都市の名前は藤橋市、村の名前は水無みずなし村。市の北側、東西に広がる山脈の中程に位置するそこは、特筆した何かがあるわけでもない小さな村だ。
 強いて言うなら、水が無いと書く割に大きな水源が近場にある、といったことくらいか。それも明治の初期に麓の貯水池が整備されたため、今はただ中規模程度の湖が残っているだけだ。
 そんな何もない村に、私鉄、バス、ロープウェイ、そしてローカルバスにタクシーまで乗り継いで、わざわざやってきた男が一人。
 見るからに外国人だとわかる、背が高い青年だ。髪は淡い栗色、目は深い森のようなグリーン。背負ったバックパックは子供一人がすっぽりと入ってしまいそうなほど大きく、旅人であろうということは想像に容易い。
 しかし、旅人が水無村に立ち寄る理由は何だろう。あの閉鎖的な過疎の村に、外国人と付き合いのある人間なんていないはずなのに。
「古い知り合いに会いに来たのさ。とびっきりの美女に、ね」
 不思議に思ったタクシーの運転手が興味本位で問いかけると、薄い色のサングラス越しに軽くウインクしながら、流暢な日本語でそう言った。
 なんとなく、タクシーの運転手は感じるものがあったらしい。水無村の手前、タクシーが入れるギリギリの車道で青年を下ろすなり、運転手はさらさらと慣れた様子で乗車名簿に書き込んだ。
 外国(おそらくイタリア)人男性、一人。藤橋駅前から乗車、水無村手前で降車。
 西日の差し込む夕暮れ、タクシーの背後で、木々が長々と黒い影を伸ばしている。下車する間際、指を二本立てて「チャオ!」と言っていたから、多分間違いないと思うんだけどなあ。そう考えつつ、運転手は市内へとタクシーを走らせていった。
 鼻歌混じりに村へと向かう青年の影がその足元に見当たらないことになど、ついぞ気が付かないまま。
   *
 日本の夏はノイズがひどい。しみじみと実感しながら、楽々浦ささうらは大きく伸びた杉並木をじっと見上げた。
 重怠い空気感よりも、彼には騒音が気になった。日本人はこれを「声」と称すらしいがどうだろうか。虫が喋るだなんて、チープなB級映画じゃあるまいし。
 バイクに乗って悪を倒すニチアサヒーロー作品のファンに喧嘩を売るようなことを考えつつ、タクシーの運転手から言われた通り、小道を真っ直ぐに歩いていく。
・湖に差し掛かり麻湖と出会う
・水無村へ
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狂気山脈見ながら書いてるから めちゃくちゃえべたんとK2の話書きたくてたまらん
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ナポリ山脈終わったので寝ます
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水無の山
初公開日: 2021年02月28日
最終更新日: 2021年04月04日
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八月半ば。藤橋市北区、水無村と呼ばれる小さな過疎の村に、一人のイタリア人観光客が訪れる。母の古い知人に会いに来たはずの彼は、ひょんなことから知り合った村人の少女と共に、水無村の隠された歴史を暴いていくのであった。