「くそ、またほどけた……」
レッスン室前の廊下を通りがかった時にふと聞こえた声。何か苛立っているようにも聞こえましたが……。
「誰かいるんですか?」
「姫……」
そこにいたのはお花見のときの公演衣装を着たモクレンさんで、なぜか彼のイメージカラーの紫色のリボンをぐるぐると巻き付けています……。
「いいところに来た。ちょっと手伝ってくれ」
「あ、あの、これは一体……?」
「……新しいグッズの販売とかで今度撮影してその時の写真を使うらしい……。それで各チームでイベントの衣装を着てなぜだかリボンを体に巻き付けることになった……」
「なるほど……」
そういえば大きなイベントなどでグッズの販売などしていましたね……。オーナーさんはいつもどうやってその話を持ち込んでいるんでしょうか……。いえ、なんだか怖い気がするので考えるのはやめておきましょう……。
「各自でポーズを決めて来いと言われたが……正直、こんなことをするよりもダンスレッスンがしたい……早く終わらせたいのに思うように結べない……」
明らかに苛立った表情から長い時間リボンと格闘していたことがわかります……。
「わ、わかりました! あの、でもどこに結べばいいでしょうか……?」
「どこでも。姫の好きなように結んでくれて構わない。が、そうだな……あまり動きを制限されるのは困る」
「そうですね……でしたら、手首に巻いてもいいですか?」
「わかった」
スッと差し出される両腕とリボン。手首に巻くとは言ったものの……とりあえず両手首にぐるぐるとリボンを巻き付けてみます……が、な、なんでしょう……なんだか悪いことをしているような気持になってしまいますね……。
ある程度巻いた後にきゅっとちょうちょ結びにしてみます。うーん……絵にはなりますがスターレスのイメージとは違うような……。
「へぇ……かわいいね」
「ですよね……これだとお店のイメージとは違うような……」
「そうじゃなくて。私の腕に遠慮なくリボンを巻いて、まるでプレゼントみたいにちょうちょ結びにするなんて……」
「あ、あのっ、決してそのようなことは……」
うっ……それは私もなるべく考えないようにしていたのに……。
なんだか気恥しくなってうつむいているとモクレンさんの腕が急に持ち上げられて、何をするのかと目で追っていると私の頭を通るようにして下ろされました……。
「え……」
きゅっとモクレンさんが腕を引き寄せると同時に私の身体もモクレンさんに引き寄せられてようやく状況を飲み込みます……。こ、この体制って……!
「ふふ、捕まえた」
「あ、ああああのっ!」
「なに?」
「な、んでわたし、抱きしめ……!?」
今の私はモクレンさんに抱きしめられるような形になっていて、抜け出そうにもモクレンさんの手首がリボンで縛られている以上、彼から腕を離すことはできなくて、では私が抜けだせば……と思ってもモクレンさんが腕を引き寄せている力に勝てなくて結果私の身体はますますモクレンさんにくっつくことになってしまいます……!
「姫があまりにもかわいいことするから」
「だっ、て私、モクレンさんに頼まれて……!」
「だけど私の腕を縛ったのは早希だ。提案したのも」
「なっ……!」
「こうやって、早希へのプレゼントのように縛られてしまえば私はもう君のモノになるしかないな」
勝ち誇ったように言うモクレンさんですが、今のこの状況だと私がモクレンさんのモノになってるみたいじゃありませんか!?
「姫、ここから出たい?」
「で、でたいです……!」
「そう。でもだめ」
「なんでですか!?私のモノになるんじゃないんですか!?」
うっかり出てしまったその言葉に、モクレンさんは驚いた表情をします。あ、その顔新鮮だなぁ…とちょっと思ってから自分の発言を思い出し、後悔します……。
「あ、ち、違います! い、今のは言葉の綾と言いますか……」
「そう……そうだな。今の言葉を聞けただけでも満足かな……」
「いえできれば忘れてほしいんですが……!」
「それこそ無理なお願いだね」
「んっ……」
するりとモクレンさんの手が私の背中を這うような感覚があり、くすぐったさに目を閉じているうちに私はモクレンさんの腕の中から出ていました……。リボンの端を口に咥えて腕を解放する姿は、とても扇情的で……いつもとは違う、お化粧が施された唇の紅色がうっすらとリボンに写っているのも艶やかで……目が離せなくなります……。
「姫。私はいつでも君のモノになるからね」
「は、い……」
見惚れたまま返事をすると「手伝ってくれたお礼にあげる」とリボンを渡されます……。
「あの……?」
「ああ、大丈夫。予備のリボンならあるから。……私を早希のモノにしたくなったら使って。いつでも縛られてあげる」
「っ……!」
そう言うとモクレンさんはすたすたとレッスン室から出ていきましたが……私はしばらくリボンを見つめたまま動けなくなりました……。
もらったのはいいんですがこれを見るたびに今日のモクレンさんを思い出してしまいそうなんですが……!
ここで終わります。ありがとうございます!