『腹心』とうらぶホラー
私は腹の中に刀剣男士を飼っている。
審神者になって、さて何年だろうか。私は多くの刀剣男士たちと歴史を守ってきた。本丸で彼らと過ごす日々。それはもはや私に取って何物にも代えがたいものとなっていた。
それが崩されたのは、唐突なものだった。
「……どうして」
──本丸解体通知。
内容はろくに見ていない。詳細を精査している場合ではない。
本丸が無くなる。私の本丸が。彼らと共に歩んだ本丸が。
なくなってしまう。
そんなことはさせない。
みんなで考えて、私が取った行動は以下だ。
まず、本丸にいる刀剣男士たちを本体である刀の状態に戻す。そしてそこから霊力を引っ張り出し、私の中に収める。そうすればいつの日か、再び審神者として就任できた時に霊力を戻しさえすれば、これまでと変わらない生活ができる。
多くの刀剣男士たちの霊力を収めればどうなるかはわからないけど、一人ぼっちで生きて行くよりずっとましだ。期日までに全てを終わらせ、政府に怪しまれない工作も完璧に行った。
こうして私は審神者の任を解かれ、それまで生きてきた時代で過ごしている。
私の彼らと共に、生きている。
□ □
「──あの」
「どうした?」
「先月に解体する予定だった本丸の件なんですが」
「あれは審神者が刀剣男士たちと共に逃げたから一旦保留で、後程こちらの権限で強制的に解体させることで決まっただろう?」
「はい。……今更ですが、担当していた《審神者》が見つかったそうです」
「大方、今までいた時代に逃げてたんだろ。これまでだってそうだった」
「前からこのようなことがあったんですか?」
「これでも減ったんだ。昔はもっと酷いもんだった」
「はあ…………」
「それで、わざわざ報告するってことは問題があったのか?」
「問題と言うか……ただ気になることなのですが」
「何だよ」
「監視をしていた者からの報告だと、言動の端々に刀剣男士たちがちらつく……とのことで」
「何だそれ」
「えっと……わかりやすいところだと鯰尾藤四郎が言っている「何とかなりますって」に始まり、よく本丸内外で彼らが話している言葉を多用するようになったとかで……」
「それ、審神者にはよくあることじゃないか」
「そうですが……それにしても限度があると」
「……。本丸解体を受け入れられず、心が壊れたか? だから逃げたんだろうし」
「そういう素振りは全くないんです。一般企業に再就職し、そこでの仕事ぶりもいたって普通で。気味が悪いと担当が話していました。正気のまま逃げたんでしょうか」
「そりゃないだろ。妙な話ではあるが……政府からのコンタクトがないことで逃げおおせたと安心しているのか」
「そうだと、いいんですが……」
「こちらでの解体はいつだ?」
「来週です」
「通達は?」
「しないそうです。もう、彼らどころか私たちに関わる術を、持っていませんから」
「じゃあ、時期が来るまで監視だな。ほどほどにしとけと言っておけ」
「はい」
「──神に魅入られた人間が、正気なはずがないんだからな」
□ □
どこにでもあるアパートの一室。
「これはまた…………」
「あ、先輩。遅いですよ」
「被害者の状況は?」
「……見ての通り、刃物で腹部をめった刺しです。何回かはわかりませんが、先ほど鑑識が「こんなに刺されるとは相当恨みを持たれていたんじゃなか」と言っていたので、かなりのものかと」
人が一人、亡くなっていた。
死因は失血死。腹部を刃物で刺されたことが原因と見られている。
「仏さんはどんな奴だ」
「このアパートには、一ヶ月ほど前から入居したそうです。周辺の聞き込みではゴミの日とか、騒音とか、よくある近隣トラブルは全くなくて、愛想がよくいい人だとのことです」
いい人、がこんな殺され方をするものか。
現場に入った男はそう呟きながら部屋の周りを見ていく。急須、茶筒。暖簾、文机まである。若い者が珍しい、和風の趣味なのか。机には花が飾られている。しかし花瓶は洋風のものだ。和歌の本、聖書、古事記。……どうにもちぐはぐな本棚の中身。
和風が主体の、多趣味……?
「でも隣の部屋の住人が、少し妙なことを話していました」
「……なんだ?」
「誰かと話している声がした、と」
生活音は一人のもの。しかし、ずっと誰かと会話をしていたそうな。
「会話……ね」
本人に聞いてみようかとも思ったが、それよりも不気味だから何も言えなかったと隣人は証言している。電話ではないかと聞いたそうだが、それはないと断言していた。
「そんなにくすぐらないでよ!」
そう、笑いながら言っていたことがあったらしい。
対人への対応はいたって良好。しかし、一人の時の言動が不明瞭。
怨恨。行きずりの殺人。自殺……は刺し傷の数からいってありえない。凶器も見つかっていない。男は様々な想像をしながら隣の部屋に入る。被害者のバッグを発見した。
「それと、さっき鑑識の人から変なこと聞いて」
「変なこと?」
「本当に詳しいことは解剖してみないとわからないそうですが」
切り口がおかしい、と言った。
「切り口?」
「はい。なんでも……」
その言葉を聞きながら、男は荷物の中から手帳を発見した。めくって、固まる。
□ □
本丸解体報告書。
本日、十三時で作業終了。
作業終了を確認、審神者の任についていたものは以上を持って権限を永久剥奪。
生活年代における監視も解くものとする。
以上。
「…………しっかし」
戦闘における、刀剣破壊の多さ。本丸内部で横行していた、刀剣男士たちへの暴力、その他。いつの時代もこういうことはなくならない。彼らが大切で、大切過ぎて狂う審神者もいるし、都合のいいおもちゃとして扱う審神者もいるし。歴史を守る、という彼らの仕事はなくならないが、後処理が役目の自分たちの仕事もなくならない。
勘弁してほしいよ、本当に。
「ろくな死に方できなさそう」
担当にメールを送り、遅い昼を食べに行った。
□ □
「──聞いてますか、先輩」
「…………いや、なんて言った?」
ちゃんと聞いてくださいよ。男の部下と思われる者は、呆れながらも自分の手帳を丁寧に見直す。男の目線は、見つけた被害者の手帳から動かないままだ。
「だから、この被害者の切り口が誰かに刺されたもの……つまり外から刺されたものじゃなくて、被害者の体内から外に出たような形状をしているんですって。でもそうなるとお腹の中にナイフ入れていないと絶対ありえないことだし、傷口は十や二十じゃないそうなんでサーカス団の人でも無理なことなんですよ。……ちょっと、だから聞いてますか?」
「ああ……」
男は、手帳をめくる。同じ言葉が書いてある。
「何かありました?」
そこで部下は初めて男の持っている手帳の存在に気がついた。
「んー?」
暗号かな? と呟きながら自分自身の手帳にメモを取った。
「この、と……刀剣? これで「だんし」って読むのかな。飼ってるって何ですかね。何かの集団? わかんないけど、この仕業ですかね」
手帳には、丁寧な字でこう書かれていた。
私は腹の中に刀剣男士を飼っている。
……わーいできたー。
後程細かいところを直してツイッターにあげますね。
アーカイブも残しておくので出来上がりお待ちください。