「婚約解消いたしましょう」
涼やかな声と爽やかな笑顔でそう告げたのは、学園一の才媛と名高いシャーウッド辺境伯令嬢、コーデリア・シャーウッド。にこやかなのは彼女だけ、水を打ったように静まり返ったパーティーホールに、誰かがごくりと生唾を飲み込むような音が響き渡った。
複雑に結い上げたコーデリアの黒髪が、さらりと一房細い肩に落ちる。溜め息が出るほど美しいその所作に、普段であればきゃあきゃあと高い声を上げるはずの彼女の“ご友人”たちも、今はただただ厳しい目をしてコーデリアの後ろで唇を噛み締めていた。
「……何だと?」
周囲の視線に気圧されてか、震えそうな声で質問したのは、コーデリアの真正面に立つ青年だった。コーデリアの美しさに引けを取らない金髪碧眼の美青年、ケネス・アーノルド。王都近郊のサンチェス領を治める侯爵家の次男坊である。
ケネスは普段の癖通り、ファサリと己の長い前髪を指で梳いてから腕を組んだ。絵になる美男ではあるが、いかんせん中身が伴っていないのを知っているので、コーデリアとしては失笑ものである。
一歩前に出たケネスに従うように、彼の腕に絡んでいた女子生徒が大きな桃色の瞳を潤ませた。その視線は一瞬たりともコーデリアには向けられない。大したものだと感心しながら、コーデリアはゆったりと余裕をもって笑みを深めた。
「婚約を解消いたしましょう、と申しましたわ」
「まさか、君からその言葉を聞くことになるとは……」
「あら。まさか、はこちらの言い分ですけれど」
「そちらから切り出すおつもりだったのですか?」
「公衆の面前にもかかわらず婚約者でもない女性を傍らに侍らせ、与えられた情報のみを信じ込み己の手で調査しようともせず、挙句の果てに明日の夜会で婚約破棄を高らかに叫ぼうと画策するような」
「そのような腑抜けた殿方が、我がシャーウッドの婿として相応しいとでもお思いで?」
「サンドラ」
「はい、お嬢様」
「長い間ご苦労様でした」
「勿体ないお言葉でございます」
書いてるうちに生えてきた設定まとめ↓
コーデリア・シャーウッド
黒髪黒目。シャーウッド辺境伯の一人娘。
ケネス・アーノルド
金髪碧眼。サンチェス侯爵家の次男坊。美形でそこそこ武術も出来るが、色々と取り繕った結果なので残念な人である。婚約解消後は理由をつけて国外へ飛ばされる。
サンドラ・ノークス
幼い頃からコーデリアに仕える隠密家系のメイド。コーデリアのこと以外は割とどうでもいい。かなりの演技派。
・今日は王都の貴族学校のパーティー
・明日は建国記念の夜会があって伯爵位以上の子息令嬢で成績優秀者のみ参加できる
・なので今日はその夜会出席者の発表と、予行演習みたいなものも兼ねてる
・シャーウッド家の婿に相応しいか見極めるテストのため、サンドラによるハニトラを仕掛けられたケネスは簡単に罠にかかり、明日の夜会で婚約破棄を宣言しようと画策するが、前日のパーティーでコーデリアから婚約解消を告げられ、プライドバキバキにされた上に愛したサンドラも仕込みだったと知り、醜態をさらした挙句に国外逃亡する