お題:『図書館』『ロジーナ』
<あらすじ>
いつ:アーレンドナドナ後
どこで:神殿の図書室で
誰が:ロジーナが
何を:図書室の本を
どのように:フェル様がいなくなって落ち込むロゼマさんを元気づけるために
どうした:両手に抱えるほど借りていった
<本編>
わたくしの名前はロジーナ。エーレンフェストの神殿長であるローゼマイン様の専属楽師です。今日はローゼマイン様が神殿へいらっしゃる日で、久しぶりにお会いするローゼマイン様の様子が気になっていたのですけれど。
神殿に訪れたローゼマイン様は、「皆、心配をかけましたね。わたくしは大丈夫です」とにっこりと微笑んでおられます。……とても貴族らしい、完璧な笑顔です。今まで神殿では気を抜いて楽しそうに過ごされていたローゼマイン様とは、まるで別人のように思えます。
わたくしたち側仕えは心配をしながらも、できるだけいつものように支度を整えていきます。ですがローゼマイン様は、フェルディナンド様の袖を無意識に探してしまうようで……。
「フラン、こちらの木札なのだけれど、フェルディナンド様に確認を、」
「ギル、フェルディナンド様に今日のスープはコンソメですよ、と伝えてきて、」
「ロジーナ、フェルディナンド様に新しい楽譜を贈りたいのだけれど、」
今日一日だけでも、これだけローゼマイン様はフェルディナンド様を呼ばれました。それにくわえて執務を行っている時も、ふとした瞬間に顔を上げては主のいない書き机を見つめ、つらそうに目を伏せ視線を逸らされています。
ローゼマイン様を、どうにか元気づけて差し上げたいのですが、わたくしにできることは、何があるのでしょうか。しばらく考えて、考えて。私は図書室の本をローゼマイン様にお渡しすることにしました。
「……私、図書室へと行って参りますね」
わたくしは立ち上がり、執務を行っているフランにそう伝えます。フランは一瞬怪訝な顔をしておりましたが、わたくしがそっとローゼマイン様に視線を流すと、わたくしの意図が伝わったのか、こちらをじっと見つめて一つ頷きます。
「わかりました」
そしてわたくしは、フランのその言葉を背にして、優雅さを忘れない程度に足早に図書室へ向かいます。
執務室から図書室へ向かう廊下。何度も通ってきた道のはずなのに、さらさらと楽し気に揺れる夜空色と、それに寄り添う大きな空色がないだけで、それだけでこんなにも……。
図書室に着くと、中はなんだか冷え切っていて、体がふるり、と震えました。わたくしは速く選んでしまおう、と足早に本棚の前に進み、厚みのある大きな本を何冊か棚から取り出します。ずらりと並んだ棚の中は、フェルディナンド様の私物の蔵書を取り出してしまったからでしょうか。随分と隙間ができておりました。
……ローゼマイン様のお心も、今はきっとこの本棚のようになってしまっているのでしょうか。
そうしてわたくしが執務室へと帰ってきた後、本をお渡ししたらローゼマイン様は、「ごめんなさい、今は読書はしたくないのです」と、隠し部屋へと入ってしまわれました。
フェルディナンド様が、帰ってきてくださったなら。
無力なわたくしは、そう願うしかありませんでした。