第二十六話 【雪山山荘の悲劇】
「これは私の父から聞いた話ですが・・・」
と、焚き火を挟んだ老人が静かに語り始めた。年代物のパイプを口に咥えながら、無造作に生えた顎髭をゆったりと撫でている。その指は山で暮らす男の証であるように無数の傷と疣の痕ーーー皺がれて枯れ木のような指ではあるが、不思議とこの老人が只者では雰囲気を感じさせた。
「今ではもう誰も信じませんが、昔この雪山には悪魔が出ましてね。名をウェンディゴ。吹雪の中に潜みながら徘徊する化け物が、山に迷い込んだ人間を襲っておりました。そのこともあって我々以外は立ち入ることのない未踏の雪山だったんですがね。それでも、冒険盛りの若者はかえってスリルを味わいたいのでしょうなぁ。無謀にも登山して山小屋に泊まったらしいのですよ」
老人は、懐かしむように目を細めた。
「それで?」
ついに座っている男が続きを促すと、老人はパイプから口を離して煙を吐き出す。
「その後はまぁ・・・あなたの想像通りです。無断で泊まった山小屋の中で乱痴気騒ぎに興じるウェンディゴが襲いかかりましてな。一人、また一人と、まるで獣が狩るように殺していった・・・」
「悪魔にとってはいい獲物だったろうな」
「まさにその通り。わざわざ自分から獣の胃の中に入っていったようなもの。人数が減り次第に追い詰められ、雪山の中で逃げ回っている若者の内の一人が、それに出くわしたそうなのです」
「それ?」
「黒い大剣を携えた悪魔が、大笑いをしながら目の前に立っていたと。頭に角もあってどうみても悪魔にしか見えなかったらしく、背後に迫るウェンディゴにも挟まれてもうダメだと絶望していたらしいのですが」
「殺されたのか?」
「ええ。殺されましたとも。私の祖父があなたの父親に」
老人が笑いながらそう言うと、
「それは気の毒に」
バージルは皮肉げな笑みを浮かべながら言った。
第二十七話 【雪山の怪】
よくある怪談話で、雪山は舞台になりやすいものだが。
その中にはやはり知り合いの話を聞くことがある。とりあえず、レディが聞いた話の中にはしょっちゅう【あの男】を耳にするのだ。
あの男の戦い方はそれそれは派手である。一度見れば生涯忘れないほどに魅了されるほどの腕前と、類を見ないその美貌(本人曰く)で、目撃した一般人はうっとりと憧れのヒーローを見るかのような表情で語るのを見るたびに、レディは内心笑いを抑えられなくなる。
「で、あなたが昔雪山で見たハンターというのは、ひょっとして半裸で赤いコートを着ていた男?」
今も、やはり笑みを溢しながら自慢の大砲をー最愛の母の名を冠する武器をそいつに向けながら、レディは尋ねた。
名も知らぬ悪魔は恍惚とした顔で頷く。
「そう。最後に見たのがあいつじゃなくて残念ね。お気の毒様」
それだけを残念そうに呟きながら、トリガーに指を掛けた。
第二十八話 【だからなぜこうなる】
今日は非常に珍しいことに、あのバージルが「映画を観に行きたい」とか言い出して、思わず俺は肩がこけてしまった。予想もしなかったから、「はぁ?」と口に出してしまったのは流石に悪いと思うが、だってあのバージルが映画って。一生聞くことのない俗語だと思っていたのに。
・・・これも流石に失礼か。
「俺が映画を観たいと言ったのがそんなに意外か」
「いやそんなことはねぇ・・・けど。驚くなって方が無理だろ。今までそんなもん興味なかったのに、なんでまた急に」
「興味が・・・沸いた」
「へぇ?」
何に?もちろんバージルと今まで一緒に映画館なんて行ったことはないから、観たい映画とやらがものすごく気になる。
でも、まさか一人で行くに決まっているよな。わざわざこの年で「一緒に」だなんてなぁ。
「黙って俺について来い」
・・・一瞬、俺はこいつの脳内を開いて覗いてみたくなったが、寸前で耐えた俺を誰か褒めて欲しい。
「あのな。変な意地を貼らなくてもいいから、映画館で映画の見方が分からないから一緒に来て欲しいって素直に言ってくれないか?」
そんなどこぞの奇妙な口説き文句みたいな言い方を止めろ、果てしなく似合わないから。
そう含めつつ言うと、バージルは少しだけ顔を赤くしてそっぽを向いた。
「え、その反応・・・何?」
「うるさい・・・」
「珍しい。今日は照れが見えた。いいことある気がしてきた・・・」
「行くのか行かないのかどっちだ!?」
「はい、はい。行くよ。・・・ところで何の映画が観たいんだ?」
「今、ジャパンで大流行しているキメ・・・この日本語は何て読むんだ?」
「あーはいはいジャパン版の悪魔狩りアニメな。支度するからちょっと待ってろよ」
例の大人気アニメ映画が観たいのか。刀で狩っているからか?意外だと思いながらもバージルを横目で見やると、少し嬉しそうな顔をしているのが見えてこれまた意外だった。
第二十九話 【・・・だからなぜこうなるって】
「・・・・・」
「・・・なぁ。なぁバージル。あのさ」
「・・・今いい所だ」
「それは知ってるんだけど、あの、お前の手が」
「・・・・・(無視)」
「・・・・・」
(・・・これ別に恋愛映画じゃないよな・・・?)
頭上に何度も浮かんでは消える疑問符と、なぜか左手の上に感じる手の熱に戸惑いが隠せない。正直に言って、ダンテは映画どころではなかった。
何故バージルはわざわざ手を握ってくるのだろう。
何故こんなにもバージルの真意が理解できないのか、本気で何もかもがどうでも良くなってくる。理解不能過ぎて。大体、この非情な兄と手を繋ぐのなんてウン十年ぶりで、手の温もりすら遠い過去に忘れてしまったのに、今はしっかりと左手の上に重ねられたバージルの右手。
これは、多分今は振り解くと不味い気がする。
そんな謎の危機感と、ほんの少しだけ懐かしさも合間って。
とりあえず、ダンテの取った行動は心を無にして映画に見入ることだった。
・・・普通に、映画は楽しめたが。
そしてエンドロールが終わり、照明が戻るまで何故か手を握られたままだった。
・・・だからなぜこうなる?
第三十話 【まぁ楽しかったならそれはそれで】
映画はとても楽しめたらしい。バージルはもんのすごく珍しく、子供の頃にしか見せなかった満面の笑みを浮かべながら何度も「最後が・・・良かったな」と呟いた。ジャパンのアニメ映画だが、感動に打ち震えたかのようだった。
「そうか・・・良かったな」
大の男が、などと今更野暮なことは言わない。おそらく人生で初めてみた映画が感動できる映画ならば、それはそれでいいじゃないか。こんな表情を見れた俺こそ何だか嬉しくなってくる。
ふと、バージルが俺の方を向いた。
「どうした?」
「悪かったな」
「・・・は!?」
いきなり、何を謝ることがあるのか?俺は驚くが、バージルは決まり悪げに視線を逸らす。
「別にお前は興味が無い映画だっただろう?」
「いや、俺も普通に楽しめたぞ。今更気にするなよ」
そう言って俺が笑うと、バージルの硬い表情が幾分か和らいだ。
こんな所は丸くなったなぁ。
実を言えば、俺だって毎日毎日この兄を観察しては細かい変化に感動していたりする。
それはそれで、俺は満足しているのだ。
第三十一話 【鏡よ、鏡】
「これはこの教会に古くから伝わる真実を映す鏡でございます」
「へぇ」
「・・・ただの鏡にしか見えんが」
老神父が大事そうに抱えている古い鏡ー絹に包まれたそれを、ダンテは興味ぶかげに見回す。対照的に、バージルは胡散臭げな目で見ているが。
「どうせ人間か悪魔かを見分けるのだろう?」
「それもありますが、この鏡は心の深淵を覗くのですよ」
「深淵?」
ダンテが不思議そうに聞くと、老神父が頷いて、
「表面に出ている意識は氷山のほんの一角に過ぎませんが、この鏡はさらにその奥の・・・無意識の領域を移す危険な鏡ですから」
「危険・・・」
「人の真意など誰にも分かりません。分からない方が良いかも知れませんね」
微笑んで、その老神父がほんの少しだけ鏡を持ち直した瞬間にーーダンテとバージルは包まれた絹の隙間からそれを見てしまった。
ほんの少しだけ覗いた鏡の表面に映ったダンテとバージルの姿。それがこちらを見ている。そして何故か手を繋いでいた。
二度と離れない。
離さないと言わんばかりに、硬く繋いでいる。
思わず双子は互いに向きやった。何とも言えない表情を浮かべながら。
老神父はただニコニコと微笑みを浮かべていた。
第三十二話 【事務所に泊まろう(レディの場合)】
「普段は何があっても絶対に嫌だけど、今日はどこもホテル予約取れなかったし、地下鉄運休しているしで仕方無しだから」
「分かってるっつーか、そんなに俺の事務所泊まるのが嫌か」
「そうねぇ。ちゃんと掃除していたり、電気水道ちゃんと使えたりあとあなたの部屋の隣から不気味な魔具の怨嗟が聞こえなかったら、それなりに快適なんだけど」
「反論する気力もねぇなぁ」
「まぁ・・・でも崩壊していない分は百倍マシだけどね」
そう言って、腐れ縁の女傑は苦笑した。
第三十三話 【事務所に泊まろう(パティ十八歳の場合)】
流石に彼女はまずいのではないか。
ダンテは内心ヒヤリとしながら何度も根気よく彼女を説得するが、納得まで至らないようだった。そうしても首を縦に振らない。こんな頑固さは誰に似たのだろう。ともかくにして、うら若き乙女が(ここで黙って話を聞いていたバージルが吹き出した。ちょっとムカついた)、こんなおっさん二人住んでいる汚い所で寝泊りしなくてもいいだろうと。
「汚いだと?毎日毎日俺が掃除してやっているのを忘れたのか貴様っ」
「それはスッゲェ感謝しているよありがとうお兄ちゃん!でも今はほらまだパティは十八だし流石に男二人も住んでいるのにマズイって言うかなんて言うか」
「いやね、ダンテったら!別にあなたの寝込みを襲うつもりはないから安心してね?」
「それは俺の台詞だろ!」
「ところで今夜はどこで寝るつもりだ。客が止まるような部屋は無いが」
「おいバージル!」
「大丈夫よ。昔みたいにダンテと一緒に寝るから」
「・・・・・・・・」
「バッ、違っ・・・それはお前が子供の頃の話で・・・え?何だその汚物を見るかのような目は!?やましいことは何一つないからな!?」
「・・・それで最近ダブルサイズのベッドを買ったのか・・・貴様という奴は・・・」
「だから違うって言ってんだろー!!」
こめかみに指を当てながら、心から疲れたように溜息を吐く兄の襟首を掴んで引きずり倒したい衝動に駆られた。
第三十四話 【事務所に泊まろう(ネロの場合)】
久しぶりに訪れたダンテの事務所は何だか懐かしい匂いがした。口にはしないがそんな不思議な親近感がある。キョロキョロと周囲を見渡しながら、ネロは適当に荷物を床に置くと椅子に座っているダンテに振り返った。
「最近、あまり来れていないから妙に懐かしい感じがする」
「二号店が出来てから車泊も出来るからな。昔はよく止まって帰って行っただろ?覚えているか?」
「まぁ・・・あの頃は駆け出しのハンターだったからな。俺はフォルトゥナ以外で悪魔を狩った経験はそんなになかったし、アンタによく世話になってた」
懐かしむように目を細める。ダンテと初めて出会ってからもう八年ほどになるだろうか。外の世界に踏み出し始めたばかりの自分を、面倒そうな態度を見せながらも実は面倒見の良いこの叔父によく助けられた。
モリソンやエンツォといった悪魔狩り依頼のルートや情報屋のツテなども、ダンテから教えてもらい効率良く稼げている恩もある。
「よく考えたら、昔も今もアンタに助けられてばっかだな」
「ん?別に恩義せがましくする気はねぇが、困った時はお互い様だろ。遠慮無く頼れよ」
「・・・ありがとう。でもさ、もう二度と俺に」
「うん?」
「・・・・何でもない。それより絶対アンタより強くなるからな、俺」
決意を込めた顔で、ネロはダンテに言った。
ダンテは一瞬呆気に取られたが、すぐに苦笑して椅子から立ち上がった。
「そりゃあ楽しみにしているぜ。お前のそう言う所は父親似だ」
ツカツカと近付いて、肩をワザと叩いてやるとネロが痛みに呻いた。
「イテェな!」
「頼んだぜ」
それはダンテにとって何気なく放った言葉だ。
ネロは一瞬だけ顔を歪ませるがーーーもう自分は子供ではないのだ。だが、ダンテにそれを言われると何故こんなに泣きたくなるのだろう。
それはたぶんーーー気のせいだと自分に言い聞かせたかった。
(だから強くなりたいんだ。ーーー力が欲しい)
もう二度と置いていかれないために。
第三十五話 【力が欲しいか?】
バージル「力は欲しいが、今は金が欲しい」
ダンテ「激しく同意」
ネロ「スパーダの魂を受け継ぐ云々はどこ行ったんだよ・・・」
レディ「なんであの時空神とやらはオーブと現金の交換が出来ないのよ!せめて金に錬金するとか!?」
ダンテ「そんなこと出来るなら俺はもっと幸せになっていたぞ」
バージル「止めろ。ゲームシステムを崩壊させるな続編が出ない」
第三十六話 【天使なんかではないが】
ネロの背中から生えているように見える青い翼。悪魔の腕ーと思うが、ネロはどう思っているかは知らないが、素直に綺麗だなと俺は思う。
空を切り裂くように俺とバージルの間に入って戦いを止めたネロの存在を、バージルも少しは認めているだろうか。
避けるわけにはいかないだろう。いずれは俺達を超えてその先に行くであろうあいつの背中を、今度は俺達が見送らなければならない日は来るのだから。
それまで少しぐらい戯れるのも悪くはないだろう?
第三十七話 【胡蝶の夢】
たまに、ふとこの現実が夢ではないかと不安になることがある。
実はネロはいないのではないか。
実はバージルはいないのではないか。
たまに奇妙な夢を見るのだ。歳を経た自分一人だけが住む暗い事務所の夢を。誰もいない世界で、俺は呆然としながらいつもベッドの上で目を覚まし、これが夢か現実なのか分からず混乱するのだ。鏡を見ても、明らかに昨日の俺ではない俺が映っている。
俺なのに、まるで他人のようだ。
「お前は誰だ?」
夢の最後はいつもそんな言葉を呟いてから目が覚める。
「・・・またあの夢か」
目が覚める。朝だ。窓から差し溢れる光が眩しい。
上半身を気怠げに起こすが、まだ現実味がない。頭を軽く振って覚醒しかけた頭を強引に叩き起こした。
部屋の外からバージルが俺を呼ぶ声が聞こえる。それを聞くと、ああこれは現実なのだと酷く安堵するのだ。
俺は嗤った。
第三十八話 【幻のようにその男は存在する】
矛盾している。存在はしないはずなのに、しかしその男とその眷属は存在しているのだ。バージルの中に。
「・・・なら、Vはアンタの中で生きているのか?会おうと思えば会えるのか?」
「生きている。少し言葉はおかしいが、まぁそんなようなものだな」
他に答えようがないからそう言うが、ネロはまだ半信半疑のようだった。疑いの目で見上げてくる顔が少し可笑しかったが、今は笑うところではないだろう。
「それで、会えるのか?」
探るように聞いてきた。
バージルは少し考えてから、やがて頷く。肯定の意味だ。
途端にネロは驚愕するように口を開けてーー「そうか・・・」と噛み締めるように言った。
「会いたいのか?」
バージルは問う。暗に「会ってどうする気だ」と聞いているのだが。
ネロは沈黙した。
会ってどうしたいのか。別に出会ってから親睦を深めたわけではない。そう大した思い入れもないはずだが、それでも会って何かを言いたい気持ちが残っている。
それだけだが、それでも。
「会えるなら会いたい」
「・・・それから?」
「その後のことはゆっくり考えたらいいだろ?」
悪いか?と聞く顔が何故かダンテの意地の悪い顔に良く似ていた。
よく見る顔だ。ネロの頑固さはダンテの方に似たか、とどこかでVが笑う声がした。
第三十九話 【開けるものと閉めるもの】
玄関とは開けなければ外に出られない。
同様に、中に入ろうとすれば外から開けなければ入れない。
当然と言えば当然だが。
「不躾に、勝手に侵入しようとするからこうなるんだよなぁ。根拠の無い変な自信は怖い怖い」
「馬鹿なガキどもの遊びだ。同情するな」
「するつもりはねぇけど、未だにヘンテコな悪魔召喚の儀式って若い連中もやるんだな」
床にチョークで描かれた乱雑な魔法陣に、意味はあるのか無いのか無数に散らばって置かれたキャンドルと作り物の髑髏。
まぁ、雰囲気は九十点だが。
「にしてもだ。こんな陳腐なもんでも向こうからやって来る雑魚がいるから始末に負えねぇ」
「貧相な扉ほど開きやすい。そう言うことだ」
「・・・なるほど」
言われて初めて気がついた。確かに鍵を付けた玄関は、強固であればあるほど外敵を防ぐものだ。
意外と悪魔は大掛かりな仕掛けや儀式など必要もなく、下級レベルの悪魔が容易く人間界に現れる理由がそこにあるのかもしれない。
人間に取り憑く理由もそこにあるのだろう。
「暴かれたくなければ自分で鍵を掛けるしかないだろう」
「言えてるね!」
正論だ。バージルの言葉は正しい。珍しくダンテも同意して、雑な魔法陣から抜け出ようとする悪魔の頭を遠慮なく撃ち抜いた。
第四十話 【余白を楽しめ】
「アンタと再会するまで、なんか随分時間を食っちまった気がするぜ。俺も色々あったけどよ、アンタはどうだったんだ?」
夕食後。珈琲を片手に暖炉を挟んでこんなことを聞いている自分がまだ信じられない。
暖炉で燃える薪が悲鳴を立てて割れた。それをじっと黙って見つめているバージルの横顔を、火が照らしている。
そんなバージルをダンテは見ていた。
「お前を倒すことだけを考えていた」
やや間を置いてから、帰ってきた言葉がそれだった。予想通りで、思わずダンテは吹き出してしまった。
急に笑い出したダンテをバージルは睨む。揶揄われていると思ったのか、不機嫌そうに眉間に皺を寄せている。
ダンテは首を横に振った。
「それはそれでいいけどよ。それが全てってわけじゃないだろ?」
「それ以外に何がある」
「何で俺に聞くんだよ?バージルのことなんか俺が知るか。俺は俺だ。アンタはアンタ。何を考えているのかなんて何で俺に分かる?俺たちは双子だが、残念ながらテレパシーなんて便利なもんはねぇし」
「何が言いたい?」
「だからさ、誰だってでっかい目的には隙間ってもんがあるだろ?無駄な余白時間って絶対にあるじゃねぇか。無いとは言わせねぇぞ」
「俺はそんなものはーーー」
ない、と言いかけた口が急に口籠る。ダンテはニヤリとした。自分の息子の存在をよもや忘れたとは言わせない。
「な?」
「・・・・・」
微かな舌打ちを投げながらバージルが視線を暖炉に向ける。もうダンテの顔を見ていないが、それはそれで構わない。
「こんな何も考えない無駄な時間もいいもんだな・・・」
ダンテの呟きに返事は無い。
だが、それもいい。
暖炉の火が暖かく二人を照らしている。こんな静かな空間が今は無性に愛おしい。
珈琲を飲みながら、そう思った。