*
優しい日差し。
穏やかに流れる、青い天井、白い綿雲。
広い大地。
豊かな自然。
多くの動物たち。
遠い昔、少年時代を過ごした農村は、そんなところだった。
あの静かでのんびりとした村が炎に染まったのは、いったい私がいくつの時だっただろうか。
あの日、牧童のうたう声が、銃声にかわった。
爆撃機の轟音が耳を張り裂くように鳴り響いて、硝煙の匂いに息もできないほどだった。
閃光。血飛沫。真っ赤な空。燃え盛る炎。
私は、大勢の家族を喪った。母親だけがのこって、ふたりで手をつないで、放心状態のなか焼け野原を歩いた。
故郷はあのとき、なくなった。
都会へ向かう人たちで混みあった列車に揺られ、気がつけば、周りに広がる景色は、がらりと変わっていた。
到着したのは、この国でも屈指の大都会。
大きな駅舎に、忙しなく出入りする長い長い列車。行きかう人々もどこか忙しそうで、そして全てが異国のようにお洒落だった。
ゆっくりと開いた列車のドアから、一番に飛び出る。胸の中は、新たな生活への期待でいっぱいだ。
母親の手を引いて、外へ外へと急かす。
母はよろけながらも、小さく笑ってついてきてくれた。
都会に越してきて、変わったものと言えば──、ありすぎてきりがないくらいだ。
新しい家、新しい友人、新しい生活、馴染みのない文化。新しい趣味には、がむしゃらに打ち込んだ。
今思えば私はただ、父と祖父母、兄妹を喪った悲しみを紛らわしたかったのだろう。新たなことにのめり込むことで、過去の苦しみを塗りつぶそうとした。
その思いはきっと、母にも伝わっていた。その生活に慣れて一年ほど経ったころから、私と母二人きりの暮らしが、何となく不自然なものになっていっていた。
そんな時期だった。
夜更け頃に仕事に出ていく母と一緒にいるのが気まずくて、私は夏の間、学校から家へ帰るまでの時間を遊んで潰していた。部活動が終わるのは19時30ほどだったので、およそ二時間と少しほど外にいたのだろうか。
子供が出歩く時間ではない。そんな常識からは目をそらして、精一杯大人びた表情を作った。幸いか、そうでないか、私は当時から背丈に恵まれていたので、2、3歳年齢を盛るのはそれほど難しくなかった。
夜半の夜闇が祟った。
私は道端に停まったトラックに突然引きずり込まれた。
訳もわからないまま、何か鋭いものを腕に刺される。一瞬、神経に痛みが走った。
前も後ろも見えない真っ暗闇の中ふらりと倒れ、そのまま意識を失った。
それから何時間後だろう。
がんがんと激しい頭痛に目を覚ますと、私は知らない部屋にいた。
ちかちか点滅する蛍光灯と、灰色のコンクリートだけの、殺風景な部屋だった。空気は冷たいが、濁った感じがする。地下室だろうかと予想した。
姿勢を変えようと思って身じろぐ。しかし強く緊縛され、身動きが取れない。両手両足を縛られていることに今、気づいた。
顔だけを上げて、自らに影を落とす巨躯を見上げる。
こちらをのぞき込む彼らからは、シンナーとアルコールの混じった嫌な匂いがした。
彼らが何かしゃべっていることはわかった。聞きなれた言語であることも。しかし霞がかった思考では、その会話の内容まで理解することはできない。
あの針は注射針だったのだろう。何かおかしなものを注射されたに違いない。なぜだか頭が朦朧としているし、身体に力が入らない。
男たちはひとしきり話したあと、またこちらを向いた。
そして先頭にいた一人が、ぼんやりと大人しくそこに転がっていた私の肩をいきなり揺すぶった。
「おい、お前名前は?」
こちらにかけている、明確な質問だ。それは十分理解できていた。
しかし、霧がかかった私の頭では、それに対する受け答えを紡ぐことはできない。口が動かないのだから。
ぼんやりと佇み続ける私にしびれを切らしたのか、男がもう一度声を発した。
「……おい。聞いてんのか」
「……う、、う、……ぁ…」
ただ、わめく。
恐怖の渦。彼らは敵か。脅かす存在か。
己を叱咤して、泣くな、と制した。
「ああ、まどろっこしい。わかったじゃあ、質問を変える。お前、女か、男かどっちだ」
男は、両手の指を一本ずつたてて、順に示した。
右なら男、左なら女、か。
右側を顎でしゃくった。
「男か…本当かねぇ。こんな髪しててよくまあ言えるよ。……ま、今のところは信じるさ。
…坊主、俺のもとで働け。有無は言わせねえ」
それが、このグループとの出会いだった。
彼らは多くを教えてくれはしなかった。
だから私は、自分一人で戦った。魔法の訓練は、夜中に起きては同じことを繰り返した。図書館から本を盗んで、読み終わったら返してまた盗む。それで全てを学んだ。魔法学、世界史、政治の仕組み、神話、社会でのルール、世界の郷土芸能や料理。役に立ちそうなことはすべて、読んで詰め込んだ。
ともに仕事をする仲間はいない。彼らの他人行儀な後ろ姿を見つめて、ひたすら心を無にして働いた。寝る時間は一日4、5時間あればいいほうで、食べるものは自分で調達した。それができない奴なら死ぬんだと、それが彼らの誇りだった。
分け合ったり与えられたり、人と人とのコミュニケーションは、彼らに言わせれば「慣れあい」だった。俺たちはそんなもの無用だと、救けを求める仲間の手を振り払った。死を押し付け合い、同僚を踏み台にして上へ登っていく。
美しくない。
人を殺して金を手に入れて、する必要もない贅沢をする。そんな外道たちを見ても、私はそうとしか思わなかった。
嫌悪ともつかない、半ばあきらめに似た感情。
上からの指令には何も言わず従い、報酬はその日の分のパンを買ってあとは井戸へ棄てた。この街で宵越しの銭は、邪魔だった。
財布の中身がじゃらじゃらと深い井戸に落ちていく光景を、呆然と眺める貧困層の母子がいても、目の端にも映らない。
人間らしい情の動きは、とうに無くしてしまっていたのだ。
その生活にも慣れて、2年ほどが経った。
いつものことだった。ここからそう遠くない地へ船で渡り、薬を運んで来い、と。
私は毎度のごとく躊躇うこともなく依頼を受け入れて、指示されたままに船に乗った。
母国の言葉が通じない未開の地。けれど臆することなどなかった。死んでも生きていても、苦しさは変わらないと信じ込んでいたからだ。
鞄に薬を押し込んだ。気づかれないように国境を越える。真夜中、片田舎の海岸に上陸するなど、簡単なことだ。
任務の目的地、ロンドンへと移動して、薬を依頼主に手渡した。商品に損傷はなく、依頼を間違えてもいない。完璧だった。
23時を回って少し経ったころ、私は宿へと足を進めていた。
石に躓いたわけでも、突如攻撃されたわけでもない。
ぐらり、視界がいきなり傾いた。
見上げた空は、濁った色をしていた。
そこで、記憶が途切れた。
*
目が覚める。
またしても、知らない部屋にいた。そう、いつかのように。
ばっ、と上体を起こす。まず、あたりへ視線を巡らせた。
そして映る、人の影。知った人物ではない。
とっさに、今の今まで横たえられていた真っ白な何かから飛び降りようと、本能的に思う。
脚に力を入れる。しかし。その瞬間、体中に、しびれるように痛みが走った。
──ちからが、入らない。
へたりと、起こした上体が、元通りにたおれた。
薬を入れられたか。では敵か、いや──
すぐに気づいた。彼は、私に手を出す気は、きっとない。少なくとも今のところは。
拘束はされていないし、台のようなこの白い何かは、ふかふかのベッドだ。
腕に繋がる管はきっと、点滴だろう。
まだ油断はできない。けれど、私をここまで丁寧に扱って、回りくどく殺す意味はない。寝台の隣の椅子に座るこの人物が、普通といえる価値観の持ち主だったら、だが。
「気がついたかい」
人物が声を発する。その低い声に、すぐに男性だとわかった。
力が抜けて思うように動かない首をまわして、その男の方へ顔を向ける。
「無理に動かなくていい。辛いだろう。
まず、状況を説明しようか」
やさしい口調。遠い、雲の上に消えた、……父親のようだった。
不意に感傷がよせて、視界が潤んだ。でも、その液体が頬をつたうことはない。泣くことなどもうとうに捨てて、泣き方でさえも、忘れてしまったのだ。
ほんの少しだけの涙を浮かべたまま、彼の顔から目をそらせずにいる私に、彼はすべて分かっているかのようなまなざしを向けて、何も言わずに抱きしめてくれた。
私の気持ちも。辛さも、過去も。
全部、知っているみたいに、彼は抱きしめ続けてくれた。
それは、あの日から、私が求めていたぬくもりで。
あの日こらえた涙を、私はやっと、流すことができた。
ひとつ、ふたつ、涙をこぼして、けれどそれ以上は無理だった。
すみません、と、つぶやいた言葉はかすれていた。
彼はしずかに笑って言った。
「きっと泣くことを、長らく封じていたのだろう?
無理はしなくていい。けれどわたしのまえでは、我慢せず泣いてくれ」
彼の言葉に小さく頷くと、彼も頷き返してくれた。
「わたしはメアコラス・ラバトール。
ここは、イグニハイドファミリーというファミリーの本拠地、本邸と呼ばれる屋敷だよ。
倒れている君を偶然見つけてね。ボスの命で、こうして保護したのだよ。お抱えの医者に診せたが、過度の疲労だそうだ。安静にしていれば、すぐに良くなるよ。
ああ、そうだ。君の名前を教えてくれるかい?」
お喋りですまないね、と、彼は気さくに笑う。
私も、素直に名前を明かす。
「ルーク・ハントと言います。
貴方がたは──、イグニハイドファミリー、なのですね」
「ご存じだったかな?」
「ええ……実際に領地に入るのはこれが初めてですが」
「そうだったか。
落ち着いたかな?」
「はい。取り乱しまして、すみません」
「気にしないでくれ。
起きたら知らせるようにボスに言われていてね。お呼びしよう」
ラバトールと名乗った彼はそう言って席を立った。
いまだ力が入らない両手を手持無沙汰にほんの少し動かして、彼が戻ってくるのを待った。
しかし、ボス、か。
イグニハイドファミリーを知っている裏社会の人間は、直接関わったことのある者たちだけだろう。
そしてイグニハイドファミリーを知っている一般の人間は、まずいないと言っていい。
大規模なファミリーほど、姿を隠すのが上手いものだからだ。
そんな一大ファミリーの、ボス。
一体どんな人なんだろう。そして……、私に何を求めているんだろう。子どもが倒れていたからとすべて拾って保護するなんて、ありえない。マフィアは慈善事業じゃないのだから。
泣かせた後って収拾が大変…どしよこのあと
とりあえず
状況を説明することと、
ボスが謁見にくる、のは決定
いや…いける気がするな?ちょっと書いてみよ
あッまって このとき、ボス先代か…???待って~六話見てくるww
ボスがボスになったのは10年前…だそうです。12歳なんで、今書いてるこの番外編の時点で13歳なのでもうボスですね。ありがとうラバ氏。君の発言は進行を大きくきめたよ。
かっこいい!!
ここから誰かしらモブ出るけどラバ氏にする?知らない奴にする?w
ルクハンとらばとるなんかあったらかわいいな…
ラバの息子に似てたとか…ベタww
ルクハンの魔法を矯正したり常識を教えたり?wしたのがらばとるとか…
それで「先生」「ルーク」って呼んでたら可愛いな…?CNじゃなく
ね…そうしよw
飛躍ww ラバ死ぬときか…遠くないな…(感傷に浸る)
なにこれwwww つくるか…!ラバトールファンクラブ略して「RFC」。
いや多いwwwハートが多いwww人気キャラかよww
Lかもしれないな…?わかんないw そだねwルークはRだから…Rでもいいけど、Lでも対になっていいね
けど、ジェとフロが「Left」と「Right」だから…かぶりますかねw
戦火により都会へ、9歳
かどわかされる、 13歳
イグニの領地へ、 14~15歳