いつしか浅い眠りに突入していたようだ。月島は朝日で白くなった天井を眺め、スプリングを軋ませないよう慎重に上半身を起こした。小窓のカーテンは全開で、狭い部屋の隅々まで明るく照らし出している。影山は隣で静かな寝息を立てていた。眼鏡なしでは顔のパーツをぼんやりと捉えるくらいしかできなかったが、彼の頬にはもちろん涙の跡などなく、瞼の下の白目も澄んでいるに違いなかった。
気づかれないうちに姿を消すにはどうしたらいいんだろう。半ば眠っている頭を叱咤し、手順を頭に思い浮かべる。——息をひそめてベッドを下り、静かに服を拾い集めて、結局使わなかった自室に戻る。急いでシャワーを浴びてチェックアウトを済ませ、米原行きの電車に飛び乗る。そこから東京駅を経由し、仙台駅までは五時間強の道のりだが、今日に限っては一瞬で過ぎ去り、疲労を感じる暇もなく実家にたどり着けるはずだ。
動き出しさえすればあっという間にこの場を過去にできる。痛いほど分かっているのに、最初の一歩を踏み出すために永遠とも言える時間を浪費してしまうのは、課題に取り組むときと同じだった。ぎりぎりになるまで放置してからようやく踏ん切りがつくのも、もっと早く着手しておけばこんなに苦しい思いをしなくて済んだのに、と後悔に苛まれることも。
自分を乗せたベッドが小刻みに揺れても、月島はヘッドボードに背をつけたまま、シーツの下に隠れた足先が冷たくなっていくのを感じていた。寝言のような、意味をなさない呟きが下から聞こえてきても、無視できないほど大きな揺れが視界をぶれさせ、「起きてたのか」とくぐもってはいるが明確な呼びかけが届いてきても。
「まだ六時前だぞ」
影山はそう言って月島の腕を引いた。この一年間そうであったように、月島には彼の力に抗う術がなかった。呆気なくベッドに引き倒されて、自分に覆いかぶさる濃い影を見つめた。既に覚醒しているらしき彼の視線は、自分の顔ではなく、そのやや下方に向けられているようだった。月島はそっと右手を顎にやり、顎の裏をつたって喉仏まで下ろした。影山の唇が得意げに歪んだ。
「まさか」月島は首の前面の皮膚を撫でさすった。
影山は何も言わなかったが、
「ほんとに俺のことが好きなのかよ」
大っ嫌い、月島はシーツを頭のてっぺんまで引き上げながら濡れた声で吐き捨てた。
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ここまでが下書きで、これをもとに本文として整えたのが以下です。ただし前後のパーツがないまま書いたので、最終的に1000字くらいに削ると思います。
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いつしか浅い眠りに突入していたようだった。月島が薄く瞼を開いたとき、部屋の天井は薄く白んでいた。全身が気だるさと疲労に包まれていたが、とりわけ頭が重かった。まだ起きたくない。月島は寝不足による間延びした思考でそう結論し、シーツを肩まで引っ張り上げて寝返りを打とうとした。しかしシングルベッドの狭さがそれを許さなかった。壁に膝がぶつかり、それなりの音が響いた。
一気に目が覚めたが、影山を起こすには至らなかった。彼は一度喉を鳴らしたきり、静かに寝息を立て続けていた。月島はスプリングを軋ませないよう慎重に上半身を起こし、ベッドの中央に陣取っている男の顔を眺めおろした。眼鏡なしでは顔のパーツをぼんやり捉えるくらいしかできなかったが、その頬にはもちろん涙の跡などなくて、瞼の下の白目も澄んでいるに違いなかった。
気づかれないうちに姿を消すにはどうしたらいいんだろう。ヘッドボードに背をつけたまま、手順を頭に思い浮かべる。息をひそめてベッドを下り、静かに服を拾い集めて、自分のために取った部屋に戻る。急いでシャワーを浴びてチェックアウトを済ませ、米原行きの電車に飛び乗る。そこから東京を経由し、最終目的地の仙台駅までは五時間強の道程だが、今日に限っては長いと感じる間もなく過ぎ去ってしまうはずだ。
動き出しさえすればあっという間にこの場を過去にできる。そんなことは痛いほど分かっているのに、最初の一歩を踏み出すために永遠ともいえる時間を浪費してしまうのは、苦手な業務に取り組むときと同じだった。ぎりぎりになるまで放置しなければこんな苦しい思いをしなくて済んだのにと、あとで必ず後悔に苛まれるところも。
自分を乗せたマットレスが小刻みに揺れるのを感じながら、月島はシーツの下に隠れた冷えた足先をこすり合わせて、今は恒温動物って言わないんだよな、と考えていた。哺乳類だって冬眠すれば体温は下がるんだし。
「起きてたのか」
くぐもってはいるが明確な呼びかけが下から聞こえてきた。タイムアウト。胸の内で月島が呟くのと同時に、熱い指が手首を掴んできた。
「まだ六時前だぞ」影山はそう言って月島の腕を引いた。
この一年間そうであったように、月島には彼の力に抗うすべがなかった。呆気なくベッドに引き倒されて、自分に覆いかぶさる濃い影を見つめた。そしてじゅうぶんに覚醒しているらしき彼の視線が、己の目元ではなく、そのやや下方に向けられていることに気づいた。月島はそっと右手を顎にやり、首との付け根に持っていった。喉仏まで下ろしたとき、影山の唇が得意そうに歪んだ。
「まさか」
月島は首の前面の皮膚を撫でさすった。影山は何も言わなかったが、あえて確かめるまでもなかった。どいてよ、月島は小声で言って彼の身体を押しやり、裸足でバスルームに駆け込んだ。
生々しい鬱血の痕は想像通りの場所にあった。信じられない。かっと全身の血が沸き立ち、目尻に涙が滲んだが、もはやどうしようもなかった。月島は熱いシャワーを浴びて、髪を雑に乾かし、昨晩脱いだ服を再び身に着けた。鞄には新しい下着も入っていたが、わざわざ取り出す気にはとてもなれなかった。最後に、軽く汗をかきながらも、ショートダウンのファスナーを一番上まであげた。影山はベッドに起き上がって、そんな月島の様子を漫然と眺めていた。
「お前、ほんとに俺のことが好きなのかよ」
結局使わずじまいとなったカードキーを手に月島が部屋を出ていこうとしたとき、彼はようやく口を開いた。
「……大っ嫌い」月島は振り返ることなくそう投げつけ、叩きつけるように扉を閉めた。
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何度も打ち直した結果は以下の通り。
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穏やかな諦めの中、何度も精を吐き出して、いつしか意識を失った。
再び瞼を開いたとき、部屋の天井は既に薄く白んでいた。全身は疲労に包まれ、とりわけ頭が重かった。まだ起きたくない。月島は間延びした思考でそう結論し、シーツを肩まで引っ張り上げて寝返りを打った。しかしベッドの狭さがそれを許さなかった。壁に膝がぶつかり、それなりの音が響いた。
一気に目が覚めたが、影山は喉を一度鳴らしたきり静かな寝息を立て続けた。月島は痛む膝をさすりながら、スプリングをきしませないよう慎重に上半身を持ち上げ、ベッドの中央に陣取っている男の顔を眺め下ろした。眼鏡なしでは目鼻の輪郭すらぼやけていても、その頬には涙の痕などもちろんないに違いなかった。
こいつが起きる前に姿を消すべきだ。ヘッドボードに背をつけたまま、手順を頭に思い浮かべる。ベッドを降り、服を拾い集めて、自分のために取った部屋で熱いシャワーを浴びる。チェックアウトを済ませ、金沢行きの電車に飛び乗る。そこから上野を経由し仙台駅までは五時間強の道のりだが、今日に限っては長いと感じる暇もないはずだ。
動き出しさえすればあっという間にこの場を過去にできる。そんなことは痛いほど分かっているのに、最初の一歩を踏み出すために永遠ともいえる時間を浪費してしまう。自分を乗せたマットレスが小刻みに揺れるのを感じながらも、月島はシーツの下に隠れた冷たいつま先をこすり合わせて、今は恒温動物って言わないんだよなと考えていた。動物の体温調節機能は多様で、単純に二分することはできない。哺乳類でも冬眠すれば体温はぐっと下がるし、零度以下の外気の中を活発に飛び回る昆虫もいる。
「起きてたのか」
くぐもってはいたが明確な呼びかけが下から届いて、タイムアウト、と胸の内で呟いた。
「まだ六時前だぞ」
影山は時計を見て月島の腹を抱いた。この一年間そうであったように、月島には彼の力に抗う術(すべ)がなかった。呆気なくベッドに引き倒され、自分に覆い被さる濃い影を見つめた。
「もう出てくよ」
「何でだよ。朝飯食うだろ」
素泊まりだよ。舌打ちとともに返しながら、じゅうぶんに覚醒している彼の視線が、自分の目元よりやや下方に向けられていることに気づいた。右手の先を顎にやり、首の付け根に持っていく。指を喉仏まで下ろしたとき、影山の唇が得意そうに歪んだ。
「まさか」
拘束から逃れて、裸足でバスルームのドアを押した。小さな鏡を覗き込む。生々しい鬱血は想像通りの場所にあった。信じられない。月島はしゃがみ込みそうになるのをこらえてバスタブを跨ぎ、カーテンも引かずに蛇口を捻った。
昨夜の残滓をきれいに洗い流してしまえば、あとは頭を空っぽにして、機械的に手順をなぞるだけだった。歯を磨いて髪を乾かし、脱ぎ散らかした服を身につける。机の上の眼鏡をかけて、スマートフォンはポケットに突っ込む。最後に、軽く汗をかきながらもショートダウンのファスナーを最上部まで上げた。
影山はベッドに起き上がってそんな月島の様子を漫然と眺めていた。月島が使わなかったカードキーを拾い上げ、部屋を出ていこうとするとようやく口を開いた。
「お前、ほんとに俺のことが好きなのかよ」
大っ嫌い。
「あ?」
振り返って見た彼の顔に期待めいた光が宿っているのを認めて、いっそ笑い出したくなった。言葉通りの心境に至るまでに必要な時間が短く済むことを祈りつつ、月島は一人でひと気のない内廊下に出た。