「あの日の一枚」
『最後の王と最愛オメガ』番外編(クラウス里央)
※すみません!配信公開してなかった。いま始めました。短めですが、甘いお話を書きますね。
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ぱらり。
アルバムをめくっていたクラウスの手元から一枚の写真がすべり落ちる。ずいぶんと色褪せたそれに気づいてしゃがみ込み、指先でつまみ上げた。セピア色の写真には幼い子どもと初老の女性が笑顔で写っている。ふたりとも蕩けんばかりの笑顔だ。足元には菫らしき花が慎ましやかに咲いているのがわかる。
男の子は四、五歳だろうか。隣に立つ女性のスカートをしっかり掴みながらもにこにこしていて、クラウスは思わず微笑んだ。
「里央、もしかしてこれは君かい?」
「え?」
キッチンで午後のお茶の支度をしていた里央がタオルで手を拭いながら近づいてきて、クラウスの手元をのぞく。そして、「ああ、これ」と口元をほころばせた。
「懐かしいな。おばあちゃんと僕です」
「おばあさまか。やさしい目元がそっくりだ」
「ね。僕、幼い頃はおばあちゃんに育ててもらったんですよ。ドイツ語もおばあちゃんから習いました。クラウスと出会ったときにすこしだけ話せたのはそのおかげ。いまではちょっと怪しいけど」
ふふ、と笑って里央は手にしていたタオルをきちんと畳み、クラウスの持っていたアルバム帳を一緒に広げるためにベッドに腰掛けた。
「とてもやさしいおばあちゃんでした。両親がいない僕を実の子のように育ててくれて……亡くなったときは自分の半身を失われたような悲しみに襲われて泣いて泣いて大泣きして……半年近く経ってもまだ泣いてました。僕の頭をそっと撫でてくれたあの指先、忘れられないな……」
過ぎ去った日々を愛おしむような目つきをしている里央の髪をくしゃくしゃと撫で、「こんな感じだろうか」と顔をのぞき込むと、くすりと笑い声が返ってくる。
「うん……似てる。愛情深いところがクラウスとおばあちゃんはそっくり。そうやってたまに髪の先を引っ張ったりするのもそっくり。思い出すなぁ……こんな晴れた日曜の午後にふたりでお茶を楽しみながら、おばあちゃん特製のドーナッツをつまんでました。おばあちゃん、ドーナッツ作りが上手だったんですよ。お砂糖がかかったやつがとくに美味しかったな。クラウス、ドーナッツは好き?」
「輪っかになった焼き菓子だね、好きだよ。たまに君が外で買ってきてくれるドーナッツにはチョコレートやナッツがかかっているのもあるし、ふわふわもちもちしているのもある。あれも美味しいね」
「ふわふわもちもちドーナッツを自分で作るのは結構難しくて。自分で作ると焼き加減を間違えて焦げちゃったりするんですよね。簡単そうに見えて侮れない」
ううんと唸って里央は腕を組み、天井を見上げる。
「クラウスに美味しいドーナッツを食べさせてあげたいな」
「だったら私も一緒に作ってみたい。スマートフォンを使えば作り方がわかるんじゃないのか?」
「最近のクラウス、スマホの使い方をほぼマスターしましたよね」
「ああ、動画も見られるようになったし、メールやメッセージも送れるようになった。ゲームもできるようになったよ。あとはSNSに挑戦してみたいのだが」
「クラウスが? SNS? どういう目的で?」
「君との毎日を写真に残してインターネット上に上げようかなと。そういうのも記録のひとつになるだろう? いつか誰かが……カイエンやアネットたちの子孫が目にするかもしれない。私の肖像画がいまの世界に残っているとは思えないから、カイエンたちの子孫が見てもすぐに誰とはわからないかもしれないけれど。きっと、どこかに運命の糸は繋がっていると思うから」
「クラウスがSNS……アカウントはなににするんですか」
「そうだな。過去にこれ以上干渉しないように『K』とだけにしようか。万が一、私の名前で検索をする人物がいないとも限らないからね。『K』は日々の食事の写真や、花々、空模様を撮ってSNSに上げるんだ。『今日の昼食はクリームシチュー。外は花曇りでとても暖かい』とかね。どうだろう。さしてドラマティックではないが、日記代わり……このアルバム帳のようなものを自分でも作ってみたい」
「いいですね。インターネットに写真を上げたらセピア色になることはないけれど、いつでも鮮やかな色合いで過去を思い返せる。僕も協力します」
「君の協力なくして私の毎日は成り立たないよ」
そう言って軽く里央の頬にくちづけると、ぱっと顔を赤くする運命の番が可愛くてたまらない。
もう何度も抱いて、何度もくちづけたのに、いつだって里央は新鮮な表情を見せてくれる。その一瞬一瞬がクラウスにとっては特別なもので、瞬きひとつがシャッターになるのだ。
ほんとうに大事なアルバムはこころの中に。
瞬きするたびに変化する里央との日々をこころに焼きつけて、積み重ねていこう。記憶の中のアルバム帳なら、いつだってどんなときだって好きにページをめくれる。
きっと、めくるページすべてに里央の笑顔がある。
そう確信して、クラウスは彼から古びたアルバムを取り上げ、代わりにその肩を抱き寄せる。
「クラウス……?」
「お茶の前に、君をすこしだけ味わおう。と言ったら怒るかな?」
「……怒れないって知ってるくせに」
甘い拗ねた声に笑いながら、里央の頤をつまみ上げる。
くちびるが触れる瞬間も、里央が瞼を閉じる瞬間も、カシャリとこころのシャッターが音を立ててとっておきの一枚にするのだ。
温もりだけは記録に残せないから、何度だって飽きることなく味わおう。
<終>
お疲れさまでした~!
見てくださってほんとうにありがとうございます!
また配信しますね^^