賢者の書に、二十一人の魔法使いの記録。
日々、少しずつ積み重なっていく。その厚みが、そのものが、賢者にとってとても大切な絆の形だった。
みんなの好きなこと。嫌いなこと。微笑ましい思い出も、悲しく切ない記憶も、この本にぎゅっと詰まっている。
宝石箱みたいに、きらきらと。
それを付箋でもっと彩ろう。ふとした思いつきが、賢者の書をなおさらに賑やかにさせた。
誰が、誰にたいして、どんなイメージを持っているのか。どんなときに、なんの話をしたのか。付箋に記す内容は、なんでも良かった。
――ある時、それは偶然廊下で出会ったファウストからの言葉だった。彼はコーヒーカップを持っていて、良い香りですねと賢者が褒めたとき、こう言った。
『そうだな。……とても意外だった』
何がですか、と訊ねると、彼はコーヒーの水面をぼんやりと見下ろして、
『あのミスラが、まともにコーヒーを作ってくれるとは思わなかった』
ぽつりと、そう。
気づけたのは偶然だったかもしれない――そのくらいの、微かな笑みを浮かばせたのだった。
――そうして、またひとつ。
賢者の書の、ミスラのページ。
付箋は、紫色から青色へのグラデーション。紫陽花のような彩りが、ふたりには似合うと思った。
『「ミスラがいれてくれたコーヒーはわりと美味しかった」と、ファウストが話してくれた』
ファウストから、ミスラへ。
それをぺたりと貼り終えて、賢者はくすっと笑う。
賢者の書を、宝石箱の蓋を閉めるときみたいに、ゆっくり大事にパタンと閉じた。