女にとって、世界とは恐ろしいばかりだった。
 昼は霧深く、夜は満天の星に囲まれる、暖かい海の小さな島に、その女は生まれた。
 ふんわりとした黒い巻き毛を長く伸ばした、背が高く華やかな笑顔の母親と、いつも背筋を伸ばし、つんとした笑みの凛々しい祖母に育てられ、何不自由なく健やかに育った__わけではない。
 七つの誕生日を向かえるまで、女の世界というものは曖昧だった。泣きも、笑いも、怒りも、薄らぼんやりとした幕を隔てた様にはっきりとせず、その感覚は己の物であって己の物ではない。女にはっきりとした意思が宿ったのはその夜が初めてで、自分を包んでいた暖かい布が取り払われたように、頭にかかっていた霧が吹き飛ばされたように、ありとあらゆるすべてのものが目新しく、鮮やかになったのだ。
 思い出す、という感覚が一番近かっただろう。その日、女は別の世界で生きた記憶を取り戻した。その世界で女は青年であり、大陸はもっと大きく、人の住む場所はもっと狭苦しく、身近にある海は濁って、星はほとんど見えなかった。
 ドキドキと、青年の胸が高揚によって激しく動く。見たことない食べ物、見たことない植物、見たことないほど広い海、どこまでも見渡すことのできるこの星空!何でも出来そうだという途轍もない万能感が心を満たし、当てもなく駆け出した。
 あれも、これも、見たことがない!あれはいったい何だろう!これは一体なんだろう!あちこち見渡しながら走り回って、どん、と何かにぶつかった。
 とてっと尻もちをついて、はしゃぎ過ぎてしまった、と一人照れながらぶつけた鼻をさすり顔を上げようとして___宙を舞う。
 わけも分からず地面に叩きつけられ、ゴロゴロと転がり倒木にぶつかった。
 いたい、いたい、痛い。なにが起こったのだろう。なにが?痛い、熱い、いたい。息が出来ない、背中が、腕が、額が、おでこが、いたい!だらりと何かが額を伝っている。起き上がれない。痛い。何かが近づいてくる音がして__いたい!痛い!痛い!!
 ぐい、と髪の毛を握られて引きずり上げられ、ぼろぼろと泣きながら目を開けた。どこまでも見える星空、見たこともない植物、見たこともない、見上げるような__恐ろしい男。
 ゆうに3メートルはあろうかという大男が、青年の髪を握り、おもちゃでも扱うかのように吊り下げていた。なんだろう、これは。何が、起きているんだろう。青年の頭を握りつぶせてしまいそうなほど大きな手が近づく。恐ろしい、怖い、わからない、この人は?人なの?だれ、痛い!
 大男は青年の額をぐいと押し、きっと、転がった時に小石で切ったんだろう、血が流れているのを見ると大きく舌打ちをした。そしてそのままガラガラした大声で、女がどうの、値打ちがどうのと青年を揺さぶりながら怒鳴りつけた。青年は乱暴な男の扱いによってぶちぶちと千切れる髪や、すりむいたり、切ったりした体の痛みで何を言っているのかはわからなかったが、この男が、村にいる大人たちではなくて、そして決して、良い人間ではないと言う事だけを理解した。
 男は一通り怒鳴りつけると気が済んだのか、投げ捨てるように青年を放し、そしておもむろに、青年の身長ほどもある大きな武器を手に取った。黒く、大きな影が青年を覆う。
 ガタガタと体が震えて、助けを呼ぼうにも、ひ、ヒッという息を吸う音ばかりで声が出ない。いたい、怖い、おそろしい、死にたくない!
 そうやって目をつむって、ぎゃあ、という男の動揺した声に気が付くと、青年は母に抱えられ走っていた。細い体のどこからそんなスピードが出ているのかという速さで村を駆け抜ける。あちこちから火の手が上がっていて、荒っぽい男たちの罵声とたくさんの悲鳴が聞こえる。母は止まらなかった。
 村のはずれにある港まで走り抜けて、そこにいた何人かと大急ぎで船に乗り込んだ。青年の祖母と、祖母の友人、隣の家の老爺は乗らず、船に乗った男たちと怖い顔で話している。祖母はこちらへ来て震える青年と母を強く抱きしめると、何事かささやいて、血が付くのにも関わらず額にキスをした。
 とびきりの紅を塗ったみたいに美しい唇で、青年の祖母はにやりと笑い、いつも掛けていたサングラスと細い首飾りを母に手渡した。そして蹴りだすように船を押すと、まるで何かに引き寄せられているかのように船がぐんぐん進んでいく。そしてずっと沖に出て、島がずぅっと小さくなったころ、一筋の光の柱と黒いドーム状の物が島を覆い、一瞬すごい勢いで船が引き寄せられた。ひっくり返りそうなほど大きく揺れる船の上で、青年を抱きしめた母が子どもみたいにわんわん泣いている。青年は未だ恐怖に震えながら、わけが分からないなりに周りを見渡して、みんな大なり小なり怪我をしていて、そしてみんな泣いていることに気が付いた。なにかに襲われたんだ、とぼんやり理解して、きつく抱いて離そうとしない母の温かい腕の隙間から祖母が別の船で追いかけてくるのを探そうと……息をのむ。
 
____島は無くなっていた。
 昼は霧深く隠されて、夜は満天の星に囲まれる、暖かい海の小さな島。
『女』が生まれたこの一族は、みんな特別な瞳と、特別な力を持っていた。
明るいところでは黒々と、暗いところではきらきら光る、宇宙を‘‘そのまま‘‘はめ込んだ、特別な瞳。
 空に輝く星々にとって、『女』の一族は小さくてかわいらしい良き隣人、良き住処だった。星々は人間が見上げる天に広がり、そして彼女たち一族の瞳の中にも存在しているのだ。
 星々は隣人の声にいつも応えてあげた。彼等と比べると小さくてかわいらしい生き物の、さらに小さな脳みそでは、彼等の声が大きすぎて壊れてしまった子もいるけれど、星々が見える範囲であればなんだって教えてあげたし、困っているなら力を貸すよと声をかけた。
 特別な瞳と、特別な力は、特別じゃない人たちからしたらとっても珍しくて、宝石みたいにコレクションしたがる人がたくさんいたから、いつからか『女』の一族はその小さな島に隠れ住むようになった。
 そうして隠れて暮らすうちに、霧に阻まれたり、雲に隠されたり『女』の一族は星々の言葉が少しずつわからなくなっていった。一族の皆はそれでもかまわなかったけれど、星々の警告も聞き取れなくなっていたから、一族を捕まえに来た特別じゃない人たちに気付けなかった。
 そのときいちばん星々と話が出来た3人は、大切な家族を守るため、よく話し合って欲しがりの星を呼ぶことにした。なんでもかんでも引っ張って、吞み込んで、なかったことにしてしまう星だから、特別じゃない人たちも、自分たちの居た痕跡も、全部持って行ってくれるだろうと。
 遠くとおくのお星さま、しんでしまったお星さま、さみしがりのお星さま。ここにある、何もかもをさしあげます。全部持って行ってください。わたしたちも共に行きます。どうかのこった家族を守ってください。
 星々からすれば、欲しがりはとんでもない厄介ものだったから、隣人たちのその声は寝耳に水だった。ずっと昔にしんだくせに、さみしい欲しいと持って行く。欲しがりなんて呼んだら最後、ちいさな隣人たちなんて欠片も残らなくなってしまうだろう。3人の声は、とびきり遠くにいる欲しがりに届けるには小さなちいさな声だったけれど、星々はあわてて声が欲しがりに届かないよう、ざわざわと光り輝いた。妙に騒ぎ出した星々を不思議に思った欲しがりは、隣人たちに意識を向けて、そしてその言葉によろこんで応えた。
 そうして3人は、たくさんの家族の死体と、らんぼうで特別じゃない人たちに囲まれて、大切な家族を守るため、誰も逃げ出せないようその欲しがりに島ごと全部あげてしまった。
 島を出て、いつも笑顔の母が青年を抱きしめて、そこでやっと、青年は青年が『自分』じゃないことに気が付いた。青年は、細身の母に抱えられてしまうほど小さな『少女』だったのだ。
 自分が『少女』であることを理解してからというもの、彼女は目に入る何もかもが自分の知っているものと乖離し過ぎていて、全部がぜんぶ恐ろしくなった。
 男たちが捕まえてくるわけのわからない姿をした獣は恐ろしかったし、時折船から見える海獣が船を飲み込むのを見た時は眠れなくなった。遠くの人間と会話が出来るという電伝虫だって、ウゾウゾと動き回る様は気色悪かったし、美しい母の頬に残る、赤茶色に引き攣れた醜い火傷痕を見れば、『自分』の世界にも在ったはずのろうそくの炎だって怖いものに見えた。
 『青年』は平和な場所で育ったから、誰かを傷つけるのは怖かったし、傷つけられるのはもっと怖かった。少女は船に乗った人間の中で一番幼かったから、誰よりも優先して守られていたけれど、狩りや、海賊、海軍の諍いで血を見るのは恐ろしくって、身近な人間が怪我をして倒れていくのを見ると恐怖のあまり吐き気がした。
 ある時は人攫いに、ある時は賊に、ある時は軍人に、ある時は海獣に。少女が成長していくにつれ、少しずつ、少しずつ。船に乗っている人間は、どんどん少なくなっていった。
 とうとう母と二人になった時、彼女は特別な瞳の隠し方や、特別な力の使い方を全て少女に伝えた。自分たちには特別な力があって、特別な瞳を持っていて、それを狙って悪い人がやってきたから、祖母やみんなはそれを足止めするために星のもとへ帰ったのだと。
 意味が解らなかった、そんな物は知らない、そんな力は持っていない。
 けれど、いつか鏡を見た時に、自分の眼球が白目も黒目もなく、ただぽっかりと黒い穴が開いているのを見てしまっていたから、少女は母に何も言えなかった。
 ある時、彼女はいつも身に着けていたサングラスを少女にかけ、光り輝く目をしっかりと合わせながら言った。
 逃げなくてはいけないこと、隠れなくてはいけないこと。そして最後に、あなたの全部を言ってしまってもいいくらい素敵な人を見付けて、きっと幸せになること。
 彼女は目を潤ませながら、大切な人にあげてね、と首飾りを少女に渡し、その温かい腕でぎゅうっと抱きしめた。おでこにとびっきりのキスをして、きっとよ、と。きらきらぴかぴかの笑顔をみせて、そして行ってしまった。
 独りで生きるのはこわくって、少女の体は恐怖と緊張でいつも冷たかった。
 母譲りの健脚で逃げるのは得意だったけれど、たくさん怪我をしたし、手当の方法なんて知らなかったから随分痕が残った。痛くても、蹲っていたら捕まってもっと酷い目にあってしまうし、泣いたって寄ってくるのは悪い奴ばかりだ。
 かえりたくて堪らなかった。どこにと聞かれれば母の下に、祖母の下に、穏やかだったあの島に、退屈ながらも平和だった『あの世界』に。
 帰れる故郷も、家族も無くなっている。唯一残った『あの世界』も、どうやって帰ったらいいのかなんてわからない。そもそも存在するのかだって疑わしい。
 それでも、少女にとって世界は恐ろしいばかりだったから。奥歯を噛みしめて、悲鳴を押し殺して、怯えながら震えながら。どこに帰るのかすらもわからないまま、探し続けるしかなかった。
 そうして少女が独りで逃げるのにも慣れたころ、いつしか『少女』は、ずいぶん美しい『女』になっていた。
____________
 久しぶりに血が止まらないような怪我をした。
 ざらざらした男達の罵声と、市民たちの驚く様を尻目に、道行く人をすり抜けるようにして走る。
 今日の宿を探す内に、少し治安の悪い場所に出てしまったのが運の尽きだったんだろう。あっという間に破落戸に絡まれ、あまりのしつこさに突き飛ばすようにして逃げ出せば逆上した男に切りかかられてしまった。間一髪の所で切り捨てられるような事こそ避けられたものの、ざっくりと切られた背中からだくだくと血が流れて、地に足をつけるたび痛いのとあついのが滅茶苦茶になって気が狂いそうだった。何とかしてこの島まで乗せてくれた商船に戻りたかったが、いつの間にか追ってくる男たちは随分増えてしまっていたから、こんな大騒ぎになってしまえば例え港に辿り着いたとしても船に乗せてくれることは無いだろう。
 どこかで身を隠そうにも、この島に来たばかりの女に地の利があるはずもなく、とにかく人通りの多いところで撒くしかない。男達との距離を図るため、曲がり角で一瞬後ろを振り返ったのが悪かったのか。ドンッと何かにぶつかって、跳ね返されるみたいに壁に背中を打って倒れ伏した。
「あ、ッぶねェなおい何しやがる!」
 まずい、と女は思った。立ち止まったら二度と走りだせない自覚があったから痛くても苦しくても走り続けていたのに、こんな風に倒れ込んでしまえばもう立ち上がれない。恐らく女がぶつかった、追ってくる男達の仲間ではないらしい青年に、せめて逃げろと言ってやりたかったがそんな気力も残っていなかった。ゼェゼェと喉から嫌な音がして、血が足りないのと汗と涙でじんわりと視界がぼやけ始めている。
 捕まるのがこわい、痛いのがつらい、死ぬのはもっと恐ろしい。
 もう嫌だ、かえりたい__終わりたい。
 そう考えた瞬間、唐突に力が抜けていった。
 いいかもしれない。痛いのもつらいのも苦しいのも、怖いのが全部終わるのなら、いいのかもしれない。それなら、と女は震えを我慢するために、冷たい指を握りしめる。そして砂っぽい地面に顔を擦りつけたまま、下がってくる瞼に逆らわず目を閉じた。
「チョッパー」
「わ! ゾロ! どうしたんだ?」
「こいつ診てくれ」
「……ぞ」
「あァ?」
「ゾロがオンナ誘拐してきたぁああッ!!」
「ちっげェよバカ!!」
 女がふ、と目を開けると、女はうつぶせになって真っ白い何かに顔を半分うずめていた。清潔な布と、消毒液の匂いがする。ざざ、ざざ、という波音に、ひとつ、ふたつとまばたきをして、ゆっくりと視線を動かすと、女は見知らぬ部屋で横になっているようだった。終わり損ねてしまったのだろうか、と一瞬体を起こそうとして、背中に走った痛みにそのまま沈み込む。
「あ! 起きたのか!」
 特徴的な、甲高い少女とも少年とも付かない声に話しかけられて、女は柔らかな枕からずるずると顔を横に向ける。
「よかった、なかなか目が覚めないから心配したんだ」
 こんまりとしていて、水色の大ぶりな帽子をかぶった、ぬいぐるみのようなシルエットが、ちょこちょこと女に向かって歩いてきた。
「おれ、チョッパーって言うんだ。お前、怪我してたんだけど、具合はどうだ?」
 なんだろう、この、何とも言い難い、きゅるりとした顔の、
「……たぬき?」
「トナカイだッッ!!!」
 動物がしゃべっている。
 ガァッと怒鳴られ、やいのやいのと騒ぐその、トナカイらしい生き物を無視して、女はもう一度清潔で柔らかい枕に顔を埋めた。本来喋るはずのない動物が、人の言葉を操るという非現実染みた事象に対し、じんわりと遠のいてく意識に抗わずきつく目蓋を閉じる。
 あぁ今日も、世界はずっと恐ろしい。
「きーてんのかおいっ! おいお前っ! ……アレ?」
 女がふ、と目を開けると、女はうつぶせになって真っ白い枕に顔をうずめていた。ざざ、ざざ、という波音にひとつ、ふたつとまばたきをして視線を動かせば、見知らぬ(・・・・)部屋で横になっている。女が背中の傷に響かないよう、ゆっくり、ゆっくりと慎重に動き、壁に肩を預けるようにして体を起こすと、背中だけにとどまらず、倒れたりぶつけたりした時の小さな擦り傷や切り傷まで丁寧に手当がされていた。追いかけてきた男達に捕まったにしては、拘束も何もされていない。ベットサイドに目をやれば、女の衣服がきちんと畳まれ、母の首飾りと祖母のサングラスがその上に乗せられていた。
「……起きたのか」
 びくっ、と女が肩を跳ねさせる。途端、鋭く走った痛みに女が半泣きになりながら声の方に視線を向けると、あの(・・)生き物が、扉から顔半分だけを隠してじとりと女を見つめていた。体は丸出しだが、隠れている、のだろうか。女がだらだらと冷や汗をかきながらサングラスをかけると、生き物もびくっと体を跳ねさせて汗をかき始める。
「おれ」
「ひっ」
「ヒィッ」
 その生き物が何事か喋ろうとするのに女が息を呑むと、それ以上に大仰に生き物が悲鳴をあげる。女が首飾りに手を伸ばすと、生き物も扉についた手?を伸ばして、体操のように体を曲げた。女は困惑と恐怖で、生き物も困惑と焦りで、お互いにじっと視線を外せなかった。
「チョッパー、お前なぁにやってんだ?」
「うわぁッ!!」
 突如としてかけられた第三者の声に、その生き物が飛び跳ねてころりと転がる。起き上がった生き物が、びっくりしただろ!と怒るのにわりィわりィと笑いながら、麦わら帽子をかぶった青年がふらりと部屋に入ってきた。大きな傷を胸につけた青年に女が警戒を強めると、青年はパッと表情を明るくしてずかずかと女に近づいた。
「おー! お前やっと起きたのか!」
「あっ、そ、そうだ! さっきも言ったけど、具合はどうだ?」
 青年がぐい、と顔を近づけるのに女が身を引けば、背を伸ばしたせいで傷の痛みが強くなった。ベットの足元に寄ってきた生き物に怯えながら、女が何も言えずにぎょろぎょろと青年と生き物とを交互に見ていると、首を傾げた青年が生き物を抱えて椅子に胡坐をかく。
「なーにビビってんだお前ェ? チョッパー別になんもしねェぞ?」
「そ、そうだぞ! おれ、医者なんだ! だから怖がらないでくれ」
「チョッパーはトナカイだけど、なんでも治しちまうんだ、すっげェだろ!?」
  にかっ、と快活に告げる青年たちの言葉に、女が困惑しながらいしゃ、と鸚鵡返すと、生き物が元気よく返事を返す。女の切られた背中から、細やかな傷に至るまでを手当したのはこの小さな医者だった。
「おれ、ルフィ! んでこっちがチョッパー、よろしくな!」
「ルフィはこの船の船長なんだ。それで、おまえを拾って来たのは別にいるんだけど、」
「あっ、そういや起きたんならゾロ呼ばねェとだよな」
「わぁッ」
 青年はそれだけ言うと、膝に乗せた船医をベットにひっくり返しながらばっと勢いよく立ち上がって、おーいゾロー!オンナ起きたぞー!と嵐のように行ってしまった。
 残された船医はなんなんだよ!と青年にぽこぽこと怒りながら曲がった帽子を直し、ふんす、と息を吐くと気遣わしげに女を見た。女はやっぱり意味の分からない生き物が喋っているのが怖かったけれど、医者だというこの生き物が、よくよく見ると愛嬌のあるかわいらしい姿をしているのに気が付いて、ほんの少し警戒を緩めた。
「キズ、結構縫ったんだけど、だいじょうぶか?」
 船医は女が随分怖がっているように見えたから、少しでも恐ろしさが減ればいいと、小さな体をさらに縮めて下からそっと話しかけた。女は船医の問いかけに何と答えるか少し迷ったが、この小さな生き物が、女が目覚めた時から一貫して体調を気にする言葉をかけていた事を思い出し、恐る恐る返事をした。本当は痛くてたまらないけれど、それを言えるほど女は気が強くなかったので、ただ控えめに大丈夫だと。船医は女が返事をしたことにぱっと顔を明らめると、痛みはどうか、めまいは無いか、と矢継ぎ早に質問をした。
「大丈夫……です」
「ほんとうか? ムリしなくていいんだからな」
 船医の見立てでは女の傷はだいぶん深く、ノコギリや切れ味の悪い刃物の特徴で傷口が引っ張られたみたいに抉れていた。濃いレンズの向こうに隠れて女の表情は読み取りづらいが、手当をするまでに随分血も流していたようだから、痛みだけではなく貧血などの症状も出ているだろう。
 女は船医の再三の問い掛けにうろ、と視線を迷わせながら言葉を探していた。彼女は『青年』であったから、女言葉なんて使いたくなかった。痛みもめまいも多大にあったが、なにしろ『青年』は独りになってから、買い物以外で誰かと会話をしたことがほとんどない。女はしばらく考えてから、助けてくれたらしいこの船医にぽつりと返事を返した。
「めまいは、少し……傷はいたい、です」
「やっぱり、あとでサンジにメシ作って貰おうな、そしたら痛み止め出せるから」
 医者にとって、症状を隠す患者というものは非常に厄介だ。特にそれが、それなりに重症の初診ともなればなおさら。船医は女が正直に返事をしたことにほっと表情を緩めると、女の腕をやさしく取って脈を測り始めた。女は船医の硬い蹄の感触に一瞬腕を引きかけるが、船医があくまで医療行為として触れていることにそっと力を抜いた。
「ありがとうございます」
「いいんだ、おれ医者だからな! それにお礼ならゾロにいってくれよ、お前のこと連れて来てくれたのゾロだから」
「ゾロさん」
「おう! 最初ゾロが誘拐してきたのかと思ったけど、怪我してたから違うなって。ゾロは顔は怖いけど、いいやつなんだ」
 ぞろ、というのは女が町で気を失った時にぶつかった青年だろうか。あの時は周りを見る余裕も無かったからどんな青年だったかは憶えていないが、あきらかに厄介事に巻き込まれている女をよくもまぁ拾ったものだ。とそこまで女は考えて、ぴたりと思考を止める。
「あ、の、お医者さん」
「うん? どうした?」
「いや、おれ……わ、たし、ここに来る前、街の、何だろう、ちょっと悪い人たちに追いかけられてたんですけど、怪我とかは……」
 船医は女の言う事に一瞬、何の話だ?と首を傾げた。おろおろと眉を下げる女が、この船の剣士の事を心配しているのだ、と言う事に気が付くと、あぁそれなら、と笑いかける。船医にとって、街のゴロツキ程度、剣士の相手にもならない事を知っていたから、いきなり女が自分の怪我の話をし始めたように聞こえたのだ。
「ゾロなら大丈夫だ、怪我もしてない。それに、お前の事追いかけてきたやつらもみんなゾロがやっつけてるから、心配ないぞ!」
 船医のその発言に、女がぎょっと目を見開いた。みんなやっつけた、と軽々しく言うが、女を追ってきた男たちはそれなりに大人数になっていたはずだ。船、と先ほどから聞いていたが、商船にしては随分腕が立つ護衛じゃなかろうか。
「お強いん、ですね……?」
「おう! ゾロはうちでも懸賞金がすっごく高いんだ!」
 船医がそのまま、おれたち海賊なんだけどな、と楽しげに続けるのを聞いて、女はすぅ、と自分の体中の血が一気に冷えていくのを感じた。
 懸賞金が懸けられているという事は、それなりの悪事も働いているはず。女にとって海賊とは、祖母と、多くの村の仲間たちを奪った、全ての元凶だ。旅をする間も、叔父のように慕っていた人を殺し、姉のように思っていた人を攫っていった恐ろしいものだった。ただでさえ青白い顔をさらに白くし、あからさまに凍り付いた女に気付いた船医が慌てて女に口を開く。
「かっ、海賊っていっても、おれ達わるい海賊じゃないぞ!? 略奪だってわるい奴からしかしてないし、カタギにだって手は出してない!」
 女は緊張でじわじわと項の産毛が逆立っていくのを感じたが、かぶりを振ってその思考を止めた。だから、えっと、だからな!?と女の手を握って狼狽える船医に、あわく笑みを返す。
 少なくとも、女がこの船の人間に助けられたことは事実だった。もし何か求められたとしても、女に差し出せるものは少ない。船医の慌てようからして、なにか目的があって助けたわけでもないだろう。
「おい、邪魔するぞ」
 入口から聞こえてきた低くざらりとした声に女が顔を向け、船医に話しかけようとしていた笑みをそのままに強く歯を噛みしめた。
 武器を持った、男。
 悠々と入ってきた男に対し、船医が救いを得たようにゾロ!と声を上げた。女は船医が呼んだ『ゾロ』という名前にごくりと唾を呑み込みながら、意図して武器を目に入れないように己を助けたという青年を改めて見る。
 女が『青年』だった頃、よく見た浴衣のような緑衣に、臙脂の帯。はだけた胸元に古そうだが大きな縫い傷がある。顔の左に走った斬り傷が、三白眼気味の鋭い目つきに凄味を与えていた。
 青年はもはや泣きそうな船医に一瞬くっと目を細めたが、つながれた手を見ると一転して不可解そうに顎を上げた。眉間にしわが入ると、ただでさえ威圧的な顔がさらに恐ろしく見える。青年はしばらくそうして黙っていたが、また船医の臆病でも出たのだろうと見当をつけて軽く呆れながら口を開き、
____おいクソマリモ!レディに失礼な事すんじゃねェぞ!!
 遠くから響いてきた別の男の声に、ガチリと音を立てて口を閉じる。不快を隠しもせず顔を顰めると中空を睨みつけ、歪んだ唇の隙間から深く長く息を吐き出す。そして吐き出した分の空気を思い切り吸い込みながら、扉へ向かってぐわりと大きく口を開いた。
「うるっせェなギャーギャー騒ぐんじゃねぇよ!!」
 男のガラガラした大声。女の心臓がひどく嫌な音を立てた。
 男はフン、と鼻を鳴らすと硬い靴特有の重い足音と共にベットへと近づき、左手を刀の柄に乗せ女を見下ろす。丁度窓を背に立たれたことで、女からは黒い大きな影が目の前に立っているようだ。
「オイあんた、」
 調子はどうだ、と続けようとして、青年は船医と仲良く手を繋ぐ女の姿にゆっくりと口を閉ざした。
 船医はぴたりと押し黙った青年に対し、不思議そうに彼を見上げていたが、キンと冷たい手が己の蹄を強く握り込んでいることに気が付くと女の顔を覗き込んだ。人間の手であったなら痛みを覚えそうなほど強い力を込めているにも関わらず、女は血の抜けた青白い顔で微笑んでいる。
「な、なぁおまえ、大丈夫か?」
 礼を言わなくては、と女は強く思った。この男が居なければ、女はきっと今頃息絶えているか、酷ければ慰み者になった挙句どこかに売り飛ばされていただろう。助けて貰った礼を言わなくてはならない。礼を、礼を言わなくては。
 女が強くそう思うのに、笑みの形に引き攣った唇からは吐息のひとつも出て来ない。
 こわい、違う、武器を持っている、違う、嫌だ、落ち着け、大丈夫。この人は、助けてくれた人だ。
「……ログが溜まる一週間」
「え?」
 男は刀の柄に乗せていた腕をぐっと引き寄せ、船医が上げた疑問の声を無視するように女達から半身を背けた。ぶつかった鞘同士が一度だけカタリと音を立て、鍛え抜かれた厚い身体の奥に刀が隠れる。
「必要ならどっか別の島か、怪我が治りきるまで乗せていい許可は取ってある」
 窓から差し込む陽光に照らされた男が、座り込んだ女の膝先を横目に見ている。これは女の知り得ぬことであったが、常より低く、淡々とした静かな声であった。
「誰も取って喰いやしねぇ。……精々養生しろ」
 彼はそういうと、女の暗いグラスの奥に一度だけ目を合わせ、ふい、と前を向いてそのまま出て行った。
 軽い音と共に扉が閉じる。その途端、女が元々前かがみだった体制をぐずぐずと崩した。慌てた船医が受け止めるように彼女の肩を支え、どうかしたのか、痛むのか、と問い掛けるが、ただ黙るばかりで何も応えない。常ならばもう少し面倒見のいい男のはずなのに、どうしてあんな雰囲気だったのだろう。船医はおろおろと女の腕をさすってやりながら、出て行ったばかりの仲間にSOSを送りたくなった。いつもはあんなに低い声じゃないし、まるで早く出て行きたいみたいに淡々と話していた。
 変な体制で固まってしまった女をそっとベットに横たえてやると、その体が震えていることに気が付く。とっさに震えが症例として表れる病名を脳内で探り、寒さ、発熱、極度の緊張、と並び立て、ふと、最後に思いついたそれに、女の顔を改めて覗き込んだ。船医はその大きな瞳で女を見つめ、きゅう、とすぼめた口を小さく開く。
「……ゾロ、顔は怖いけどいいやつなんだ」
 極度の緊張とは、つまり恐怖だ。
 彼も初めて会った時、目つきが悪くて声の低い剣士の事は、ほんのちょっぴり怖かった。紫色の唇を戦慄かせる女に、怒鳴り声もコエーけど、ほんとはすっごく優しいんだぞ。と船医は続ける。今でこそ仲間の事を怖がったりしないが、襲われて、目を覚ましたばかりの彼女からすれば、わかりやすく堅気ではない剣士の姿は怖くて堪らないだろう。
「今はさ、おまえも怖い目にあったばっかりだし、知らない場所でいっぱいいっぱいかもしれないけど……おれたち、絶対お前の事ぶったりいじめたりしないよ。約束する」
「もし、もしな! おまえのこと追っかけてた奴らが来たとしても、おれ達みんなでお前のこと守るし、きっとゾロがあっという間にやっつけちゃうからさ! だから、えっと……」
 この船の仲間に出会ってから、船医はとても勇敢になった。だからそうなる勇気をくれた仲間のことを誤解されてしまうのはとても悲しい。なんと伝えれば自分の思いが伝わるのか考えながら、船医はまごまごと両手の蹄をこね回す。
 だが船医には、彼女が怖がる気持ちもとてもよく理解できた。こわいと思う心はどうしようもない。船医だって仲間がいるから我慢出来るだけで、恐ろしいものが沢山ある。
 船医は眉を下げて、震える女の顔にかかった髪を払った。
「ゾロも言ってたけど、ゆっくり休んで、怪我を治していって欲しいだけなんだ」
 少しでも彼女が安心すればいい、という一心で、船医は精一杯の笑顔を女に向ける。
「また起こしに来るよ。熱が出るかもしれないし、寝てていいからな!」
 船医は女のサングラスを外してやるか一瞬迷って、そのまま足元に丸まっていたブランケットを傷に障らない程度にかけて部屋を出た。
 船医の足音が遠ざかって行くのを感じながら、女は柔らかい布を握りしめて、嫌に脈打つ自分の心臓をなんとか鎮めようとしていた。喉の奥と胸の間あたりでドンドンと心臓が変に跳ねて、妙に息がし辛くて苦しい。
 大きくて、武器を持っていて、ガラガラした怒鳴り声の男が、なにより怖かった。
 女が自我を持って、初めて経験したものがそれであったから、申し訳ない事をしたと思いつつも、反射的に恐れてしまうものが揃っていて、女にはどうしようもなかった。鼓動にあわせてじくじくと背中が痛むせいで思考が纏まらない。痛くて、うるさい(・・・・)。
 眠ろう、と女は思った。眠っている間だけは痛くないし、怖くもない。あの船医も眠っていていいと言っていた。いい人だ。たぶん。言葉を尽くしてとても気を遣ってくれた。背中いたいな。いい人だ。人じゃないけれど。それで起きたら、きちんと謝って、お礼を言おう。でも信じすぎないように、何かあってもいいように、聞かれたときに、なにを話すか考えなくては。頭の奥がうるさい。怪我をするといつもこう。うるさい。熱くてさむい、くるしい。なにも考えたくない。
 かえりたい。
 なにも恐れず居られる場所にいたかった。
 *
 祖母の声がした。優しくて、芯があるけど、ちょっとだけこもった声。どうしてか話の内容はわからなかったけれど、甲高くて少女とも少年ともつかない知らない声と、祖母の声が何かを話していた。懐かしさに目を開くと、ぐらぐら回る視界の中で、母がそこに立っていた。背中に広がりゆるく波打つ黒髪が、動きに合わせてふわりと揺れる。
 あつくて、それなのにさむくって、訳が分からなくてこわかったから、彼女は重だるい腕を持ち上げて、母の服に指先を引っ掛けてほんの少し引いた。焼けた重たい砂をパンパンに詰め込まれているみたいで、それだけですごく疲れてしまった。
 不思議そうな祖母の声が聞こえたが、いつの間にかまぶたが下がっていて、女から祖母の表情は窺い知れない。母の長い髪が女の顔にさらりと落ちる。いい匂いがしたけれど、知らない香りだったから不思議だった。それに、母の長い髪はくるくるとウェーブしていて、あっちこっちにあっちこっちに飛び跳ねているはずなのに、頬に触れる髪は祖母のようにさらさらしている。祖母の髪は短かった。
 いつ髪を伸ばしたの、と声を上げようとして、乾いた喉が張り付いて邪魔をする。ケハケハ空咳をしていると、いつの間にか女の身体の下に差し込まれていた腕がゆっくりと女を持ち上げていく。どうしても目蓋が上がらなかったからわからないけれど、首と、肩と、腰と、まるで沢山の腕に支えられているみたいで、温かかった。祖母の声が誰かと話をして、唇に何か冷たいものが触れて、甘くて、しょっぱい?液体が口の中に流れ込んでくる。レモネードみたいな味だ。
 何回かそれを飲み込んだあと、小さなスプーンが口に入ってきて、それがあんまり苦いのに思わず女が唸った。クスクス上品な笑い声が聞こえる。あれ、今の誰だろう。
 女がそれを問い掛ける前に、またゆっくりと身体が横にされていく。はなびらが散っていくみたいに離れていく腕が寂しくて、一瞬浮かび上がった疑問も消えてしまった。
 顔に出ていたのだろうか、真っ暗な視界の中でも、温かくてすらりとした指__きっと母だろう__がそっと女の額を撫ぜて、祖母の声がたぶん、おやすみを言ってくれている。
 帰ってきてくれた。熱いのに寒い。わからないけれど。
 だけどなにより__安心した。
「あら、ごめんなさい。起こしちゃったかしら」
 冷えた布の感触に、浮かび上がるように女の意識が覚めていく。
「汗を拭いていたんだけど、どこか痒いところはある?」
「……ぇ」
 芯があって、ほんの少しだけこもったような声に女がはっと体を起こすと、さらりとした黒髪をやわらかく伸ばした、どこか柔らかな雰囲気の美しい女性が女に向かって微笑みかけていた。
「チョッパーがとても心配していたわ」
 彼女はそういうと、乱れた女の髪を掬って耳にかける。温かく、すらりとした指が女の顎のラインを微かに撫でていった。
「船医さんが……」
 離れていく指をぼんやりと眺めながら女が返事を返すと、彼女はえぇ、と頷いて小首を傾げる。
「調子はどう?立てる?歩けるかしら」
「えっ、ぁっ、はいっ」
「よかった。みんなあなたが目を覚ますのを待ってたのよ」
 すい、と何気なく出されたサングラスを女が慌てて受け取り、それを掛けようとして、ゆるやかに感じる違和感に動きを止めた。
 軽く自分の頬へと手を伸ばし、ぶわりと飛び出る冷や汗に、女が勢いよく顔を上げる。
 完全に油断していた。
 女は母から教わった特別な瞳の隠し方を忘れ、なんの気負いもなく晒してしまった。名も知らぬ女性はただ黙って女を見つめていたが、やにわに背筋を伸ばすと口を開く。
「夕べ、急に私の服を引っ張るんだもの、びっくりしちゃったわ」
「えっ?」
「熱が出ると不安よね」
 脈絡もない話に女が声を上げると、彼女はにこ、と微笑んで、なんでもないかのように手を差し出した。
「いきましょ?」
 みんな待ってる。
 やわらかく紡ぎ出された言葉に、女はいつの間にか手を重ねていた。
 はっとして女が手を振り払う前に彼女はゆっくりと立ち上がって、怪我を庇ってふらつく女を先導していく。
「きっとここが気に入るわ」
 女が眠っていた小さな部屋を出て、いくつかの扉を通り過ぎると、話し声の聞こえる戸のドアノブに手をかけて彼女はそう振り向いた。
「大丈夫よ」
 ぱ、と笑う彼女に合わせて、長い髪がふわりと揺れていた。
 広いダイニングに、考古学者と、音楽家、狙撃手と船大工を除いた船員が揃う中、剣士は壁に寄りかかってそこに居た。
 コックが昼食の呼びかけをしていたから、すぐに他の連中も集まってくるだろう。そう考えるうちに、剣士にはわからない細工の話をしながら、狙撃手と船大工がダイニングに入ってきた。
 騒がしくコックの料理を待つ船長達を見遣りながら、外から慣れた考古学者の気配が近づいて来るのを感じる。妙に遅い歩みに意識を向けて、隣にあるそれに薄く眉を寄せた。
 数拍の逡巡、ゆらりと立ち上がり、手早くグラスを並べているコックに声をかける。
「オイぐる眉」
「あン?」
「後で食う」
「は? あっ、テメッ!」
 カウンターに置いてあった酒瓶を攫って出て行った剣士の姿に、並び始めた料理へ今にも飛び付きそうな船長を止めていた狙撃手が声をあげる。
「クッソォやられた……!」
「なんだぁ? どうしたアイツ?」
「さぁな!」
 ポカン、とゴムの頭を蹴り飛ばし、ったくメンドクセェこと言いやがって、と文句をいいつつも剣士の分を取り分け始めたコックの後ろ姿に、狙撃手と航海士が忍び笑う。素直じゃないのだ。
 わっと騒がしさに二人が振り向くと、船長がとうとう体の大きな操舵手と船大工に羽交い絞めにされていた。それでもまだ止まらぬ勢いに思わず狙撃手が噴き出し、航海士が大きくため息を吐いて立ち上がる。
「いいッ加減にっしなさい!」ガツンと一発。ダイニングにわははは笑う男達と、さっすがナミさん! と褒めそやす声が響いた。たんこぶから湯気を出し、ヒデェよナミ……とシクシク沈む麦わら帽子に航海士が鼻を鳴らして答える。
 ふと、普段は誰よりも大きく反応し、人一倍声の響く船医が椅子に座ったまま妙に静かなことに気が付いた。
「どしたのチョッパー、随分静かじゃない」
「……うん」
 しょんぼりと足を揺らす船医に、ダイニングに揃った船員たちがおや、と顔を見合わせる。航海士の問い掛けるような目つきにコックと船大工が肩をすくめ、次に視線を送られた操舵手と狙撃手が慌てて顔の前で手を振った。
「ゾロが拾ってきたヤツなら、昨日いっぺん起きたじゃねーか」
「えぇ?」
 ぃよッと勢いをつけて起き上がった船長が、船医の顔を下から覗き込んで問い掛ける。
「それともアイツ、そんなひでぇケガなのか?」
「……いや、ゾロが止血してくれてたおかげできれいに縫えたし、傷自体は大きいけどひと月かふた月くらいで治るよ」
「んなら心配ねーな! 今ロビンも一緒なんだろ?」
「……うん」
 きゅ、と不満そうに唇を突き出した船長が、自分のつま先を見つめ、うなだれたまま動かない船医を指さして航海士を見上げた。
「あー……なら、どうしてそんなに落ち込んでるのよ。治るんでしょ?」
 珍しく察しのいい船長に船医を除いた全員が口を開けていたが、無言で渡されて来たバトンに応えて航海士が質問する。
「……アイツ、おれにも、ゾロにもすっげーこわがってたんだ。それでなんか……なんかおれ、」
 うまく言えねーんだけど、と続けながら、船医は女の傷を手当した時の事を思い出していた。
 女の手はやわらかく、とても戦えるようには見えなかった。にも関わらず、肌についた血を拭ってやった後に見付けたいくつもの傷跡。
 剣士は背中の傷を恥だと言う。それが付くのは誰かを庇った時か、裏切られた時か、逃げた(・・・)時の傷だと。女についていた傷はどれも新しくはなかったが、そのほとんどが背中に広がっていた。
「おれ……おれやっぱり、あいつのところに行ってくるよ」
 船医はまだ女のことをよく知らない。だが昨夜の女の怯え様と、それぞれついた時期の違う逃げ傷は、船医の心にもやもやとしたわだかまりを作るのに十分な材料だった。
  船医のために作られた少し背の高いイスから飛び下り、心配そうに見送る船員たちを尻目にダイニングの外に繋がるドアへ手を伸ばすと、がちゃりと外からノブが回され考古学者が入ってくる。眠る女に着いているはずの考古学者が居ることに容態が急変でもしたのかと慌てて声をかけようてして、その後ろに続く見慣れぬ姿にじわじわと目を見開いた。
「あーーーーーーーッ!!」
 船中に響き渡るような絶叫に女の肩が跳ねる。ダダダダッと走り寄ってきた船医の勢いに反射的に後ずさった。
「よ、よ、よ、よがっだあああ!! おれっ、おれすっげェ心配してっ! あっ、ごめん怖かったか? そ、そうだ仲間ッ! こっ! こいつらみんなおれの仲間なんだ! フランキーとかっ今いないけどブルックとかっ! 見た目イカつい奴も居るけどみんなイイ奴だから! 怖がらなくていいんだからな!? あっ、というかお前昨日すごい熱が出てたんだぞ!? いやそれは予想してたんだけどなかなか起きねぇからクスリも飲ませてやれなくて! 偶然ロビンが来るまで水も飲んでくれなかったからおれほんとにどうしようかと! いやっ、とっ、とにかくよかったあああ!!」
 うおおおん! と言いたいだけ言って泣き出した船医に女が固まっていると、考古学者がしたり気に、ね? と微笑んだ。
「……ご心配を、お掛けしまし、た……?」
 困惑気味の女の言葉に、ダイニングの奥からいいえー、とゆるい返事が返ってきた。橙色の髪をした美貌の女性が、金髪の男の顔をおおってひらひらと手を振っている。一瞬なにをしているのかと対応に困るが、 未だ泣き続ける船医にほんの少し眉を下げ、目線を合わせるように膝を付いた。
「……えぇと、船医さん……?」
「う”んッ?」
「昨日は、本当に、すみませんでした」
「……なにが?」
「えっ」
 きょとん、と大きな目をまんまるにする船医に女が思わず固まる。
「ひどい態度で、迷惑を……」
「……暴れないし動かないし、おとなしいくらいだったぞ?」
 本気で理解していなさそうな船医に対し、えぇ……? と小さく溢した女に、考古学者が可笑しそうに笑った。普段、熱があろうが死にかけだろうが医者の言う事なんか聞きもしない連中ばかり治療しているから、静かな女の治療はさぞ手がかからなかったんだろう。そも船医が怪我人を見捨てるはずないのだから、心配こそすれど迷惑だなんて思うわけがない。困惑しながら見つめ合う二人がおんなじ顔をしていることに気が付いた狙撃手が、ンふッと息を漏らして口元を隠した。
「なら、あの、助けて……あぁ、いや……手当てしてくれて、ありがとうございます」
「昨日、お礼は……ゾロ? さんにって言ってらしたんですけど……あんなに血が出たのに、もう歩けるくらいに治まってるの初めてで……や、まだいたい、んですけど、助かったので」
「だから、これは船医さんに……助けてくれて、ありがとう」
 拙く言葉を探しながらそう言い切ると、女はあわく微笑んだ。得体の知れない生き物な分、ほんのりとした恐怖心は残っていたが、伝え損ねていた礼を言いたかったのも本心だった。凄腕ですね、と最後に付け加えると、船医がその水色の帽子を引っ張ってうつむく。
「す……」
「す?」
「スゴ腕なんていわれても、」
 ウレシクなんてねェぞ! コノヤロー! と破顔して、くねくねとした妙な踊りを始めた船医に、は、と女が声をこぼして目を見開く。出た出た、と笑う船員たちの姿にこれが日常であることを知った。
「……ぁ……はは、なんだそれ……ふ、はは、」
  怯えた姿ばかり見せていた女が初めてきちんと笑ったことに、船医が表情を明るくする。女の笑い声に反応したコックが航海士に押さえつけられているのを流し見ながら、気に入りそうかしら、と考古学者が声をかけて、女がゆるゆると首を持ち上げる。
「は、」
「おや! これは素敵なお嬢さん!」
 い、と答えようとして、真後ろから聞こえてきた声に驚いた女がぱっと振り向いた。
 眼前に、骨。
「初めまして。わたくし、死んで骨だけブルックと……あらァッ!?」
 気絶したァーッ! と船員たちの叫びが揃う。くたりと脱力した女の両腕を掴み、お嬢さん!? おじょーさーんッ! と音楽家が声をかけた。
「あ、起きました?」
「……」
「お嬢さーぁんッ!?」
 音楽家の腕の中で目を覚まし、再びかくりと気を失った女に船長がぶひゃひゃっと笑いだす。こいつオモシレーなぁ! と指をさす彼の頭を、笑い事じゃないわよッ! と航海士が叩いたのだった。
「すみませんホント、あの、骨が動くの初めて見て、こわくて、失礼ですよね、すみません、でもあの、ほんと、すみませ……ぅ、」
「いえいえ、驚かれるのも無理はありません。なんせワタシ、骨ですから!」
 船医と考古学者の間に座り、ガタガタと震えながら謝る女に対し、正面に座った音楽家がえりを正す。女はなんとか目を合わせようと一瞬視線を上げるが、かたかた揺れる乳白色に怖気付いてすぐに顔を俯かせてしまった。
「い、いやでも、ふ、つうに嫌ですよね、すみません。あの、ほんと、気を付けるので……」
「ホンットーにお気になさらず! でもそうですね……ではお嬢さん、改めまして、お詫びと言ってはなんですが……」
 そう言って立ち上がった音楽家に、ンぐっ、と唇を引き結んだ船大工が天を見上げた。腕を組んで震える船大工の姿を操舵手が怪訝に見ている。
 お詫び、という言葉に反応した女が肩を揺らし、背中を撫でるふたつの手に押され、小さな声で返事をした。テーブル越しに、じぃ、と虚ろな空洞が女に迫り、底の知れない暗闇に喉が詰まる。
「……」
「……」
 続く沈黙と、その中に潜む妙な緊迫感に、誰かがゴクリと唾を飲んだ。時間にしては一分も無かっただろう、やがて骸骨が口を開き(正確には歯を開き)女に向かって告げる。
「パンツ、見せて頂いてよろしいですか」
「……は?」
「見せるかァっ!!」
 ポコーンッ! と、いっそすがすがしいまでの音を立てて、橙髪の美女が蹴りが炸裂する。うゎっはっはっは! と半裸の大男が耐えかねたように笑い出し、パンツ……?と女の中ではてなが飛び交った。無意識のうちにズボンのウエストを引っ張って中身を確認する。
 青。
「アンッタはもう! ホンットにもう!!」
「イタタタタナミさん痛い! いつもよりイターイ!!」
「オメーならやると思ったぜェ!」
「わかっとったなら止めんかフランキー」
 いやだって! 見たいじゃないですか美女のパンツーッ!! と叩かれながらも叫ぶ骸骨に、女の中の青年がわかる、と頷いた。美女のパンツは青年も見たい。あと橙髪の彼女は露出が多くてちょっと目のやり場に困った。
 ブルックおもしれー、ときゃらきゃら笑う船医につられ、女も自分の口角がゆるやかに持ち上がっていくのがわかる。
 見たいのか、骨でも。女のパンツ。
「……青です、骨さん」
「アラァッ!? お答えくださる!? ちなみに濃いですか薄いですか!!」
「濃い青で花の刺繍です」
「はバっ!」
 柄は? 形は? Tバックー!? とあんまり素直な骨の質問に、女がとうとう破顔しながら答えると、なぜか金髪の青年が血を噴き出し、胸倉を掴まれたままの骨が両手を上げて大喜びする。
「ンマー素敵なパンツ! ありがとうございます!!」
「はっははは、」
 愉快な骨だった。
「しっかしお前ェも災難だったなぁ。なんかすげー追っかけられてたんだろ? この島の生まれなのか?」
 そう言って話しかけてきた青年の長い鼻に、女の眉がㇵの字に下がる。変わった体つきの人間が多い世界だととうに理解していたが、何年たっても相変わらず見慣れない。
「いや、一応、旅をしています」
「うそ! まさか一人旅!? 新世界よ?」
 ぎょッと橙髪の女性が身を乗り出す。シャボンディ以前が楽園と称されるまで過酷な新世界において、この見るからにか弱い女が一人で旅をするなど正気ではないだろう。
「商船や交易船を乗り継ぎしてたので、一人旅ってわけでも」
「なるほどねぇ……あ、じゃああなた新世界出身なの?」
「……たぶん?」
 たぶんン? と数人から声が上がる。女は疑問の上がった方へちら、と視線を送ってから、どこまでを話すか考えていた。
「故郷に……帰りたくて、旅を。小さいころに島を出たから、帰る場所も帰り方もわからないけど、」
 コーティング船に乗った覚えがないので、恐らくこっち(新世界)出身だと思います、と続ける。
 嘘は得意じゃない。それに、この程度匂わせておけば訳アリだと悟って突っ込んでくることも無いだろう。現に率先して話しかけてくれていた橙髪の女性と長鼻の青年が、気後れしたように視線を交わしている。
「ヘェー、なら、フシギ現象とかいっぱいでオモロかったろ」
「……おもしろい? ……あぁ、いや……おもしろいかは、わからないけど……変わったものであれば、そうですね」
 女は船医が差し出したグラスに礼を言いながら、昨日船長を名乗った青年に答える。
 新世界とは、シャボンディ諸島を区切りとした、世界の後半の海の事を呼ぶらしい。動物や植物、環境や気候に至るまで全てが規格外で、海に出る人間を分け隔てなく平等にふるいにかける。 女は前半の海というものを知らず、比べるものと言えば『青年』の世界のものばかりで、恐れることこそあれ面白いなどと思った事は無かった。だが、元々この世界に産まれ、快活そうな青年からすれば、女が恐れるものも”オモロい”のかもしれない。
 過剰に恐れている自覚はある。女は、どんどんとマイナスに沈み込んでいく思考を振り切るように、握りしめていたコップを傾けた。
 淡く黄色がかった液体を一口飲み込み、驚いたようにコップへ目を落とす女に向かって、船医が自慢気に笑いかける。
「ぅま……」
「へへ、そうだろ?」
 ツンとこない、まろやかなレモンの酸味の中に、とろりとした甘味と微かな塩味。鼻の奥に抜ける淡いミントの香りが爽やかで、すっきりとした味わいだ。
「それ、昨日サンジがお前のためにって作り置きしてくれてたんだ!」
「……サンジ?」
「はっっじめむゎしてステキなぅレディーーーーッ!!」
 聞き覚えのある名前に首を傾げた途端、ずざーーっと勢い良く跪いた金髪の青年に女の肩が跳ねる。
 どうやらずっとカウンターの奥で倒れていたらしい。青年は騎士のように己の胸に手を当て、女の指先を引いてそっと唇を近づける。そして嫌味のないしぐさで空を掻くように顔を上げるとキリリと表情を引き締め、いかにもキメています、というような声色で女を口説き始めた。
「世界中に広がるこの大きな海で、あなたのような美しい女性と出会えた事を、神に感謝しなくてはいけない。どうかサンジ……と、呼んでください。この船でしがないコックをしていますそして! これからはキミの為に生きる愛の……」
 しもべ、と続けようとして、コックはぽかん、と目を丸くした。
 何かに気付いたようにはく、と唇を動かし、言葉に詰まったように開閉させる間に、橙髪の女がスーツの襟首を引っ張って彼を押し退ける。
「はいはいサンジくん離れて離れて。びっくりしちゃってるじゃない」
「え、あ、ああ……」
 彼女は常ならぬコックの気の抜けた様子にひょい、と彼を窺ったが、直ぐ気を取り直したように女へ向かうと、そのぷっくりとした健康的な唇を勝気に吊り上げた。
「自己紹介が遅くなったわね。あたし、ナミ」
 航海士なの、と彼女は続ける。女が目礼で返すと、彼女はひとつ頷いて、隣に座る船長と船医を指さした。
「ルフィとチョッパーと……ゾロは知ってるんだっけ?」
「ぁ……緑の髪の、」
「そ。でさっきのガイコツがブルック。見た目こそ怖いけど、一流の音楽家よ。それに中身はあんなんだから、あんまり彼の言うコト真に受けないでやって」
「まァひどいナミさん! 私はいつだって真剣ですよ!」
「はいはい。ロビンは?」
 心外だとでも言うように抗議する音楽家をあしらって、航海士が女の隣に座る女性を見遣る。話を振られた彼女はきょと、とひとつ瞬くと、いやだ、うっかりしてたわ、と照れくさそうに頬を染めた。
「ニコ・ロビンよ、考古学を学んでるの。わからないことがあれば、なんでも聞いて」
「……学者さん?」
「えぇ、ふふ、そんなところかしら」
 女の小さな問い掛けに優しく答える考古学者は、まるで小さい子どもに接しているようだ。航海士はきょどきょどと居心地悪そうにしている女を見て、ちょっとわかるカモ、とこっそり笑った。
「あっちの半裸でデカいのが船大工のフランキー。隣の鼻の長いのがウソップ、狙撃手よ」
 骨に対して大笑いしていた異様な体つきの大男と、女によく話しかけてくれていた長鼻の青年がそれぞれ人好きのする笑顔で手を上げる。
「あーとー、は……ああ、フランキーの奥にいるのがジンベエ、この船の舵を取ってくれるの。それにとっても強いから、困った事があれば頼りにしてね!」
 航海士の指し示した影に、女の視線がぴたりと止まる。
 見るからにぶ厚そうな青白い肌に、口元から飛び出した鋭い牙。稲妻のように走る傷跡とうねる黒髪の荒々しい、大柄な魚人だった。
 己を見つめたまま沈黙する女に対し、操舵手がすっと目を眇めて返す。海賊を除くと、魚人島を離れて暮らす魚人や人魚というものは、実の所そう多くはない。そして自分たちは、決して万人に受け入れられる存在ではないと言う事を、彼は誰よりも理解していた。
「……魚人は珍しいかの、お嬢さん」
 微かな剣呑さを滲ませ、皮肉気に笑う魚人の男に、女がはっと顔を伏せる。確かに見慣れぬ人種への恐ろしさはあったが、それ以前にどこか見覚えのある顔だった。
 女に知り合い、まして他種族の知り合いなど存在しない。一体どこで……? そこでふと、隣に座る船医が、眠りにつく前に言っていた言葉を思い出す。
「かいぞく……海侠の、ジンベエ……ッ!?」
 バッと顔をあげ、驚愕したように声を上げる女に、船員たちがきょとんと目を丸くする。
 海侠のジンベエ、元王下七武海。懸賞金までは記憶していないが、世情に疎い女でさえも知っているとんでもない海賊だ。
「なんじゃ、そっちか」
「だ、なんッ、お、王下七武海……っ!」
「もとだぞ、元。今はおれたちの大事な仲間なんだ!」
「ありがたい事に。というよりおぬし、ワシの事を知ってるのにルフィの事は知らんのか」
 拍子抜けしたように眼差しを緩めた操舵手が、船医の注釈にすっと目を伏せて応える。思わぬ邂逅に狼狽える女が操舵手の上げた名前に泡を食って船長の方を向くと、視線に気付いた彼が頬張っていた、嘘みたいに大きな肉をごきゅりと飲み込む。
「ン? おう! おれ、モンキー・D・ルフィ! いつか海賊王になる男だ!」
 海賊王……と放心する女に、彼、15億よ? と考古学者が悪戯っぽく告げる。ニコ、と微笑む彼女が続ける、懸賞金、という言葉を理解した途端、女はその文字通り桁違いの額に、絞められる鶏みたいに叫びかけた。
「……じゅぅ、っ!?」
「アーウ! 確かにルフィはスーパー断トツだが、おれ達ゃみんな賞金首だぜ」
 まチョッパーは、その、アレだが……と濁す船大工に、船医がうるせーよッッ! ほっとけッ!! と机を叩いて吼える。
「つーかその感じだとマジでおれらの事知らないのかよ、けっこう新聞騒がせたぞ?」
「だっ……新聞、見る余裕とか、無かったし、だいたい船の上だったから……」
 実はわたし達そこまで有名じゃなかったりします? いやいやカタギ連中なら~と騒ぐ一味。その一人の特徴的なアフロヘアを眺めながら、とんでもない船に乗せられてしまった、と女は後悔し始めていた。
 骸骨面にアフロヘアのロックスターが、シャボンディでのライブ中に逃走し、海賊入りしたのは有名な話だ。ライブポスターにそのまま懸賞額を載せたような手配書は女も見かけたことがある。そんな著名な賞金首や、10億越えや元七武海の乗った船に助けられるなんて、愉快な骨だと笑っている場合ではない。話す限り、皆人買いや人売りに興味が無さそうな事だけが、女にとっての幸いだった。
 
後でつなぐ
「あの、ゾロ? さんは……」
「ゾロ? ゾロも3億よ。3億2千万ベリー」
「さッ、……あ、いや、違くて……」
「あぁ、ゾロさんでしたら私と交代で見張りに出て下さいましたよ。呼んできましょうか?」
「やーめとけブルック、今たぶん機嫌悪ィぜ」
「おやそうなんですか? 私と話した時は普通でしたけど」
「は? んだそりゃ」
「まーま、急ぎじゃないんだし。そのうち会えるでしょ」
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OP夢 特殊設定女
初公開日: 2021年08月16日
最終更新日: 2021年08月22日
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コメント
いつまでたっても書き切らないのでケツ叩き
先天性TS特殊設定怖がりの女とロロロア・ロロ、麦一味の話
gararu民話集的な
今更剣盾始めた人間がストーリーを進めるうちに楽しくなっちゃった結果架空民話集作りたくなっちゃったんよ
ログイン限定
二次創作
みつき
今日描いたイラストをアップして寝ますzzz
コミティアに出す同人のキャラクターのパロディイラスト
おフェム
トーン貼りばっかりやってる
コミティアに向けて、漫画を描いてる、その進捗
おフェム