それはロキのちょっとしたイタズラだったのだ。  
誰も彼もが少し浮かれるハロウィンの夜。
子供たちは日の出ているうちに各家のドアをノックしては、お菓子を強奪していって、大人たちは日が沈んだあと、陽気な人も真面目な人も、みな思い思いの仮装をしては、仲間たちと楽しんでいる、そんな夜。ソーも仲間たちと楽しくハロウィンパーティーをしていた。みな思い思いの仮装をして、やれ食えそれ飲めと楽しく騒ぎ、ソーもドラキュラの仮装をして楽しんでいた。
夜も更けて、パーティーの騒ぎも一段落した頃、家庭のある者は帰宅し、連れ合いの居る者は連れ立って夜の街へと消えていく。ソーも家に弟を残しているので、次々とかかるお誘いを断って帰宅の途についた。
帰路のさなか、ソーは出かける前のロキを思い出しては深いため息をつく。ソーがドラキュラの仮装を着ている間も家を出る直前も、ロキはずっと文句を言っていた。ソーだけずるい、私だって外で遊びたい、どうして行っちゃダメなんだ、ソーはいつも私を除け者にする、800年前のあの時だってそうだった、などなど、近い不満から大昔の恨み言まで、ぐちぐちぐちぐちと言われ続けたソー。いつまで経っても止まらないロキの文句に、半ば逃げるように家から飛び出したソー。きっと家に戻れば、出かける前の倍以上の小言に文句に恨み言が待っているんだろうなぁ、などと肩を落として家のドアを開けるのである。
ナイフが出るか嫌味が出るか、おそるおそるドアを開いたソーを待っていたのは、勢いよく飛んでくるナイフでもなく、鋭く切り込んでくる嫌味でもなく。
「おかえり、遅かったな」
オーバーサイズのシャツを羽織って、包帯でぐるぐる巻きのロキであった。
予想外のロキの姿に、ソーが呆然としていると、ロキは聞かれてもいないことを楽しげにペラペラと話し出すのである。
「せっかく私がハロウィンの仮装を前々から考えていたのに薄情な兄上ときたら私を置いてアベンジャーズどもとの楽しい楽しい酒盛りに行ってしまったから私は仕方なく兄上が帰ってくるのをこのミイラの仮装をしながら大人しく待っていただけだというのにその間抜け面といったら!」
ソーを指差して笑うロキだが、ソーはぽかんと口を開けながら、ロキを頭の先から足の先までまじまじと眺める。ミイラの仮装をするロキは、白い包帯で手足をぐるぐる巻きにして、顔の半分くらいも包帯に覆われており、なぜだか太ももの半ばまで隠れるようなオーバーサイズのシャツだけを羽織っている。下にズボンなんかは履いていない、生足包帯なのだ。そんなロキが歩けば、おしりなんかもチラリぷりんと現れそうで、 キワドイところもチラチラと見えてしまうのではないか、そう思わせてしまうような絶妙な丈のシャツに、ソーも思わず生唾を飲み込む。
「お前、なんて、なんて格好を……」
「Trick or Treat」
「えっ?」
「お菓子くれなきゃイタズラするぞ」
ニヤニヤと笑いながら、両手を差し出すロキ。
「ソーはさぞかし楽しんでお菓子をいっぱい貰ってきただろうから、まさかお菓子が出せないなんて、そんなことは無いだろう?」
「お菓子って、ああ……ハロウィンだもんな……」
ソーはパーティーやらセクシーなロキの仮装やらですっかり失念していたが、ハロウィンとはお菓子をせびられるイベントなのである。そんなことなどすっかり忘れていたソーは、お菓子なんて当然持っているはずもなく、ただ力無く両手を上げる。
そんなソーに驚くこともなく、ロキは楽しそうに目を細めると、どんなイタズラをしようかと思案し始める。ソーをカエルにでも変化させようか、ナイフでも突き立ててみようか。いや、せっかくドラキュラの仮装をしているんだから、服が脱げたり破けたりしてしまうようなイタズラはしたくない。
ふと、昨日の夜の出来事がロキの頭の中で思い出される。昨日の夜も、ふたりは熱く愛を交わしていたのだが、その愛を交わす直前、ソーはあることをしつこくロキにせがんでいた。ここ最近ずっとそうなのだ、夜、ふたりが致そうとすると、ソーは必ずせがんでくる。
にやりとロキが笑って、ぱちりと指を鳴らした瞬間、ソーはボワリと煙に包まれた。
「ははは、これで私と同じ気持ちになるがいい!」
モクモクとした煙が晴れたそこには。
「な、何だ、手が青くなってる……」
ヨトゥンの姿になったソーが居た。
ソーは最近、ロキと致す雰囲気を醸し出す時、必ずと言っていいほどロキに言うのだ。ロキのヨトゥンの姿が見たい、お前の本来の姿も愛したい、お前だったらどんな姿でも愛らしい、などなど。ロキはそんなバケモノみたいな姿になんてなりたくないのに、ここ数週間はロキを口説くソーの口ぶりにも熱が籠っていて、なかなかベットでメイクラブが始まらない。一度ソーがヨトゥンの姿になってみたら、今後ロキにヨトゥンになれと口説くことも無くなるだろう。そう思ってソーを変化させたロキは、忍び笑いをひとつ。
そんなロキの思惑など全く知らずに、急に自分の手が青くなったソーは、驚きバタバタと全身をまさぐった。どことなくひんやりとした身体に、髭や髪は変わらないけど、額にはぴょこぴょこっと角が二本生えている。そして手の甲に走る文様。ソーは気がついた。
ははぁ、これはヨトゥンの姿に変えられたな?
きっとロキはしたり顔でソーを見ていて、もしかしたら笑いをこらえているのかもしれないと、ソーかロキの顔を伺うと。
「……ロキ?」
ロキの顔は薄紅色に染まっていた。
「おいロキ、大丈夫か?」
「へっ!?あ、大丈夫だ!」
「でもお前、顔が赤いじゃないか、よく見せてみろ」
そっとロキの顎を取り、様々な角度からためつすがめつロキの表情を確認するソー。そして様々な角度からソーの顔をばっちし見たロキは。
「やめろやめろ離せ離せ!」
「……ますます赤くなってきたな」
顔から首から、ぽぽぽと赤く染っていく。
そんなロキに、ソーはしたり顔で笑う。
「もしかして、俺の顔に見惚れてたな?」
「そんな訳ないだろ!!」
頬を染めて否定をするロキだが、ちらり、ちらりと視線をさまよわせては、必ずソーの顔に視線が戻っていく様を見れば、ソーの顔に見とれているのはバレバレだ。
「そんな、そんなヨトゥンの姿なんて、別にカッコイイとかいつもよりワイルドだとか思ってない!」
「そうかそうか、お前はワイルドなのが案外好きなんだな」
「違う!」
頬を染め目を潤ませ、それでも否定するロキの言葉には信憑性が皆無である。
そんなロキに嬉しいなあと言うソーは、顎に回していた手をロキの首の裏に回し、反対の手をロキの腰に回したらぐっと強く掴んで、こう言った。
「Trick or Treat」
「はえっ!?」
「お前のイタズラは終わったんだろ?なら次は俺の番だ、お菓子をくれなきゃ、イタズラするぞ」
赤い瞳を楽しげに歪ませながら、ソーはロキに言い放つ。ロキは、自分がイタズラするつもりでも、ソーにイタズラされるなんてこれっぽっちも考えていなかったので、お菓子を用意しているわけでもなく、ただ焦ったように視線を四方八方に飛ばしている。
そんなロキの様子に、ソーの笑みがますます深まる。
「お菓子がないなら、イタズラするしかないよな?」
「イタズラって、何をするつもり……アッ、痛っ!」
「おっと!」
ソーはロキのシャツを引っ張り、肩を出して白いその肌に噛み付いた。驚いたロキは思わずもがき、ソーもろとも床に尻もちを着いたが、ソーはその間もずっとロキをがっちりと掴んでおり、ソーの膝の中にロキを抱き込むようにして座りだす。
「まったく、暴れるなんてお行儀が悪いぞロキ」
「くっ、離せ……」
ロキの足に巻き付く包帯を引き上げ、ロキの動きを止めて、ロキの頭を寄せて、ソーは囁く。
「お行儀が悪い子にはオシオキしないとな?」
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はろうぃ〜ん
初公開日: 2020年11月24日
最終更新日: 2020年11月24日
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ハロウィンするソーとロキ