相変わらずのよりみちです(笑)
とある相互様の花魁みて思わず思いついたやつです。
スズラン「再び幸せが訪れる」「純粋」
カスミソウ『無垢の愛』
『お花をどうぞ』
愛らしい子供の声と共に差し出された一輪の花。
促されるまま手に取れば、白い質素な花はスズランに姿を変えた。
お代を、と止める間もなく子供はそのままするりとすり抜けて別の客に花を渡している。様子を見るに、どうやら金は要らないようだ。
すらりと伸びる茎を回すと、愛らしい鐘がいくつも連なり揺れる。
「お侍さん」
その場に立って矯めつ眇めつスズランの愛らしさを確かめているとすぐ傍の男が縁壱に声をかけてきた。
顔を向けると印象が定まらないぼんやりとした男の顔。同じように手に花を持っている。それもまた、どうにも形がよく見えない。
「お侍さんは、どこに行くんだい?」
「どこ……とは?」
「ここは『唯一』を見つける場所だ。あんたも、それを探しに来たんだろう?」
「『唯一』……」
ぼんやりと反芻する縁壱に男がにぃぃと唇を歪ね、花で行く先を指示した。
広い道。歩く人に老若男女の区別はなく、誰もが花を持っている。空は真っ暗だが垂れ下がる提灯に照らされ、足元は明るい。
鮮やかな朱色の格子から伸びる腕は細かったり太かったり、あるいは白くも黒くもあった。こちらにも性別や年齢の区別はない様だ。
見る先で小さな子供が精一杯腕を伸ばして、格子の先にいる女性へ花を差し出した。
簡素な薄絹だけを身に纏った女性がそれを受け取ると、子供と共に掻き消える。
視線を巡らせれば、そんな光景はあちこちで繰り返されていた。
「そう、ここはたったひとつがある場所。『唯一』だと思う相手に花を渡して受け取ってもらえたら一夜の夢を見れる場所さ。まあ、それがどんな形かはお互いにしかわからんがね」
「一夜、ということは……」
「なんだ、あんたそんなことも分からずに来たのか?そうさ、ここは花街。死した後の欲望を開放する、色街だよ」
ーーー
「早く探さないとあんたの『唯一』も他の誰かに取られちまうかもな。早く動いたほうがいいぜ」
縁壱にそう言い捨てて、男は自らもどこかへ消えて行った。男の『唯一』を探しに行ったのだろう。
動かない縁壱を追い越す人々の群れにせかされるように足を踏み出した。
どこへとも知らず、ただぼんやりと流れに沿って歩いていく。
そうしているうちにひとつ、またひとつと明かりは減り、人通りも途絶えた。
なおも進む道は暗く狭く、しかしためらうことなく足を速める。
大柄な縁壱では進むに苦労するその突き当りで、ぽつりと古びた提灯がひとつぶら下がっていた。見れば破いた隙間から除くロウソクは短く、かろうじて灯った炎も小さい。
ほとんど見えない格子の奥。夜目の利く縁壱でもようよう輪郭を覗き見える人物は、こちらに背を向けていた。
ほんのわずかな呼吸で上下するたび、つややかな髪にいくつも刺さった金の簪がちかちかと明かりを反射している。その身に纏った打掛も布面が柔らかく光沢があり、重厚感のある絹の紋織物、いわゆる緞子(どんす)と呼ばれる高価な代物だ。正直このような場末にいるには、あまりにふさわしくない格好である。
凛と伸びた姿勢も美しく、厳しくも高貴な生まれであることが知れた。髪と着物の隙間から除く青白いうなじは太くたくましく、男として見事に鍛え上げられている。その反面、無自覚だろう漂う艶と色はすさまじい。恐らくここにいるのが縁壱以外であれば、即座に理性を無くして襲い掛かっていただろう。
手にしたスズランが白いカスミソウに姿を変えた。それを知覚しないまま、手を伸ばす。
「兄上」
透き通る世界を使わなくてもわかる。わかってしまう。
縁壱の知る誰よりも強く迷いなく優しく清らかでうつくしいひと。
誰より優しくて、誰よりうつくしくて、誰よりも愛(哀)しいひと。
縁壱が『唯一』救えた人。
……縁壱が、『唯一』鬼に堕とした人。
「巌勝(あにうえ)」
迷子のような声に、ぴくりと肩が跳ねた。簪の飾りがこすれ合い、しゃらりと涼やかに音を鳴らす。縁壱に気づいたことは明白。されど、兄は振り向かない。
差し出したカスミソウが、寂しげに白く揺れる。
「……ぁに、ぅぇ……」
無知な子供のようにそれだけを繰り返し、しかしそれ以上何も言えない縁壱に、己のものではない深いため息。
細長い金の簪と、絹と畳で奏でられる衣擦れ。
一切の隙無く立ち上がった兄が、優雅に振り向いた。
指先で裾を捌いて一歩、格子越しに近付く。ほんのわずかな明かりに浮かび上がった白い足袋。豪奢な打掛。腹の前に結んだ大きく華やかな帯。後ろ襟をうなじから背中にかけて大きく開けるような抜き襟から除く形の良い鎖骨。
決して細くもたおやかでもないのに欲を誘う、しなやかな首筋。
「あにうえ」
人ではありえない相貌。金眼赤目の、六つ目が縁壱を射抜いた。
真ん中の一対が眇められる。唇を真一文字に結んだまま、花を受け取る様子はない。
手を引き、膝をついた。鬼という異形になろうとも、やはり兄は美しい。
ごめんなさい!出かけることになったのでここまでになります!次の機会ありましたらまたよろしくお願いしますね❤ではしつれいしました~!!