赤い光だ。ここに着いてからというもの、私の視界は赤い光に支配され続けていた。
 何という効果かは忘れたが、赤色の光でも長く見ていると白く見えてくるらしい。脳が正常だと認識しようとするのだろう。
 しかし、どうしたことか金属性のボウルの表面を雫が覆い尽くして落ち尽くすまでここにいても、赤色は視界から離れなかった。
 対面の客はそろそろ食事を終えそうな雰囲気だ。勿論互いに何も言わないが、心の中でカウントダウンを刻める程度には次の行動がわかる。何を言われるかも。
 彼女は口元をナプキンで拭った。
 私はナイフとフォークを、×印になるようにそっと置いた。
 この歳になってナイフとフォークの置き方もわからない私に、何か凝ったことができるわけも無かった。
 
 鉄塔を去り、私は消えかけの青色の、暗い住宅街を歩いていた。
 灯りは遠く、向こうのほうと用水路の水面にばかり揺れていた。
 橋の下を潜り抜けようと、
「お前らが提供したんだろう!!」
 
 子どもの声かと思った。とっさに意識できないほど近くからの声だった。
 住宅街と、私の静けさを、その一声が破った。
 
 
 
 
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