頭に思い浮かんだものをがしがし書いていく感じです。とりあえず誤字脱字無視でいきますね!
執筆のお供はきった和梨で音楽はニコ動の【鬼滅のMMD】童磨×Myosotis【上弦の弐】をエンドレスしてます。良かったら合わせてお聞きください。
気づけばひとり、ぽつんと暗闇の中にいた。
周りにはうずたかい写真の山。
視線をぐるりと巡らせる。どこまでも続く紙の波は時折どこからか吹く風に崩されながらも形を維持していた。
近くの山が均衡を崩す。ひらりと一枚の写真が足元に滑り落ちてきた。
何気なく手を伸ばし、拾い上げる。モノクロの、どこかの山の中だろうか。
深い雪に埋もれた松の隙間から除く、黒と紫の背中が急に大きく……っ。
びゅうびゅうと殴りつけるような激しい風の音が耳の奥に轟く。弾丸のような速さで牡丹雪が通り過ぎていく。
灰色の雲に覆われた空は、かろうじて届く光にようやく昼だとわかる程度。
足元が埋まる純白の雪をかぶった濃い緑の松が乱立するそこは、やはり山の中のようだ。
どこか色彩の欠けた風景にいろどりを与えている、紫と黒の着物姿。
袴と足袋に草履。むき出しの手には目玉の浮く不気味な刀。時代錯誤な格好だが、温度が伝わらなくても寒さが伝わるような場所ではあまりに軽装だ。
しかし、凛と背を伸ばしたいにしえの侍は寒さなど気づいていないようである。
高く結われ流れ落ちる、端にわずかな赫みがかかったつややかな黒髪が暴風に弄ばれようと気にする様子もなく、顔を俯けていた。
そんな、どこかもの悲し気な侍の周りに、数人の男が倒れている。
同じような侍の恰好をしているが、あるいは胴体を二つに斬られ、あるいは首を撥ねられており、すでに生命の活動を停止していた。
自身からあふれ出した深紅に染まりながらも最期まで握りしめている刀の色は、どれも漆黒。
唯一生きている紫黒の侍がおもむろに動きを見せる。
滑るような足取りで遺体に近付き、見事な黒に染まった刀を手にした刀で折った。
ぱきり、とあまりに軽い音を立てて価値を亡くした遺品を、侍はさらに砕いていく。どれもこれも執拗なほど。
粉々にし終えた金属の欠片を前に、侍は再び動きを止めた。
「……では、ないか……」
怒りをあらわにした天がごうごうと唸っている。
びゅうびゅうと逆巻く風の隙間にかき消されそうな、侍の声。
「……どこにも、いないではないか……お前の後継など…………お前の、技を受け継ぐものなど………誰一人、いないではないか……」
うつむいた侍の横顔。風に遊ばれる髪に隠されほとんど見えない端麗な面差し。
わずかに覗く唇が、震えたように見えた。
「……だから、言うたでは……ないか。……馬鹿者めが……」
太陽は、真っ黒な雲に隠されほとんど姿が見えない。
凍るほど冷たい牡丹雪が青白い肌に浮かぶ炎の痣を隠す。
溶ける氷は水となり、頬を伝った。
「……よりいち…………」
ひときわ強い風が下から吹き付け、侍の隠された顔を露わにする。
真っ赤な目に浮かぶ金色の満月。三対六つ目の金眼赤目をもつ、異形の侍と眼があった。
「……お前も、そう思わぬか……?……なあ……継国巌勝(わたし)よ…………」
がばり、と身を起こす。ぜいぜいと驚くほど息が荒れ、咄嗟に抑えた心臓がどくどくと脈打っていた。
下半身を隠す布団と毛布。青いパジャマ。窓から入る月光が暗い室内をわずかに照らし出している。
クリーム色の壁紙。学生鞄を吊り下げた勉強机。作り付けのクローゼット。即席の本棚にしているカラーボックス。
恐る恐る、握りしめていた拳を開いた。苦労を知らない、滑らかで小さな手だ。
爪は鋭く尖っていないし、胼胝や血豆の痕が残る大きな手でもない。
ぺたりと自分の頬に触れる。鼻は一つ、耳はふたつ、口は一つ。
目は、ふたつ。
手元のスイッチを押して部屋を明るくした。ぱ、と夢の残滓ごと闇が後退していく。
ベッドから降りてクローゼットの鏡の前に向かった。
写り込む、まだ低い背中。短い髪。細い肢体。痣のない白い肌、どこもかしこも未熟で、未完成なからだ。
たしかにかつて己は鬼であった。強さを求めるあまりに寿命を縮め、人外となり人を喰らい続けついには生き恥をさらして一度滅びた。
けれど、今世の巌勝はもう人を喰らう鬼ではない。
ひんやりとしたガラスの冷ややかさが、あまりに生々しい感触を消してくれた。
「……っは、ぁ………ふぅー………」
そうだ。ここは雪山ではない。
嗚呼、けれどあの光景は覚えがある。あの赤い月の夜を過ぎてしばらくした後だ。
あえて異形の姿を見せておびき寄せ、鬼狩りを始末し続けた日々のどれかだろう。
白い雪に散った赤い血と砕けた黒い刀身。
隠せない松の緑と幹。曇天の牡丹雪。露とも身を切るような寒さを感じなかった理由など一つしかない。
「……よりいち……」
それは前世の双子の弟。誰よりも近しかったはずの、唯一の片割れ。
巌勝がどれほど求めようと決して手に入らなかった神の剣技を持つ、血肉を分けた半身。
七つで生き別れ、十数年の時を経て出会い、その剣技に魅入られてすべてを捨て、ついには鬼となってまで生き延びた。
そうして数百年の時を経て尚追いつけぬまま、他の鬼滅隊に斃されたのである。
それがどうしてか。記憶を持ったまま再び人として生きることになってしまった。
だというのに未だ己は何も変わっておらぬと、自嘲に唇を歪ませる。
鏡から離れ、自室のドアを開けた。すぐ目の前にある向かい側のドアを開く。魂に沁みついた経験故に音を立てぬよう、カーペットの上をすべるように進めば目当ての人物は深い眠りについていた。
枕に散った短い赫灼の髪。瞳を閉じた端正な顔はすでに青年と言っても良い。
太い首、がっしりとした肩、厚い胸板が静かに上下している。
一層気配を抑えてベッドに近付いた。
今世では双子ではない。5歳ほど先に生まれているため、巌勝の兄として記憶がなくとも穏やかに接してくれる。
そぅ、と布団をめくりあげて滑り込むと、無意識に動いた太い腕がゆるく巌勝をかかえてくれた。
熱いほどのぬくもりが巌勝を一気に包み、知らず強張っていた体が弛緩していく。
縁壱は今世でも体温が高く、巌勝は非常に低い。悪夢を見やすいのは、そのせいもあると思われた。
去ったはずの眠気が再びあふれ出るのを抑えることなく瞼を伏せる。
ほう、と安堵にも似たため息。深い大樹に似た匂いをいっぱいに吸い込んで、巌勝は夢を見ないほど深い眠りの海へ旅立った。
…………
燦々と輝く朝日が朝を告げている。ガラス窓の向こうを見れば、今日も晴天な様子。
枕元に置いた携帯のアラームが鳴り響く前に停止ボタンを押した。ついで、そぉっと毛布をわずかにめくりあげる。
縁壱にぴったりとくっついたまま、起きる様子もなくすうすうと寝入っている可愛い弟に、目じりが下がった。
「みちかつ」
弟の名前は継国巌勝。無表情を通り越して虚無だ能面だと称される縁壱があからさまに分かるほど溺愛している、大事な五つ下の弟である。
パジャマ代わりのTシャツの裾を握りしめている弟が大変可愛い。何はともあれ写真を撮って即座に保存した。うん、今日も弟が可愛い。
本当なら天使の寝顔をもっと堪能したいところなのだが、あいにく今日は平日だ。縁壱は仕事だし巌勝も学校がある。
断腸の思い(能面)でくるりとまるまった細い肩を、そうっと揺すった。
「みちかつ、みちかつ。おはよう。朝だ」
「……んー……」
「みちかつ?起きられるか?」
「……ぉ、きる……」
まだ大分眠たげな様子だ。おそらく昨日も悪い夢を見たのだろう。
巌勝は体温が低く、眠りが浅い。そのためかよく夢を、それも悪い方をよく見るようだ。
年中体温の高い縁壱とくっついていればそれも和らぐのだが、自立心が強い弟はあまり甘えてくれない。
こうして布団に潜り込んでくれるまでの攻防戦を頭の片隅に押しやり、今度はもう少し強めに肩を揺さぶった。
「巌勝、起きないなら運ぼうか?」
「…………ゃだ……」
「迷惑でも何でもないぞ」
「……いい……」
切れ長の瞳をしょぼしょぼさせながら、巌勝が猫のようなしなやかさで身を起こす。
ふらつきながらもきちんと自室に戻る、甘えない華奢な背中を見送り、残念な気持ちで自分も着替えに戻った。
…………
「というわけで巌勝が甘えてくれないんだ。どうしたらいいと思う?」
「巌勝君は元々自立心が強いですからね。大分甘えてくれる方だと思いますよ」
「縁壱の甘やかしが足りないんじゃないかのう?」
ここは縁壱の働く竈門食堂。店主の炭吉と縁壱はキッチン担当。炭吉の妻すやことバイトのうたは接客を主に担当している。小さな店だがそれなりに繁盛しており、開店して数年たった今では常連も数多い。
ちなみに隣のかまどベーカリーとは炭吉の親戚筋にあたり、縁壱もよくお世話になっている。食の細い巌勝が控えめに食べたいといってくれるほどおいしいので、よく買いに行ったり、余りを貰っているのだ。
特に炭吉の兄炭十郎の長男、甥っ子の炭治郎は試作品のパンをよくくれる(しかもほぼ完成品)のでお金を渡そうとしても頑として受け取らない。
普段は優しくて穏やかなのだが、こうと決めたら引かない部分はやはり竈門一族らしいと思う。
閑話休題(それはともかく)、目下の問題は大事な可愛い弟が縁壱に寄りかかってくれないことだ。
中学から付き合いのある気心の知れた友人に悩みを言えば、正反対の答えが返ってきた。
小首を傾げる。同じように首を傾げたのはうたと炭吉だけではなく、膝の上にいるすみれもまろい首を体ごと傾けてこてりと倒れた。
座り直させるついでに頭をなでてやるときゃっきゃとかわいらしい声が喜んでくれる。
「甘やかしか……足りないだろうか?」
「それはないと思います」
「そうかのう?」
「ええ」
炭吉お手製の炊き立てご飯とみそ汁、漬物に焼き魚という純和風の献立を休憩時間に取りながら、きっぱりと言い切られた。
竈門食堂では昼時を過ぎて客が一番少なくなる時間帯に一度閉店し、昼食の時間をきちんととっている。働きづめだと体がもたないからだ。
それはかまどベーカリーでも同じことで、三日に一回は予定を合わせて一緒に食べてくれる。大柄な縁壱にも全く怯えるどころか懐いてくれるのだ。ありがたい。
「むしろもっと甘やかしたのだが、巌勝が遠慮するんだ」
「甘やかしたいのはわかったが、具体的にはどんな感じじゃ?」
「片時も離れないでずっと抱き上げていたい。風呂も全身洗ってあげたいし、食事も俺の手で食べさせたいし、最近ようやく布団に潜り込んできてくれたから、一緒に布団に入って一緒に寝たい」
「……巌勝くんが自立心高くてよかったのう。実行してたらお巡りさんに電話しとったぞ」
「本当ですね。すやこがいなくてよかった」
「?駄目だろうか」
「「確実アウトじゃ」ですね」
「あうとぉー!」
そうか、ダメなのか。一部の隙も無くレッドカードを出された縁壱は、味噌汁を手にがっくりと項垂れた。
とりあえずここまで考えたので一回切ります。