≪あらすじ≫
幸福な小鳥
「幸福な王子」のパロディ。
魔術で銅像にされたフェルディナンド様が、
困っている人を見て落ち込む小鳥マインさんのため、
自分の体の金箔を剥がして持って行くように言う。
マインさんはそのことに喜び、せっせと金箔を運んでいくけれど、
フェルディナンド様の金箔がほとんど剥がれてしまったことで
街の人々が銅像を撤去しようと言っている場面に出くわしてしまう。
マインさんは必死に飛び回り、
フェルディナンド様の呪いを解くための薬を見つけて運んでくる。
フェルディナンド様はその薬を浴びたことで元の姿に戻るが、
マインは体力を使い果たしてぱたりと倒れてしまう。
フェルディナンド様は急いで城へと帰り、
マインさんを必死に看病する。
そのかいあって、マインさんはほどなく回復。
その後はフェルディナンド様とマインさんはお城で一緒に暮らしましたとさ。
≪本編≫
むかしむかしのお話です。エーレンフェストという街に、フェルディナンドという王子様がおりました。フェルディナンドは大変に優秀な、春の空のような髪とおひさまのような瞳をもつ王子様でした。けれどフェルディナンドはエーレンフェストの王妃様の本当の子どもではありませんでしたから、王妃様には大層嫌われておりました。
王妃様はとても意地悪で、フェルディナンドの食事に毒を混ぜ込むのはいつものことでしたし、時にはフェルディナンドを殺してしまおうと刺客を寄越してくることだってありました。引き取られてすぐの頃からこのような毎日でしたから、フェルディナンドはひっそりと、身を縮めて生きてくるしかありませんでした。
そしてついに、フェルディナンドは王妃様に毒を飲まされて、気がついたらその小さな体は銅像へと変えられてしまったのです。
「ああ、これで私のジルヴェスターを脅かすものはいなくなったわ!」
王妃様はそう言って高笑いをすると、部下に命じてフェルディナンドの銅像を遠く離れた小さな町へと運ばせました。
そうしてフェルディナンドは、深い夜の中、小さな町へとひとり取り残されてしまいました。ここにはあたたかい布団も、優しい兄も、支えてくれた家来たちもいません。フェルディナンドは、この誰も知る人がいない街で、ひとりぼっちになってしまったのです。
悲しみに暮れるフェルディナンドのもとに、朝がやってきました。
小さな街に住む人たちも起きてきて、見慣れない銅像、フェルディナンドの前にやってきます。
「誰か!私は遠くの街の王子なのです、母の手によって銅像に変えられてしまったのです!誰か、この声が聞こえていたらたすけてください!」
フェルディナンドは必死に叫びました。家に帰りたい、元の姿に戻りたいと、一生懸命に叫んだのです。けれど、街の人たちはその声が聞こえていないようで、フェルディナンドをじろじろと眺めています。
「なんだろう、この銅像は」
「昨日までこんな銅像はなかったはずだ」
「誰かが捨てていったのかもしれない」
「ああ、でも。とても綺麗な銅像だ」
「捨てられたなら、ここに置いておこう」
この小さな街の人たちは、いつの間にか置いてあった銅像をあやしく思いました。けれど銅像が金色に光っていてとても綺麗だったので、街のまんなかにある広場へと、飾ることにしました。
「どうして、誰も気づいてくれないんだろう。まるで、私の声が聞こえていないみたいだ」
フェルディナンドは広場を通る人々に何度も声を掛けましたが、誰にも気づかれないうちに、もうすっかり太陽は落ちてしまいました。
そうして何度も朝が来て、夜が来て。フェルディナンドはそのうちに、何日経ったのかもわからなくなってしまいました。
そんなある日、フェルディナンドの目の前に、夜空のような色をした小鳥が降り立ちました。
「もし、もし。わたしの声が、聞こえていますか?」
フェルディナンドは久しぶりに話しかけられたことに吃驚して、目を真ん丸にしようとして、動くことができないのを思い出し、小鳥に恐る恐る話しかけました。
「…君は、私の声が聞こえるのか?」
「聞こえています。わたしはあなたにお願いがあって、ここまでやってきたのです。」
フェルディナンドは久しぶりに誰かと話せたのが嬉しくて仕方ありませんでした。なので、小鳥の言うお願いも、自分にできることなら、と、話を聞いてみることにしました。
「この広場から三本南に行った通りに、トゥーリという小さな女の子がいて、その子は貧しい生活なのに、わたしをみかけるといつもパンくずを食べさせてくれるのです。けれどトゥーリのお母さんが流行り病にかかってしまって、…トゥーリの家には、お医者さんに診てもらえるだけのお金がないのです。」
小鳥はそういうと、しばらく迷うような素振りを見せ、…そして頭をふるふると横に振ると、意を決したように勢いよく顔を上げます。
「お願いです!どうか…あなたの体の金箔を、少しでいいのでわけてくださいませんか…?」
そういうと小鳥はフェルディナンドの目の前で勢いよく、頭をぺこりと下げました。目の前にいるのは小鳥のはずなのに、その仕草はまるで人間のようにも思えて、フェルディナンドは感心しました。
そうしてしばらく考えた後にフェルディナンドは、その小鳥の必死な様子に、まあ少しならいいか、と金箔をわけてあげることにしました。それは小鳥があんまりにも苦しそうだったからというのもありますし、金箔をわけてあげればこの小鳥はまた遊びに来てくれるかもしれない、と思ったのも理由の一つでした。…それに、そもそも銅像のフェルディナンドはここから動くことができないので、金箔がどれだけあったって意味がないということも大きな理由でした。
「ああ、いいだろう。わたしの体の金箔を、持って行くといい。」
そうして、フェルディナンドは下心も多分にありましたが、小鳥に金箔をわけてあげることにしました。そのフェルディナンドの返事を聞いた小鳥は、その小さな体でぱたぱたと飛び回り、目一杯の喜びと感謝の気持ちを表しました。
「ありがとう存じます!これでトゥーリのお母さんのお薬が手に入ります!」
ことりさんは一通りフェルディナンドの周りを飛び回ると、フェルディナンドの足の爪先についていた金箔をくちばしで器用にはがして、広場から南のほうへと飛んでいきました。
フェルディナンドは飛び立っていく小鳥を見つめながら、またあの面白い小鳥はここに来てくれるだろうか、と胸を弾ませました。フェルディナンドは、ほんとうに久しぶりに、何かを楽しみだと思う気持ちになったのです。
『幸福な小鳥』第一話完!!
『幸福な小鳥』第二話
<あらすじ>
翌朝戻ってくる小鳥。
トゥーリのお母さんがお医者さんに診てもらった結果完治したと
嬉しそうに伝えられるフェルディナンド。
小鳥は何度もお礼を言う。
フェルディナンドはこれからも手伝ってもいいが、
動けないからよかったらここに遊びに来てほしいと告げる。
小鳥は快諾して、しょっちゅう遊びに来るようになる。
そして自己紹介をしていなかったことに気付き、
互いに名乗る。
「わたしの名前はローゼマインといいます!」
「私はフェルディナンドだ。…あらためて、よろしく。」
「はい、よろしくお願いします!」
≪本編≫
そうして金箔をくわえて飛んでいった小鳥は、次の日の朝になるとフェルディナンドのもとに再び訪れました。
「昨日は、金箔をわけてくださってありがとうございます!おかげでトゥーリのお母さんはお薬を買うことができて、今日の朝には立ち上がることができるほどに回復しました!」
フェルディナンドの目の前へと降り立った小鳥は、そういって何度も何度も、フェルディナンドにお礼を伝えます。
フェルディナンドは小鳥が再び自分のもとへ訪れてくれたこと、そして小鳥からまっすぐな感謝の気持ちを伝えられたことで、胸のあたりがふんわりとあたたかくなるような心地がしました。それは銅像になってからは感じていなかった、心臓の鼓動にも似ていました。
フェルディナンドはその熱に突き動かされるままに、口を開きます。
「…この体が…君の、大事な人の役に立てたなら…この、動くこともできない銅の体でも、誰かの助けになれてよかった。君がそのことを伝えに来てくれて、とても嬉しい。」
気づいたらフェルディナンドは、自分の素直な気持ちを、全部正直に小鳥に伝えていました。
フェルディナンドはひとりぼっちになっているうちに、すっかり心を隠すのが苦手になってしまっていました。
小鳥はそのフェルディナンドの言葉にまんまるな瞳をぱちりと瞬かせると、「それなら!」とフェルディナンドの掌に飛び乗ります。
「あなたが動くことができないのなら、これからはわたしがたくさん遊びに来ます!」
だって、あなたは、わたしの大切な人を助けてくれたのだから、わたしもあなたの助けになりたいのです!
だから…わたしと、友達になりましょう?
そういって小鳥は掌の上から、フェルディナンドを黄金色の瞳で見上げました。
フェルディナンドは小鳥のその言葉に、動かないはずの銅の心臓から、じんわりとあたたかなものが広がっていくのを感じました。誰も知らない町で、見たこともない景色の中で、この時ようやくフェルディナンドはあたたかな繫がりを得ることができたのです。
「…ああ。」
フェルディナンドはそういうと、掌の上の小鳥を見つめました。
小鳥は「これでわたしたちは友達ですね!」と、いって、フェルディナンドの頬に頬ずりをしていました。
「わたしの名前はローゼマインといいます!」
「私はフェルディナンドだ。…あらためて、よろしく。」
「はい、よろしくお願いします!」
その日、フェルディナンドはこの町で、…はじめて、小さな友達ができたのです。
『幸福な小鳥』第二話完!!
↓これは第3話に書きたい。
「あなたは、私が生まれた時から小鳥だったように、最初から銅像だったわけではないのですか?」
『幸福な小鳥』第三話
BGM:林檎売りの泡沫少女
<あらすじ>
城から遠く離れたこの町で、
今日もフェルディナンドは小鳥のローゼマインとお話しています。
ローゼマインは毎日昼の鐘が鳴る頃にやってきて、
フェルディナンドにいろいろなことを教えてくれます。
町はずれの森で、シュミルの赤ちゃんが生まれたこと。
トゥーリのお母さんが洗濯物を干している時に一緒に歌を歌ったこと。
商人の娘のフリーダの家にある花壇で綺麗な花が咲いたこと。
ローゼマインの話は、フェルディナンドが知る『世間話』にくらべると、
どれも重要な情報がない、些細な事ばかり。
でも…なぜかローゼマインの話をもっと聞いていたい、と思ってしまう。
そんなある日、ローゼマインは「そういえば、」と嘴を開きます。
「そういえば…フェルディナンドは、私が生まれた時から小鳥だったように、最初から銅像だったわけではないのですか?この辺りにいる動物や銅像で、喋ることができたのはわたしとフェルディナンドだけでしたから、そうなのではないかと思ったのです」
フェルディナンドは、そう問いかけてくるローゼマインの黄金色の瞳に、その心配の気持ちを色濃く浮かべている瞳に見つめられて、事情を話すことにしたのでした。
≪本編≫
それからローゼマインは、昼の鐘が鳴る頃になるとフェルディナンドのもとへと遊びに来るようになりました。ローゼマインは広場から動くことができないフェルディナンドに、毎日いろいろな話をしに来ます。
「今日は、町はずれにある森に住むシュミルの夫婦に、新しい子どもが生まれたんですよ!生まれたばかりでまだ耳も目もちいさくて、わたしとおなじくらいの大きさなんですよ!とってもかわいかったです」
「今日は天気がいいからトゥーリの家に遊びに行ったんですけど、トゥーリのお母さんがお庭で洗濯物を干していたので、それを眺めながらトゥーリと歌を歌いました!トゥーリのお母さんが元気になってよかったなぁ」
「今日は広場より北のほうをお散歩していたら、町一番の商人の家の花壇に色とりどりの花が咲いていたので、商人の娘のフリーダと一緒に花を眺めていました!」
ローゼマインが小さな嘴で話す町の様子は、どれも取るに足らない些細な日常のお話でした。それはフェルディナンドがお城で聞いていた様々な『世間話』とはずいぶん違って…。けれど、どれも心が温まる素敵なお話で、フェルディナンドはいつもローゼマインの話を聞くのが毎日の楽しみになっていました。
そんな毎日が続いてしばらくした、ある曇り空の日。フェルディナンドのもとに訪れたローゼマインは「そういえば、」と嘴を開きます。
「…フェルディナンドは、私が生まれた時から小鳥だったように、最初から銅像だったわけではないのですか?」
その突然の問いかけに、フェルディナンドは思わず聞き返します。
「それ、は…、なぜ、そう思ったのか、教えてくれないだろうか」
ローゼマインは、フェルディナンドの言葉に小さく頷くと、フェルディナンドをまっすぐに見上げて話し始めます。
「この辺りにいる動物や銅像で、喋ることができたのはわたしとフェルディナンドだけでしたから…フェルディナンドも、私と似た者同士なのではないかと思ったのです」
フェルディナンドは、そう問いかけてくるローゼマインの黄金色の瞳に、その心配の気持ちを色濃く浮かべている瞳に見つめられて、事情を話すことにしたのでした。
『幸福な小鳥』第三話終わり!!
第四話ではお互いの事情を話す予定です!
<あらすじ>
フェルディナンドはロゼマさんに自分の事情を話す。
「私は本当はとある国の王子の一人だったのだが、
義母に疎まれ、呪いをかけられて…この銅像の姿に変えられてしまったのだ。
そしてこの町へと運ばれて、君と出会った。」
フェルディナンドが、ぽつり、ぽつりと言葉を零すと、
ローゼマインはフェルディナンドの肩に乗り、
「話してくださってありがとうございます」と頬ずりをする。
そしてローゼマインは、自身が魔力を持つ特殊な小鳥であると話す。
「わたしは生まれた時から、自分が仲間たちとはどこか違うのだとわかっていました。
仲間たちはおいしい木の実のことや羽の美しさばかり話していましたが、
わたしは人間の読む、本というものに…ずっと心を惹かれていたのです。」
ローゼマインはそうして森の中から町へとやってきて、
町の人々の暮らしを眺めながら、時々本を読む人の肩に乗せてもらっていたと話す。
「でも、本当に町に来てよかったと思います。
町に来たから本も読めたし、フェルディナンドにも会えましたから!」
「私も…この町に来たのは、呪いをかけられたからだけれども…
君と、こうして友人になれたのは、嬉しい、と、思っている…。」
そうして二人は、夕日が落ちて、星が瞬き始めるまで、ずっと…。
お互いの好きな事、大切な家族について、途切れることなく話し続けていました。