にょた垢で連載しているお話をつらつらと書いていく。
※えちえちしーんは行かないので大丈夫ですが女体化苦手な人は気を付けてください。
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『十座、おいで。だっこしてあげる』
物心つく前から、十座の傍には臣がいた。大きくて優しくてあったかいお兄ちゃん。
人見知りをして家族以外の人にうまく甘えられない十座だったけれど、臣にだけは心を開くことができた。
口下手で恥ずかしがり屋な十座の言葉を、臣はいつだって焦らずにじっくりと聞いてくれた。
弟の九門が生まれてお姉ちゃんになったのに、と両親は苦笑していたけれど、十座は臣に甘えるのが大好きだった。
抱っこもおんぶも手をつなぐことも、もしかしたら実の両親よりも臣とのほうが多く触れ合っていたかもしれない。
それくらい、十座に取って臣は大きな存在だった。臣は十座のどんな我儘も笑顔で聞いてくれた。
自分の誕生日に、臣がケーキを作ってくれたとき。そのあまりの美味しさに、十座は思わず口にしてしまっていた。
美味しいケーキを作ってくれる、臣さんのお嫁さんになりたい、と。
もし、あの時の言葉を、本当の妻になった今、ほんの少しだけ後悔していると口にしたら、臣はいったいどんな顔をするのだろう。言えるはずもない言葉を飲み込んで、ただいたずらに流されるまま時を過ごした。
臣の人生を縛るつもりはなかった。けれど、子どもがもつ純真ゆえの残酷さが、確実に一人の人間の人生を不幸にした。
臣さんにはもっと違った人生があったはずだ。いつしか十座はそう考えずにはいられなくなった。
パティシエの勉強をするために専門学校に行くと聞いたとき、寂しさと申し訳なさにも似た苦しさを感じた。それが罪悪感なのだと学んだのは、十座が中学を卒業するときに初めて臣からキスをされたときだ。
二人だけで特別なお祝いをしようと言われて、両親も弟もいないときにケーキを作ってもらった。
嬉しさと気恥ずかしさで胸をいっぱいにしている十座に臣は……キスをしてきたのだ。
『臣さん……』
『十座が好きだ。心からお前を愛してる。俺たち、これからもずっと一緒にいような』
そのとき、十座は理解した。問いかけのようにも、強制のようにも聞こえたその言葉に、あのときの自分は何と返事をしたのだろう。
自分が兄のように慕っていた感情とは別の種類の好意を、臣が自分に対して抱いている。
そんな感情のすれ違いを理解できないほど、十座はもう子どもではなかった。
キスをしてきた臣が、その次に何を望んでいるのかも、何となく理解した。
ただの幼馴染じゃない。もうそんな関係で居続けられない。
抱っこをしておんぶをして手をつないで、……そんなおままごとのような関係は、すでに終わりを迎えていた。
臣の人生を狭めてしまった。彼の可能性を潰してしまった。その罪を償わなければならない。
キスをされたその日、十座はようやく理解した。己がこれから、何をしていかなければならないのかを。
人知れず覚悟を決めた十座の瞳を見て、あのときの臣は何を思ったのだろう。
もしかしたら彼も、あのときに気付いてしまったのかもしれない。
自分が抱く感情と、十座が抱く感情の種類が違うことを。けれど、それを見ないようにしたのではないのだろうか。優しい臣はきっと、誰よりも傍に居てくれた臣はきっと、十座の本心を見抜いていたはずなのに。
十座が高校を卒業したその日に改めてプロポーズをしてきた臣を、ついに十座は拒めなかった。
***
「……ん、」
頬に柔らかい感触が当たったような気がした。それに覚醒を促された十座は、ぱちりと瞳を瞬かせる。うっすらと開いた視界の中で、ぼんやりとした白い光が窓辺から差し込んでいるのが見えた。
「おはよう、十座」
「……はざ、っす。臣さん」
発した声は、残念ながら枯れていた。無理もない。昨夜、あれほど鳴かされてしまったのだから。
体も睡眠をとった後とは思えないほど重かった。ゆっくりと起き上がる十座の背を、臣はいたわるように優しく支えてくれる。
「ごめんな。昨夜、ちょっと無理させたな」
「……大丈夫、っす」
「朝ごはん、テーブルに置いてあるよ。片付けはやらなくていいから」
「……あざっす」
さすがの臣も、昨夜のことはあまり良く思っていなかったのだろう。言葉の節々に十座へのいたわりと申し訳なさを滲ませている。
「俺はさきに店へ下りるから、十座はゆっくりでいいからな」
「……ん」
朝の夫はとても忙しない。十座が目覚めるよりも何時間も前に起きて、階下にある店の厨房へ行き、ケーキの仕込みを行う。そうして十座の朝ごはんを作って起こしてくれたあと、ふたたび厨房へ戻って仕込みの続きをするのだ。十座はその間に、店内外の清掃や必要な備品のチェックをし、開店準備を進める。
店の規模も知名度もさほどしれているから、こうして何とか二人で切り盛りできているのだ。
もし、この均衡が少しでも崩れてしまったら……臣か十座、あるいはどちらともがダウンしてしまうかもしれない。
「今のままでいいんだ、……たぶん」
念じるように、言い聞かせるように十座は呪いの言葉を口にした。夫の口癖でもあった。今のままがいい、今のままが一番幸せだ、と。
「……あ、」
と、ふいにサイドテーブルに置いてあったスマホが目に留まった。普段はそう頻繁に画面を覗き込んだりしないが、見慣れないランプの点滅に気付き、慌てて手に取る。
『明日店開いてる?』
万里からのメッセージだった。昨夜届いていたらしい。十座は慣れない指使いに苦戦しながら、返事をする。
『開いてる』
そっけない返事だけれど、万里はたまたま画面を見ていたのか、すぐに返事が来た。
『んじゃ行くわ』
『おはよう』
『いまさらw おはよ』
若者だからだろう、と十座は勝手に万里の変身の速さに驚きつつも納得した。
『旦那は?』
『仕込みしてる』
『あっそ。じゃ、16時ごろ行くわ』
『わかった』
絵文字もスタンプもない、どこか淡々としたやり取りだが、自然と十座の口元には浮かんではいけない笑みが浮かんでしまっていた。
***
「な、なんだこれ……」
十座はその光景に腰を抜かしそうになった。いつものようにまずは店内の清掃を完璧に終わらせ、今度は外の穿き掃除でもしようとレースのカーテンを開け放った。そのとき十座の視界に飛び込んできたのは、すでに数人が並んでいるという驚愕の行列だったのだ。
これは初開店の日以来かもしれない。そのときは、弟の九門と従弟の椋をピンチヒッターに迎え、何とか乗り切ったのだが……。
店の規模を考えてくれる優しい常連客に恵まれた小さなケーキ屋は、それ以降とくに殺到する客捌きに困る、なんてことはなかったが、これは由々しき事態かもしれない。
「しょ、少々おまちください……」
十座はしどろもどろになりながら、手早く開店準備を済ませると、久方ぶりすぎる大勢の客捌きに追われることとなった。
何とか第一陣をさばき切ったが、第二陣は夕刻ごろにやってきた。
元より客層は若い女性が多かったが、放課後に突入したと思しき女子高校生たちがきゃっきゃっと愛らしいはしゃぎ声をあげながらゾクゾクと入店してくる。
十座は慣れない営業スマイルを貼りつかせながら、何とか一人また一人と客をさばいていった。
「……なんだよ、えらい繁盛してるじゃん」
「……! 摂津!」
そんなとき、どこかひょうひょうとした醒めた声音が店内に響いた。はしゃぎ声を上げていた女子高生たちは途端にひそひそ声になり「摂津万里じゃない?」などと友人同士で確かめ合っている。
「よう、兵頭。……手伝ってやろうか?」
「え?」
「お前は注文聞いて。俺が包装やっから」
そのほうが早いし効率いいっしょ、と一方的に投げかけて、万里は制服のブレザーをさらりと脱ぐと、予備のエプロンを手早く身に着けてズカズカとカウンターの中に入ってくる。
「おい、摂津……」
「大丈夫だから。ほら、次のお嬢さん、どうぞ」
狭い店内で、まるでムカデ競争のように列をなしている女性たちにどこか嘘っぽいきらびやかな笑顔を振りまく万里に促されるまま、十座は目の前のお客のケーキ選びを手伝った。
「……ありがとうな、本当に。すごく助かった」
気づけば閉店時間に迫り、ショーケースの中は空っぽになってしまっていた。
焼き菓子以外に売れるものもなく、体力の限界に達していた十座は店主である夫と相談し、今日はすぐに店じまいをすることにした。
万里は、イートインコーナーの背の高いスツールに優雅にこしかけながら、十座が差し出してくれたコーヒーを一口含む。
「まー、俺にかかればこんなもんっしょ」
「ふ……、そうだな。お前のおかげだ」
自分ひとりだったら、あの客数をさばき切れただろうか。いつまでも不器用な自分が嫌になるが、こればっかりはしょうがない。
それにしても、思わぬ助っ人の登場に、十座は多大な疲労感に包まれつつも笑顔だった。
お礼に、と夫がいくつかケーキを用意してくれたが、そのほとんどをなぜか十座に譲ってくれたのだ。
「摂津は、器用なんだな。カフェでバイトでもしてたのか?」
「いんや。バイトなんかしたことねえよ」
「そうなのか? でもすげえ手慣れてるように見えた」
「惚れた?」
「馬鹿か。ったく……」
チェシャ猫のようににんまりと目を細める万里のデコを指先でつついてのけぞらせた十座は、「でも助かったのは本当だ、ありがとう」と笑顔を浮かべる。
「んじゃ、旦那と交渉してよ」
「は? 何をだ?」
「俺がここのバイトになる話。今日のあれ見たら、さすがに納得せざるを得ないんじゃね」
「お前、金に困ってんのか……?」
途端に神妙そうな面持ちになった十座に、万里は「ちげえよ!」と呆れたように反論する。
「金に困った事なんかねえって。ただ、バイトとかしてみるのも社会経験っつーの? いいんじゃねえかと思っただけ」
「そうか。でもうちはそんなに繁盛してないから、お前を満足させてやれるほどの時給は……」
十座が難しそうに唸ると、万里は小さく首を振って「最低賃金でいいって」と笑って見せた。
「言ったろ? 金には困ってねえって。いたいけな学生に、社会の厳しさを教えてくれよ、兵頭」
「……そういうことなら、……臣さんに、聞いてみる」
駄目だったらごめんな、という十座を見つめながら、万里はどこか意地悪そうに唇を歪めた。
***
「十座、今日はお疲れだったな。何だったろうな、あの客の数は……」
「あー、なんか、芸能人の人が、うちを紹介してたらしいっす」
これ、と十座がスマホの画面を夫に見せてやると、そこには子役時代から活躍する俳優の皇天馬が、実はお忍びで通っているという話題のケーキ屋のネットニュースが出ていた。
外観はボカされているものの、ネット民の特定力にかかればモザイクなどあってないようなものだ。
「へえ、そんなお客さんもいたのか。全然気づかなかったな」
「俺も知らなかった。びっくりしたし、すげえ疲れたっす……」
ソファの背もたれにたっぷりと背を預けてしまう愛妻の頭を、臣はやさしく撫でながら「頑張ってくれてありがとうな」とねぎらいと感謝の言葉を惜しまない。
「そういえば、手伝ってくれた子がいたんだっけか」
「ああ。前に話した、たまに来る高校生の子で」
十座がそう話をつづけると、なぜか臣の片眉はぴくりと反応する。
その変化に気付かない十座は、胸の前で両手を重ねるようにして、夫をおずおずと見上げた。
「それで、あの……臣さんに頼みがあって、」
「うん、なんだ?」
「その子がうちでバイトしたいって言うんだ。金に困ってるとかじゃなくて、社会勉強がしたいんだって」
「バイト?」
今度こそ十座にも分かるくらいはっきりと臣の顔が不満げに変わった。そんな顔を見るのは記憶にないくらい久しぶりだったせいで、十座は首後ろに嫌な汗をかく。
「断ったんだ。けど、時給は最低賃金でいいし、今日みたいな日が続いたら、俺が倒れちまうって心配してくれて……見かけはチャラそうだけど、悪いヤツじゃねえんだ」
「……でも、男だろ?」
「お、男だけど……、九門や椋みてえなもんだろ」
臣にも慣れ親しんだ弟や従弟の名を口にしたが、臣の顔色は晴れない。
「……臣さん、その、店が落ち着くまででいいんだ。あいつの言うとおり、こんな日が毎日続いたら、アンタも俺も倒れちまうかもしれねえ」
「…………わかったよ」
少し長い沈黙の後で、臣は肺の奥から空気を吐き出すようにして、そう諦めの言葉を口にした。
本心としては雇いたくないのだろうが、十座の言うとおりあの忙しさが連日続けば、それこそ十座が過労で倒れてしまうかもしれない。
「その代わり、店以外でその子と関わらないって約束できるか?」
「え?」
「十座のことが心配だから雇うんだ。その子のことを、俺は信用したわけじゃないから」
「……わかった。約束する」
神妙に頷く十座に、臣は小さく息をついて、それからなぜか額をこつんと十座の横髪に充ててきた。
「臣さん?」
「俺も今日は少し疲れた。甘えてもいいか?」
「……ん」
今日はいろんなことがあった。そんなことを考えながら、十座はもたれかかってきた臣の頭を、まるで幼子にそうしてやるように、よしよしと撫でてやった。
とりあえず今日はここまでにしておきまーす。
ハート飛ばしてくれた方ありがとうございました!らぶ!
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臣十♀摂兵♀をのんびり書く
初公開日: 2021年05月15日
最終更新日: 2021年05月15日
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コメント
にょた垢でちょこちょこ書いているやつをちょこちょこ書いていく。ときどき抜けたりするかも
展示用臣十今からでも書けんじゃね選手権
せっかくのWEBオンリーなのに再録だけで申し訳がすぎるので、1時間くらいで書いてみたいと思います。現…
R-18
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