二十四時間営業のコインランドリーは、ヒトの気配が微塵もなくなった深夜の景色のなかでは一際目立った。シャッターの無いガラス戸を突き抜けるように、白い光が鋭く輝いている。傍でなんとなく立っている街灯よりも眩しいそれは、強烈な存在感を遠目からでも放ち続けている。
 店の前に構えられた駐車場に車を入れる。真ん前に停めると目が潰れそうで、少しだけ入り口から離れた場所に置いてエンジンを切った。車を降りようとしたときにぐうと腹が鳴って、思わず助手席に目をやる。ここに来る道すがら、ドライブスルーで買ったハンバーガーのセットが、袋に包まれたままシートベルトもつけずに鎮座していた。
 手をつけたい衝動を抑えて、今度こそ車を降りた。トランクに投げるように積んだ大きなバッグを引っ張り出して、持ち手を肩にかける。ぎゅうぎゅうに服を詰め込んだバッグは結構な重さで、レジャーシートと同じような素材で出来ているせいか歩くたびにじゃりじゃりと音を立てた。
 深夜ということもあって、店内には誰も居なかった。ただ持ち主の帰りを待ちながら回り続ける洗濯機の重たい稼働音が絶えず響いている中、ぐるりと周囲を見回して空いているものを探す。適当に選んだ大きめの洗濯機のボタンを押して洗濯槽を綺麗にする間に、いくつかの服を薄いネットに突っ込んだ。あとは、清掃が終わった洗濯機の中に服を全て詰め込み、お金を入れてボタンを押すだけ。量が多くて料金は高くついてしまったが、給料日後なのでこれぐらいはいいだろう。
 洗濯機が無事に動き出したのを確認すると、早足で店内から車に戻って、紙の袋を開けた。少し冷めてしまったハンバーガーの包みを半分ほど剥いで、大きな口でかぶりつく。勢いが余りすぎて具のベーコンがバンズから引っ込抜けてしまったが、気にせずしょっぱさを噛み締めて飲み込んだ。
 車に匂いがつくから、と苦い顔をしていた人を思い出す。さっきまでハンバーガーの袋が乗っていた席にいつも座って、運転手よりも真剣にカーナビを見つめていた。窓の外は見たがらなかった。サイドミラーに自分の顔が写るのが嫌いだと言っていた記憶が頭を過ぎった。こんな深夜に残業を終えて帰るときも、外の暗さのせいで黒く塗りつぶされてしまったフロントガラスを見ないようにしていた。きっと、同じ理由からだったのだろう。だからあの人は、真剣にカーナビとにらめっこしていたのかもしれない。フライドポテトを摘まんでべたべたになった手を紙ナプキンで拭いた。それでも油が取り切れないような気がしたので、ごみをまとめて元の紙袋に入れて、それを持ったまま、また車を降りる。近くにコンビニエンスストアがあるので、ウェットティッシュを買うことにした。洗濯し終わったふわふわの服たちを、油ぎった指で掴むのは少し躊躇われた。
 同じ二十四時間営業の店だとしても、コンビ二の店内の方がほんのり薄暗く見える。気怠げに長い茶髪を垂らした女の店員が、そっけない態度でレジカウンターに立っていて、ウェットティッシュと一緒に、きらしてもいない煙草を一箱買った。煙草を教えてくれたのも、あの人だった。他人に煙草を勧めておきながら、車に匂いが残ることを誰よりも気にしていたのは、自分がそういうものを吸うからだったのだろう。気にしない、と伝えても、あの人は車では絶対に煙草を吸わなかった。昔、上司の車に乗ったときに、彼が運転しながら窓から吸い殻を捨てたことが不快だったと顔を顰めながら話していた。その上司の悪口で、車内はいつも盛り上がっていたように思う。
 車に戻ると、中途半端な方の箱から煙草を一本取り出した。火を点けて煙を吸い込むと、苦い灰が身体の奥底にまで落ちるような感覚がした。最初は煙たくてまずくて吸えたもんじゃないと思っていたのに、気がつけばこんなところまで来てしまっている。
 煙草の味を植え付けていったあの人は、仕事を辞めてどこかに行ってしまった。直前まで何も知らされていなかったことに、自分でも驚く程落ち込んだ。連絡を取ろうとしたことも何度かあったが、考え抜いた文章は打ち込みこそすれど結局送れてはいなかった。スマートフォンをつけて、それからまた画面の光を落とす。あの人が何をしていようと、どこに居ようと、きっと自分には関係のないことなのだ。
 洗濯が終わるまでにはまだ時間がありそうだった。二本目の煙草を取り出して咥えながら、あの洗濯機が、服に染み付いた煙草の匂いを全て洗い流してくれれば良いと考えた。水に叩き付けられ、洗剤に揉まれ、そうして全てを濯いだ後に、ふかふかになるまで乾燥されて。家でやるよりもずっと綺麗に、気持ちよく出来上がってくれるなら、いっそ何もかもを洗い流して無かったことにしてくれれば良いと思った。
 けれど結局、まっさらになった洗濯物たちを迎えに行くのは、灰で汚れたこの指先なのだ。
カット
Latest / 78:08
カットモードOFF
03:34
ななし@83db4c
03:42
ななし@83db4c
47:42
ななし@fd5a19
しゅー
48:03
園素猫
しゅー
49:10
園素猫
なにいまの
49:25
ななし@fd5a19
なんかハートのボタンがあって押した
54:28
園素猫
♥のぼたん……
61:14
園素猫
すごい♥くれる……
チャットコメント