8.微睡みの果て、あるいは終わり
アンジェラ&ローラン
ローランの考えでは図書館は眠る必要のない空間だ。生きていたゲストから作られた本、人間のようで人間でない司書達、存在も朧げな幻想体、そして人間と見紛うほどよくできた機械の館長が存在する。いずれも現実離れした方法で存在している。図書館の中の時間の流れは外とは同じようでない気がするが、正確な情報はないので分からない。非現実的空間に滞在し続けると感覚が狂ってくる。
眠らない空間とも言ったがその一方で、現実から逃げて微睡んでいるのも事実だろう。今のローランの状況はそうとも言えた。図書館の中で都市の人間の生き様を垣間見て、二人で言葉を交わすのは浮世離れと言える。食べるために仕事をするだとか、社会に溶け込むための交流だとか、そういった行為を一切していないのだ。もちろん、司書は図書館の中で仕事をしなくてはいけないが、それでもやることに対して焦燥感がない。ただ、同じ物語の断片を見て、議論とも感想とも言えないような他愛無い会話をする。贅沢な時間の使い方だ。
ローランは図書館の司書だ。司書はゲストを接待し、それぞれ属した階に応じた種類の本を集めて分類している。ゲストの接待は人間の感情を引き出すべく、死の淵へ追い詰められていくのを実感できるようにする。ゲストが司書と死闘を繰り広げていけば、それだけ質の高い本が入手できる。そのための演出として本来は不死であるはずのの司書達でも、その事実を忘れて武器をふるうのだ。
それは図書館が見せる夢でもあり、現実でもある。どんな怪我をしようと痛みで目を覚ますことはない。自身が死ぬ瞬間ですら、夢であることを疑わない。ローランはそれに抗う気はない。ただ現状を受け入れやり過ごすのが彼のやり方だからだ。
館長のための空間であり、どこの階でもないこの場所にアンジェラはローランを呼び出した。
「今回は随分手間取ったわね」
アンジェラは何とか瀕死の状態で接待を終えたばかりのローランに対してそう言った。再構築は済んでおり、返り血や傷からの出血でどろどろになったのもきれいさっぱり消えている。
「その方がいい本が手に入るんだからちょうどいいんだって。多分無駄にはならないだろ?」
「そうね。時間をかけた方が確実にいい本が手に入るわね」
「全力で接待をした司書を少しは労わってくれてもいいんですよ、館長様?」
「……ご苦労様。それで今回の本はどれくらいあるの?」
「全部で十二冊。もう司書補が分類に持って行ったけど」
「そう。もう戻っていいわよ」
「じゃあ失礼します」
ローランは総記の階へと帰っていった。
アンジェラは他人の物語なんて面白くもないと思っていた。そんなものを見てもなんの役にも立たないし、馬鹿げているとまで考えていた。そもそも他人のやることに一々振り回されるのはうんざりだからあまり深入りしないようにしてきたのだ。こうして個人の事情抜きで物語を見ることはつまらないことではない。
大きく見ればすべて似ており、細かく見ればすべて異なる。一体なにが興味深いものになるのかは見当もつかない。ロボトミーの頃はつまらない光景ばかり見てきたから、違う場所でも似た物語が生まれたり、同じようなところでも異なる結論を出したりと飽きるようなことはない。多くの本を読めば飽きることはあるかもしれないが、今のところつまらないということはない。不愉快であったとしても興味がなくなるわけではないのだ。寧ろ、心地よいことだけを見ている方が気分がよくない。
ローランが言うにはこうして現実に追われないでいるのはすごく恵まれていることらしい。都市の現実の過酷さを味わってみたいというのはとても贅沢な悩みだとも。夢で何かをするよりも現実の方がきっと面白いと思うのに。
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のうのう
ご視聴ありがとうございました。これにて完成としますので配信を終了します。
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進捗晒し(8.微睡みの果て、あるいは終わり)
初公開日: 2020年11月23日
最終更新日: 2020年11月23日
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22:30頃までやる