今日は公休日で、教室のある棟はしんとした静寂に包まれている。
運動部の学生がいるのだろう、体育館からは時折活気のある声が聞こえてくるがそれだけだ。こちらの学舎には人気がない。それが当然なのだが。
空気の揺らぎもない、静まり返ったその一角で、囁き交わす声があった。
傷んでいるというほどではないがところどころくすんだドアの上にあるプレートには「化学準備室」の文字。声はそこから漏れてきていた。
「……ふふ、もう待てないんですか?」
含み笑うのは、年若い少女の声だった。みずみずしい涼やかな響きを宿すその声が、悪戯な犬を諌めるときのように言う。
「ご褒美は後って、自分で言い出したのに……」
止めようとする言葉だが、本気で抑制しようという意思は籠められていない。駆け引きまではいかないが、相手に対する信頼と甘えが許される間柄であることを示していた。
「意地悪言わないでくれってば」
応える声はやわらかい。少女の戯れを楽しんでいる声だった。
「お前だってもの欲しそうな顔してるの、バレてないとでも思ってんのか?」
「あ……」
カタン、ころころ。
椅子が動く音に続いて、
持っていたシャーペンが机の上を転がったのか、少女の戸惑う声がした。
「おあずけは終いだってばよ」
「もう……いけない人……」
時は少々遡る。
公休日も白い校舎もまったく関係のない中年の男は、自宅で難しい顔をして目の前の巻物と向き合っていた。
ここは自室のデスク下である。厳重に呪がかけられ、守られているそこを開けられるのはこの部屋の主だけ。もっと言えば、この里を護る重責を担う火影だけだった。
もともと、火影塔には里の重要な書類や門外不出の禁術を納めた保管庫があり、厳重に護られている。その中でも特別なもの――とりわけ、失われた里であるうずまき一族に関する秘伝――が、ナルトの自宅に保管されているのであった。一族が滅び継承する者がいない今、生き残りであるナルトが持っているのが一番自然だろう。というのと、万一使いこなせない者の手に渡れば思わぬ暴走を招きかねないという有識者の助言があってこういう事態になったのだが、その有識者(大蛇丸)はどうもナルトの手によってそれがどういう暴走を見せるか見て楽しむためだけに助言をおこなったフシがある。
そして、今ナルトが向き合っている巻物の表面には『仮想転生輪廻の法』と書かれていた。
輪廻だの転生だの、過去の経験を思い出すとおどろおどろしいワードにしか思えないのだが、
「術者のイメージに準じた仮想空間に……一定時間転移したのち、戻る……なお、現実の時間には影響を与えないものとする」
ナルトは眉間に皺を寄せつつ、熱心に説明を読み込んでいる。
ちなみにデスク上には明日朝までにはまとめておかなければならない書類が積まれており、裁可待ちのメールを示す通知がパソコンの画面で主張を繰り返している。完全なる現実逃避である。
「仮想……つったら、教師と教え子とか、放課後の秘密の課外授業とか、ベタだけどいいよなぁ」
疲れた顔をにへら、と緩めているときだった。
「お茶入ったよ、あなた、休憩に……」
優しい妻の声がして、お約束でナルトはデスクに頭をしたたかにぶつける。と同時に取り落とした巻物が、都合良く妻と自分の間に転がり――
「……っん~~! やっぱり先生の選んできてくれたこのケーキ、絶品ですね」
白桃のような頬を押さえ、満面の笑みを浮かべたヒナタがうっとりと言う。
どこから見ても可憐な乙女、クラシックなセーラー服の似合う女学生だ。
可愛いなあ、とナルトはでれっと緩みきった笑みを浮かべた。
「わたしの我儘に付き合ってもらった上に、こんな美味しいものまでいただいてしまってすいません。先生にはわたし、いつもお世話になりっぱなしで」
「いいんだってばよ、ヒナタはいつも良く頑張ってるしな? 補習なんてしなくてもいいくらいの成績だってのに、偉いよなあ」
学校の教師は多忙である。ヒナタから補習の打診をされたものの、放課後だと業務終了時刻を過ぎてしまう(今はなにかと厳しいのだ)。そんなわけで、部活動の生徒も出入りするため学校の鍵が開いている時間に補習をする約束をした。
「先生も、ほら」
ふんわりと微笑んだヒナタがナルトに向けてケーキを差し出してくる。早食いのナルトが先に食べ終わってしまったので、一口どうぞということらしい。その気遣いが嬉しく、無邪気に自分を慕ってくれる彼女が可愛らしく、ナルトは身を乗り出した。
上体を傾ける動きに従い、ナルトの長い金色の髪が豊満な胸の上をさらりと流れた。
なにか忘れてるような気もすっけど。
ヒナタ可愛いし、楽しいから、いっか。
――異世界転生もののセオリーとして、登場人物は元の世界の属性から解放されて、まったく違う人生を体験できる。
そしてもう1つよくあることとして、主人公に限り、性別が変わる。
(制服姿のヒナタと先生と生徒プレイしたいなー、イチャイチャしたいなー)
というナルトの希望は、一応叶えられたと言えなくもない。
金髪セクシーな美女教師と清楚可憐な女子高生という組み合わせの二人は、秘密の甘い時間を存分に楽しんだのであった。
ちゃんちゃん。
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初公開日: 2020年10月18日
最終更新日: 2020年10月18日
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七代目話。頑張るヒナタちゃん
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お題「ロクァース(役者 伝言 伏せる)」ロクァース=お喋り
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くりんばを書きたいと思ってパソコンに向かっている綿の図。
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