2-1
サブタイトル 「レースを終えて(仮)」
「道中、向こう正面まではすごい手応えがありました」
 レースを終え、装鞍所(そうあんじょ)に戻ってきたリュミエールは担当調教師にそう報告した。
 この言葉が、一着でゴールした後であれば、と唇を噛む。
 騎乗馬・金獅子はたてがみが艶やかで美しい栗毛の4歳の牡馬だ。
 レース後らしく、火照った体から煙のように体温を放っている。
 気位高い性格のようで、疲れているはずなのに澄まし顔に見える。
 鞍上にいるのはすらりと伸びた四肢と整った顔立ち、金獅子に劣らずの艶やかな金髪の青年。
 下馬する前、馬上から装鞍所の様子をぐるりと見回した。
 お目当ての青い髪の姫の姿はない。
 てっきりお叱りの言葉をいただくのかと思いきや、影すら見えない。
 貴賓席から出る気にもならなかったのだろうと察して、気が滅入る。
 相当な不機嫌が考えられる。
「馬群から出してもらえなかったか?」
 細身で白髪交じりの中年男性が鳥打ち帽のツバをあげて、馬上の冴えない表情を捉えてくる。
 担当のフジー調教師だ。
 ベテランらしく、リュミエールに声を掛けながら、馬の状態を流れるように点検していく。
「いえ……」
 若い厩務員に支えられながら下馬し、言葉を濁した。
 素直に答えられなかった。
「3コーナー過ぎから急に手応えがなくなりました。金獅子が走る気をなくしたようです」
 荒い息を吐く金獅子の首筋を撫でる。
 発汗はあれど、レースの後とは思えないほどあまり疲れを感じさせない澄まし顔だ。
 もう一周、走ってこいと言われても問題なさそうだ。
 ただ、その鋭い瞳はリュミエールに向いていない。
「これだな」
 調教師が何かに気づいた。
 金獅子の鼻頭から額の流星にかけて、わずかに土がこびりついていた。
「泥、ですか?」
 リュミエールには思い当たる節があった。
 3コーナー手前に水溜まりがあった。
 金獅子は水溜まりの前にさしかかり、進路を外にとるような素振りをみせた。
 まだコーナーを二つ残しているのに、より外周に出てしまうのは大きな距離損。
 コーナーを曲がる定石、仕掛けにはまだ早いと感じ、金獅子の手綱をひきしめた。
 そのあと、前に走る馬たちの蹴り上げた土が飛び散った。
「金獅子は繊細なんだ。こういうのはイヤなんだよな」
 すまなかったな、優しくフジー調教師が詫びを入れながら、顔から土埃を払い落とす。
 ぶるる、と金獅子は何か言いたげに応えた。
 
 裁定委員から、八着という着順を告げられた。
 最後のゴール前で十頭以内に入った。
 十着以内で本戦に参加できるという条件はひとまずクリアだ。
 しかし、勝って当たり前だと思われているレースで、なにも出来ずに終わったのに等しい着順だ。
 本戦に出場できるなんて当たり前のことで、それが実績になることはない。
 世間の評価は惨敗以外の何者でもない。
 取材する競馬記者たちが気を使っているのがありありとわかるほど、緊張した顔が揃っていた。
 本当は勢いよく勝利のインタビューと持ち込みたいところだろう。
 遠慮がちに、馬の状態が悪かったのかと、妨害にあったのか、本気を出さない作戦なのかと、騎手の落ち度について触れない質問ばかり続いた。
「馬の状態は悪くない。本番に向けて引き締めたい」
 調教師は淡々と事実だけ語った。
 リュミエールもそれに倣い、馬群に包まれて実力を発揮できなかった、と述べた。
「本戦への抱負について一言!」
「ウィリアム陣営について、どう思われますか!」
「殿下にはどのような報告をされるのですか」
 矢継ぎ早の質問を無視していたが、最後の質問に思わず表情が歪んでしまった。
 記者たちを黙って振り切り、競馬の勝負服姿のまま、リュミエールは貴賓室に急いだ。
 金獅子の取り扱いは難しい。
 だが、その秘めたるポテンシャルを最大限発揮すれば、間違いなく勝てると確信している。
 あの感触は金獅子の背中に跨がった者でしか、わからない。
 言い換えれば、それは騎乗経験豊富で繊細な馬の扱いに慣れているベテラン騎手なら相応の成績が見込めるということだ。
 リュミエールはロイヤルガード。
 皇室や重要人物の警護や側仕えする身であり、馬に乗るのは任務を遂行するための一つの技術でしかない。
 競馬で日々研鑽している本業の騎手とはまるで違う。
 勝たなければいけないレースを騎乗の素人でいいのか。
 リュミエールは自分の考えを素直に伝えようとした。
 が。
 まったくの逆効果だった。
「言い訳なんて聞きたくない!」
 ばっさりと途中でさえぎられる。
 気まずい沈黙が続く。
 青空を映した髪と評された腰まである豊かな青い髪が揺らめていた。
 ふくれっつらの姫の表情を拝まず、ただひたすらひざまずき、頭を垂れる。
「……それで、次は勝てるの?」
 仕方なくメリーがようやく口を開き、リュミエールに問う。
 本戦で勝てるなら不問にしてもいい。暗にそう言っていた。
 しかし、リュミエールは正直に答えた。
「私の力量ではお約束できません」
 言い切り、あっ、とリュミエールは失敗したことに気づいた。
 メリーから扇子が飛んできた。
 避けようと思えば避けられたが、あえて額に受ける。
 言葉を発すれば罵詈雑言を飛ばすことが出来ただろうに、メリーはそのまま黙って、リュミエールの脇を通り過ぎ、部屋を出ていった。
 拳を震わせているのを視界の端にとらえながら、リュミエールはただ頭を垂れていた。
カット
Latest / 38:14
カットモードOFF
24:00
ななし@9e5865
直しじゃなくて原稿書いとるやんけw
24:31
みすてー
なんか書き始めちゃった・・・
24:32
ななし@9e5865
あっ名前出ないんか 石井です
24:43
みすてー
誰かと思えばwww
25:16
ななし@9e5865
ごめんごめん 名前出ると思ってた
26:28
みすてー
横書きのweb読みはかなり修正しないとものすごく読みにくい
27:42
みすてー
縦書きの本用には改行多いとうざいから、正反対
27:52
ななし@9e5865
いやわかるよ 縦書きと横書きは日本語の筋立てを変えないと伝導の系統が違うよね
28:44
みすてー
そして、直し始めるとあれもこれもになる
28:53
ななし@9e5865
わかるーーー
35:51
みすてー
キリないから終りーー!
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向き
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皇女殿下の競走馬 web用直し作業
初公開日: 2021年06月20日
最終更新日: 2021年06月20日
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コメント
webアップ用原稿の手直しです
コメントは適当に放り込んでもらえれば見ます。
余裕があるとき反応します。
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