どぉん、という大きな音と衝撃に、ロキはソーが帰ってきたことを知る。しばらく経たずに、バタバタと玄関のドアが開かれる音と元気な声が。
「ロキ!戻ったぞ!!」
「ああもう!泥は家の外で落としてこいっていったろ!」
全身泥と煤と、よく分からない液体が乾いてカピカピになっているソーは、両手いっぱいに花を抱えて玄関に現れた。
野山からそのまま引きちぎってきたような花たちは、葉っぱも泥も付いてモサモサしている。その花を満面の笑みでロキに渡すソーに、ロキも溜息をつきながら受け取った。
「土産だ!」
「わかってるよ、まったく、早く着替えてシャワー浴びてこい!」
ドロドロなソーをバスルームに追いやり、ロキは摘みっぱなしの花を抱えてキッチンまで行く。
どさりと花の山をダイニングに一旦置いたロキは、花のひとつひとつを検分しては洗っていく。これは手足が痺れて息が出来なくなる毒、これは血液が溶血する毒、これは体の細胞が内側からボロボロになる毒。
ひとつひとつを検分し、花の種類ごとにまとめるロキ。この花の山、ほとんどが毒草なのだ。
ソーがどこか遠い所へヒーロー活動しに行く度に、ロキはその土地の植物を採ってこいとお願いしているのだ。それも、色が派手だったり、触れてピリピリするような草花を採ってくるようにと言っている。
以前まではその土地の、よく分からない食べ物や、謎の木彫り彫刻なんかをお土産で持って帰ってきていたソー。気持ちは嬉しいものの、捌き方も調理方法も分からない食材や、やたら場所をとる木彫りの置物は持ってこられても扱いに困るのだ。そこでロキは、お土産で持って帰ってくるのは花だけにしてくれとお願いしているのだ。
花は良い、見知らぬ土地の花は、根か茎か種か、大概毒を持っているし、もし無毒な害の無いものでも花瓶に挿して玄関やリビングに置いておけば華やかになる。
「うーん、今回はあまり使えそうなのが無かったな……」
ソーが今回持ち帰ってきた花の山、その半分も毒草は無く、ほとんどが色鮮やかで美しい、無害な花であった。
「部屋ごとに飾ってもいいが、それでも余りそうだな……」
「ロキ、どうかしたのか?」
うんうんロキが唸っていると、シャワーを浴び終えたソーがやってきた。そしてダイニングテーブルの上の花の山を目にして、片眉を上げる。
「使えそうな花が少なかったか?」
「あー、うん、まあ、そうだね」
ロキの言葉に、ガックリと肩を落として、しょんぼりとした顔をするソーに、ロキも少々決まりの悪い顔をする。
「でも、ほら綺麗な花じゃないか」
ロキは花をいくつか手に取り、それをソーの顔を近付ける、ふわりと爽やかな香りが鼻を掠めた。確かに色鮮やかで綺麗な花だが、ダイニングテーブルに山のように積まれているのを前にして、綺麗だと呑気に言ってもいられない。
こんなに綺麗でいい香りのする花だが、このまま萎れてゴミ箱行きになってしまうのだろうかと、ソーとロキが頭をひねりながら考えていた時。ふと、あるアイディアがソーの頭に浮かんだ。
「おお、いい事を思いついた!ちょっとここで待ってろロキ!」
「え、あ、ちょっとソー!花を持ってどこに行くんだ!」
「いいから待ってろって!」
ソーは言うなり花の山をほとんど抱えて、どこかへとバタバタ行ってしまう。
キッチンに置いてけぼりにされたロキ、ソーも外へ行った様子もないので、特に追いかけはしないものの、待っていろと言われてしまった。しょうがないから、残った花をまとめて、いくつかの花瓶に分けて挿していく。玄関とキッチンにリビング、それだけ残ってたのが幸いだ。  
花瓶を置いて回ったロキに、楽しそうなソーの声が。
「ロキ!こっちに来てみろ!」
「今度はなんだよ……」
楽しそうにこっちに来いと言うソーの声を頼りに、バスルームまでやってきたロキは、扉を開くと息を飲んだ。
「これは……」
「どうだ?お前、こういうの好きだろ?」
そこには、お湯で満たされたバスタブと、その水面には隙間もないほどの花びらが浮かんでいる。ソーは先程の花の山から、ひとつひとつ花をちぎり、それをバスタブの中に入れてお湯で満たしていたのだ。
誇らしげにバスタブを披露したソー、だけれどもロキはじろりとソーを睨むと、指でソーの脇腹を強めにつつく。
「誰が、この風呂を、掃除すると、思ってるんだ!」
花びらの浮かんだこのお風呂、そのまま水を抜いたら花びらが詰まって排水管が壊れてしまうし、花びらを掬って取るにしても結構な量が入っているので、なかなか骨の折れる作業になるだろう。
眉を吊り上げて怒るロキに、ソーも慌てて言う。
「お、おいおい!俺が掃除するから!なっ?」
「ふん、ならいい」
ロキはそう言うが、まだじとりとソーを睨んでいる。
「……あー、ロキ?入らないのか?」
「入りたいが、兄上、アンタは出ていってくれ」
「なんでだ?俺も入りたい」
「アンタはさっきもシャワーを浴びたし、それに私は一人でゆっくり入りたいの!それに入るのは私が先!だから、出てって出てって!」
シッシと手でソーを払うロキに、ソーも苦笑いを浮かべながら脱衣所から出ていく。
ひとりになり、服を脱いで花びらの浮かぶ風呂の中にその身を沈めるロキ。瞼を閉じ、ふぅ、と深いため息をつき、体の力を抜き。
「ふふ、兄上ったら、どんな顔しながら花びら毟ってたんだろうな……」
この花風呂を作るソーの姿を想像しながら、小さく笑うロキ。これを作っている間、ロキのことを考えて、ロキが喜ぶだろうと考えて作っていたのだと思うと、ロキの頬に、湯あたりではない熱が集まってくる。
ちゃぷんと肩まで入ったロキは、小さく呟いた。
「まあ、今日くらいは、兄上の喜ぶようなことやってやっても、いいかな……」
この後、夜に、ふたりで諸々を楽しむ時には。
などとロキが考えている最中、脱衣所には服を脱ぎ捨てたソーが居て。
「ロキィ!お前、風呂が長いぞ!」
「ぎゃっ!なんで入ってきた兄上!!」
ふたりで楽しいバスタイムが始まるのである。
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向き
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素敵なバスタイム
初公開日: 2021年02月02日
最終更新日: 2021年02月02日
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コメント
ふろ〜らるばすたいむなロキてゃのお話