「ありがとうございました法師様」
「いえいえ」
辰の刻の五ツ時に共に村を出て一刻半ほど歩いた場所にある、楓の村よりも大きく人も多い集落での仕事。
秋から冬に移り変わろうという時期という事もあり、獣が冬眠前に腹を満たすように、妖怪も厳冬に備えてか人里を襲う事が増えた。
妖怪に襲われ困り果てる人々や村には申し訳ないと思うが、一年の中で一番稼げる時期ともいえる為、不謹慎この上ないが有難い。
と言っても、妖怪と本当の意味で戦っているのは弥勒ではなく相棒の少年なのではあるが。
今日も常と変わらず、弥勒の貼った破魔札によって巣食っていた馬小屋から飛び出した爬虫類と虫の混ざったような妖怪を少年が両断し、呆気なく元凶を葬ったのだった。
そして現在、弥勒は村長と報酬の交渉をしているところである。
「こちら、お約束の米三俵と、この村で採れた野菜です」
「野菜も頂いて宜しいのですか?」
勿論頂く気ではあるが、一応形だけ村長に問い掛ける。
村長は朗らかに笑い頷いた。
「態々ご足労いただきましたので。どうぞ受け取って下さい」
「そういう事でしたら、有難く頂戴いたします」
弥勒は手を合わせ礼を言い、少し離れた所で腕を組み蒼空を見上げている少年の方へ顔を向けた。
何を見ているのか、と蒼空に少し目を向ければ、高い所で二羽の雀が戯れながら飛んでいるのが分かった。
全く、随分と可愛いものを見ているものだと苦笑を隠さずに弥勒は少年の名を呼んだ。
「………なんだよ」
相変わらず不機嫌そうな声色をしている少年には答えず、ただ無言で足元の報酬を指差せば、少年の方も無言で弥勒の横に寄って来て左肩に二俵担ぎ、右腕に一俵抱え、次いで取り残されていた漬物を包んだ3貫程の重さの風呂敷包みを足の指で抓み左肩の二つの米俵の上に投げ乗せた。
そして弥勒や村長には目もくれずさっさと歩き出す。
「では、私達はこれで…」
「あ、法師様、ひとつ宜しいかな?」
「なにか?」
村長に呼び止められ、弥勒は踵を返しかけていた足を戻した。
村長はちらりと赤と銀の背中に視線を向ける。
「法師様はあの少年を仏弟子と言っておられましたが、違うのではないですかな?」
「は……、それは、どういう…?」
弥勒の眸に一瞬鋭い光が走った。
村長はその光を見て緩く首と手を振った。
「他意はありませんぞ。やけに強い仏弟子と法師様が妖怪退治をしておると聞いておったのですがな、実際にこの目で見ると……仏弟子というより、ご友人同士というように見えてなりませんでしたので」
「……友人同士、ですか?」
「はい。あの少年は半妖だと聞き及んでおりますが、人間の老いぼれが言うのも可笑しな事ですがな…どうにも人間らしい少年に思えてなりませぬ。人と半妖、というより人と人の友人に見えましたので」
お似合いですな、と呵呵とした村長が頭を下げた。
弥勒は何とも言えぬ、温かいような寒いような心待ちで会釈をし、村の出口で律儀に待っている少年の元へ今度こそ踵を返した。
朝は急ぎ足で歩いた山道を、気持ちゆっくり足を揃えて歩く。
時折ひゅるりと冷えた風が頬を撫で、本当に冬が近付いているのだなぁと吞気に思いながら歩を進めながら、しゃらしゃらと耳許で聞こえる錫杖の音に耳を傾けた。
「……あのじじい、妙なこと言ってやがったな」
「はい?」
突然の問い掛けに、弥勒は珍しく気の抜けた声を出した。
それに、何呆けてやがんだ、と溜息混じりの声が落ちた。
すまんと言えば今度は鼻を鳴らされる。
「何の話だ?犬夜叉」
「俺とお前が友達だって話だよ。あのじじい、目でも悪いんじゃねぇか?」
そう言って少年────犬夜叉は黄金色の眸を弥勒に向けた。
空高くにある日輪の光を受けてキラキラと眩しい獣目に、弥勒は眸を細めた。
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弥→犬 (友情的意味) 執筆途中
初公開日: 2021年08月17日
最終更新日: 2021年08月18日
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犬かご弥珊が前提の弥→犬