら」
あどけない声でひとりごちるお嬢さんは、きょろきょろとあたりを見回します。
ヤマネコは意を決して木から降りることにしました。もうすぐ日が傾き始めます。お嬢さんを山から追い返すにしても、山に迎え入れるとしても、このまま夜になってしまってはヒトの目は暗がりでは見えないと知っています。山は日が暮れ始めると早いのです。
「あら、ヤマネコかしら」
姿を現したヤマネコにお嬢さんは声を上げました。
「こんにちは」
ヤマネコは返事をしませんでした。
「怖いことはしないわよ」
そう言いながらお嬢さんはヤマネコに近付きます。ヤマネコは身を構えます。
お嬢さんは手元の小さな機械をヤマネコにかざしました。ぴっとかすかに鳴りました。
「よぉし、ヤマネコさんはおともだち」
お嬢さんはそう言って踵を返し、山の奥の方角へ歩き始めました。何が何だかわからないヤマネコは戸惑います。その場に立ち止まったままお嬢さんの様子を眺めます。
「さあてとっ」
ヤマネコはただただ驚きました。お嬢さんが空中を歩いているのです。
「ここのマークは済んだから、次はどこかなー」
お嬢さんの言うことはヤマネコには全くわかりませんでしたが、お嬢さんがまたどこかへ向かうようだということはわかりました。お嬢さんはすでに先ほどまでヤマネコがいた木の高さまで浮かんでいます。
「まったく、調査員遣いが荒いんだから」
お嬢さんはため息交じりにそう言い、ひゅんと光となって消えてしまいました。
取り残されたのはヤマネコと何も変わっていない山。
夢を見たようだ、と思ったヤマネコはため息をつきました。そう、まるでヒトのような様子でした。