「お腹すいた」
「へ?」
ユリウスの箸から稲荷寿司がぼとりと落ちる。女の子は弁当箱の中へまた戻っていった稲荷寿司を見つめながら、もう一度「お腹すいた」と言った。
「えー……と。ええー……これ、あの、ど、うしたのかな~? 迷子?」
戸惑いながら、女の子に問いかけたが、彼女の興味はユリウスより目の前の弁当にあるようだ。
もう一度、きゅるる、と小さい腹の虫が鳴いた。
「た、食べる?」
ばっ!と長い髪をはためかせて、女の子が首を縦にぶんぶんと振る。よく見れば、青いサマーワンピースもサンダルも所々汚れていて、保護者とはぐれてからどれくらい経つのだろうか、と考えて少し同情した。
「じゃあ、この椅子に座って。お箸使える?」
こくりと頷く女の子に新しい割り箸を渡して、お弁当を目の前に置く。
すると腹を空かせた犬のようにがつがつと食べ始めて、若干呆気にとられた。
「おい、ユリちゃん。どうしたのその子」
丁度飲み物を取りに行っていた毒島と犬飼が帰ってきて、目の前の光景に目を白黒させている。
「僕も何が何だか……弁当食べようと思ったらいきなり来たんですよ……で『お腹すいた』って……」
「で、あげちゃったわけ?」
呆れたように言う犬飼に、面目なさそうに頷いた。
「で、迷子なの?」
「さぁ……でもこのくらいの年の子が一人で来た筈はないので……。えーと、お名前、教えてくれるかな?」
一心不乱に太巻きに噛り付く女の子に問いかけるが、彼女は目の前の寿司に夢中であった。