腹ぺこジェイドといっぱい食べるキミが好き
パフェ。それは宇宙。甘美なる小世界。匙で掬われるごと風景を変え続ける箱庭の世界。
そういうわけでジェイド・リーチは監督生と共に、マジカメハッシュタグ♯パフェを、目を皿にしてチェックしているわけである。
「いや、どういうわけですか?」
「文句があるならちゃっちゃと手を動かして。閉店時間は待ってはくれませんよ。ほら、だってあなた。僕のことが好きなんでしょう?」
「うっ」
そうなのである。ここオクタヴィネル寮談話室にて、おっかない双子の一見まともそうな片割れの様子をチラチラ伺いながらスマホをスクロールする監督生。ついさっき一世一代とばかりの勢いで、ジェイドに告白したばかりなのである。もちろんあえなく玉砕した。と、本人は思っている。だって、好きですの返答が「では、パフェを食べに行きましょう」ってあり得ないでしょ、意味わかんないし。絶対遊ばれてる。しかし分かっていても断りきれない、だって好きな顔と声が動いて喋って誘ってくるから。
「ちょろくなんかないし……先輩がカッコ良いのが悪いんだし………」
「なにをぶつくさ言ってるんですか。見つかったんですか?」
「ハイハイ、これどうですか?『輝石の国産ペリドットマスカットとアメジストグレープ の季節限定パフェ』」
「芸もなく積み上げられた山のような葡萄と、果物にコストをかけすぎたあまり安っぽくなったのが丸わかりのクリームですね。美学が感じられません。却下です」
「世界でいちばんお姫さまですか?考案者に謝った方が良いですよ」
「なんですかそれ」
「元の世界でそういう歌があったんです」
「なるほどそうでしたか」
「いひゃいいひゃい、ほっぺたひっぱらないでくらはい」
「求肥のように伸びるほっぺたですね」
「どれだけお腹空いてるんれふか」
「燃費が悪いもので」
ようやく離された手を恨めしげに眺めつつ、すっかり伸びきってしまった気がする頬をさする。頭上から落ちてくる視線はどこまでも意地の悪い………もとい、取って食われそうな剣呑瞳をしていて、監督生の背中にひやりと汗が流れた。だってニコニコとこちらを眺める先輩のお腹から、あり得ないほど長い空腹の合図が鳴っているから。なんなら今も鳴り続けている。
「というか、パフェの美学ってなんなんですか」
「おや、お分かりにならないと?」
こうして冒頭に戻るわけである。
監督生だってそりゃあ人並みに食べるのは好きだ。だが、人並みの域は抜けきれないのである。オンボロ寮の生活ではなにかと切り詰めないといけない場面の方が多いし、外食なんて夢のまた夢………とまでは言わないが、学食の数量限定スペシャルランチ食後のデザート&コーヒー付きセット税込2500マドルに手を出せたことは、まだ一度も無い。そんな状態であったから、好きな人とはいえ正直彼の言うことは監督生にとってちんぷんかんぷんだったのである。
「よく分かんないですけど、そんなに綺麗なパフェが良いなら、見るべきものが違うんじゃないですか?なんかこう、ホテルなんちゃらーとか、ショコラティエなんたらーとかのメニューとか、そういう。こーんな大きいグラスにちょろっとしか入ってなくて税込3200マドル、みたいな」
「ホテル」
「ああいうとこのご飯って、そりゃ手が込んでるのはわかるんですけど、とにかく量が少ないんですよね………。グリムも私は本当はたくさん食べたいタイプだから、高くて美味しいご飯だとお腹が膨れないって言うか。だったら安くてメガ盛りのご飯の方が良いよねっていうか」
「ショコラティエ」
「だから先輩のお役には立てない気がするし、そろそろこの手を離してもらってオンボロ寮に帰りたいなー私こう見えて多分フラれた直後なんだよなーっていうか、先輩聞いてます?」
監督生の細い手首を左手でがっしり掴み、もう片方の手が高速でスマホを叩いていたジェイドの指が不意に止まる。そうして薄気味悪いほど完璧な笑顔でニッコリ笑うと、鋭利な歯の覗く唇でこう告げた。
「喜んでください、監督生さん。あなたのヒントのお陰で良い出会いがありました。ラストオーダーまでは残り1時間30分、アズールに頼んで鏡を使わせて貰えばなんとかなるでしょう」
「はあ、行ってらっしゃい」
「何を言ってるんですか。あなたも行くんですよ」
「あれ?私も行きますとか言いましたっけ?」
「だめですねえ、忘れほんぼうさんなんですから。さあ、行きますよ」
「言ってない、言ってないよー。ひと言も行くとは言ってないよー」