赤い本を貰った。外国語で書かれている、立派な装丁の本だ。
物置の片付けの手伝いをしていて、ぼこんっと棚から落ちて頭で受けたのを、そのまま引き取ることになった。うっかり同じものを買ってしまったのか、続き物の一部が二冊。場所もとるし、古本屋には揃えて打ってしまうから、と駄賃替わりに真新しくも中途半端な三巻だけが、豆のつぶれた彼の手に置かれた。
そっちで古本屋にでも持ち込めば、それなりの銭にはなるでしょう。そう言われて、懐は空っぽのまま外に出る。女の子の手伝いであったから、彼はそれほど苦労とは思わなかったけど。率先して運んだ割れた大瓢箪や、何に使うのかもわからない大きな瀬戸物の壺なんかを運び続けたものだから、とっくにふくらはぎも二の腕もぷるぷるだ。ふるえるまま愛想よく笑って、おやつでも買ってくるよ、玄関をくぐった。
さすがに申し訳なくなったのか、女の子はお夕飯のおかずを一品に割り増しを申し出てくれた。大仰に喜んで、彼は鼻歌ヒヒヒと草履に履き替える。今日はとくべつ暇というわけではなかったけれど、暇は作るものだというのが彼の弁だ。赤い四角を引っ提げて、彼は坂を下る。
本というのは、刀とはずいぶん違う重さなのだなあ。そんなことをなんとは無しに考えて、足取りはぶらぶらと。歩きながら、下げた本をちょっとだけ捲ってみる。まるで唐草模様が踊っているようだった。全くと読めない。さっさと手放してしまおう。途中から平坦になって、石畳のようになった坂を上る。やがて通りすがりの中に学生服が目立ち始めた。書生風の男やカンカン帽被った青年が行き交う。
みな何かしら、分厚い本を持っていた。少し気恥ずかしい気になってきた彼は、目的の店を見つけて足を速める。ガラリと戸を引くと、古い紙の匂いで鼻腔がいっぱいになった。黄色い羽織を背骨で丸めて、いくつもの紙束の塔の間をすり抜ける。いかにも、という感じの気難しそうな人間が、虫眼鏡で帳簿を睨みつけていた。