白衣を着て俺の前に立ったその人は、すっかりお医者さんだった。
「今日から俺が担当医だよ。」
「へぇ…あの阿部ちゃんがすごいね……。」
「なんなの、ラウのためにお医者さんになったんだから。」
えっへん、と腰に手を当てて笑う彼に、思わずこちらも微笑んでしまう。
小さい頃から度々入院していた俺は、小中学校と楽しかった記憶が一切ない。運動会に頑張ったこともあったけど、無理がたたってそのまま倒れ、数週間入院したことが苦い思い出だ。そのせいで遠足も授業参観も全部参加できなくなって、次の年からは運動会に出ることも出来なかった。
親戚のお兄ちゃんである阿部ちゃんは、昔から俺のことをめちゃくちゃ可愛がってくれている。頭がいいことは知っていたし、何度も入院中の自分に勉強を教えてくれていた。
「いつか、ラウールを救える医者になるよ。」
そう言っていたのは、てっきり嘘だと思っていたけど。だって、いくら賢いとは言えお医者さんなど…自分なら医学部に入るまでに何十年とかかってしまうだろう。…というより寿命があるかも分からない。
「俺さ、ほんとに阿部ちゃんがお医者さんになってくれるって思ってなかったよ。」
「まじ?でもそんなのあまりに冗談としてキツすぎるじゃん。てか俺がラウに嘘ついたことないよ。」
そう言うと、ほらほら〜と白衣をヒラヒラさせながらターンした。
「じゃ、今日から俺が担当だから何かと俺がやるよ。はい、採血します。」
「げ。顔見知りに採血されるのいやだね。」
「仕方ないじゃん。」
日焼けしていないまっさらな腕に刺さる針を見つめる。阿部ちゃんの細い指が注射器に絡んだ。
ラウールは生まれつき不治の病
阿部ちゃんはそれを救うためにお医者さんになり、担当医に。
2人でほっこりのんびりした日を過ごすけど、ただ不治の病を延命するだけの毎日だったことに死んでから気づく