5RTで推しカプのどちらかが相手のピアスをあける
ひやりとした消毒液の感覚が耳朶に染みる。熱を奪って蒸発する感覚には、いつまでも慣れそうにない。手際よく手順を行う胡蝶の指先を、冨岡はただ黙って見つめていた。かちかちと金属の皿に器具が置かれる。細長い針と消毒液の入った小瓶、患部を拭う小さな晒と綿、金属の耳飾り。先端には薄紫の水晶がぽつりと乗っている。
「宇髄さんが仰っていたんですよ。忍は首も戻らない……って。どうやって死を報せるか、わかります? わからないですよね。まさかあんな方法で判別するなんて、私も想像していませんでした」
何度目の消毒だろうか。耳朶には感覚がなくなってきている。あまり神経が通っていないところなので、痛覚もないだとか、爪の先みたいなものですよ、だとか。ぐちぐちと胡蝶が説明を続けている。
(よく回る口だな)
言葉には出さず、心中におさえこむ。これから傷をつけられるのだ。彼女の手元が狂ってはたまらない。
「……さて」
息を一つ。にこりと微笑んだ胡蝶しのぶが、鋭い針を指先でつまんで冨岡義勇へと向き直った。
「開けますね」
「あける」
「ええ。一思いにいきます。鬼に刺されたと思って諦めてください」
向かい直ってただ一言。普段の日輪刀を針に替えて、胡蝶しのぶは微笑んでいる。と。視界が暗くなった。す、と耳朶に痛みが走る。暗くなった視界には、胸の感覚。胡蝶の胸が、冨岡の顔に押し付けられている。器用な物だと淡白な感想を抱いて、ずきずきと走る痛みには目をつぶることにした。
(さすが、です)
隊の命によって、識別のため隊士の耳に飾りをつけることとなった。家畜と同じか、と風柱が喚いたが、古来の文化と音柱の話をすれば黙った。まずは柱から試験的に、という隊の意向で、第一の実験台となったのが冨岡だった。
施術を行うのは、順当に胡蝶であった。既に耳朶が穴だらけの宇髄から施術法を聞いて、一先ず自分の身体で実践をした。確かに、耳朶にはあまり痛覚が無いという知識はあるが、心理的なものもあって痛みを感じないわけではない。その証拠に、自らの耳たぶは今でもじくじく痛んでいる。
針を通して装飾具を入れる。後ろを留めて、再び消毒。熱をもった耳朶が、ぷくりと腫れあがっている。
(無花果みたい)
出血は殆ど無いまま、施術は終わった。器具を片付け、消毒液をしみこませた晒で傷跡を拭う。痛いだろうに、冨岡の表情はひとつも揺れなかった。