左馬刻の過去の話/捏造注意
「テメェ誰のおかげでメシ食えてると思ってる」
殴られた頭がぐわんと揺れて目の前がぼやけて見えた。怒鳴り散らす男の唾が顔に飛んできて汚いなと他人事のように思った。
「ガキは親の言うこと聞いてればいいんだよ!口答えするな!」
何も言う気が起きなくて大人しく聞いているフリをする。そうした方がきっと早く終わるからだ。
「」
「左馬刻ちゃん、可愛いね。何歳?」
「13…」
「13歳?わかーい!なのに親に売られちゃったのね、可哀そう」
「……親は死んだ」
あのクソ親父と母さんが死んで、俺と合歓は二人きりになった。世界のすべては敵で、生きるためにはなんでもしなきゃならなかった。何も持っていない俺が合歓を守る為にできることなんてほとんど無くて、親父に散々やらされた身体を売って金を稼ぐ方法しか思いつかなかった。
「そうなの?」
「金が必要だから自分の意思でここにいる」
「へぇ、まぁ事情はそれぞれよね。ちゃんと働いてくれればお金は払うから、よろしくね」
汚いこの身体を今更どうしようが何も変わらない。女はよろしくと言うと、俺を専用の部屋に通した。要領は知ってる。今だけは合歓のことも母さんのことも全部忘れて、俺は男に腰を振るオンナになる。
汚くて醜いのは俺だけでいい。全部背負って、一緒に死んでやる。そうしたら、合歓は綺麗なまま生きられるだろ。
「左馬刻」
「……っ?」
顔を上げると一郎が覗き込むようにソファの傍に立っていた。
「大丈夫か。汗すげぇけど」
「…っせぇわ」
定期的に見るあの夢はきっと自分への戒めだ。どんなに時が進んで状況が変わろうとも過去は消えない。汚くて醜い自分の身体も。
「体調悪いならベッドで寝ろよ」
あんなに憎んだ目の前の男と何故か同棲まがいのことをしている。
結局、俺は合歓を守れなかった。守ろうとして何もしてやれなかった。俺の力が足りねぇから。弱いから。弱者は物を言う権利さえ与えられない。強者に従って生きるしかない。抗いたいなら力をつけて、強者側に立つしかねぇ。俺にはその力が足りなかった。だから合歓を守れなかった。
目の前の男は弱者であることに抗い、方法も知らないまま強者になろうともがいていた。その姿が何故か妙に懐かしくて愛おしくて何度も手を貸した。でもあれは、懐かしさだけじゃなかった。俺にできなかったことを成し遂げようとする男がただひたすらに眩しくて羨ましかった。俺は身を売って金を稼いでヤクザとして生きることで合歓を守ろうとした。そんな暗い道にしか進めなかった。そのせいで合歓まで汚しちまった。
なのに、この男はまっとうな道で守りたいもんを守ろうとしてる。自分の力で、誰にも恥じねぇやり方で大切なもんを守ろうとしてる。俺にできなかったことを成し得るかもしれねぇ男を俺は羨ましいと思っちまった。俺が闇を進んでいるのなら、一郎は光の中を歩んでいるんだろう。
そんな俺が一郎の隣に居れば、合歓と同じようにコイツまで汚しちまう。一郎は光の下で歩める奴だが、俺はもう光の下には出られない。俺と一郎が一緒にいるなんて所詮夢物語だったっつうことだ。かつて目指した光に憧れを抱いて一郎に手を差し伸べたがそれは間違いだったのかもしれない。出会うべきじゃなかった。とっとと死ねば良かったのか、このまま生きることが罰なのか。俺は死ぬ時期を逃し続けてる。
「おい、左馬刻」
肩を揺すられて自分が長考していたことに気が付いた。一郎は心配そうに眉を顰める。
「マジで大丈夫かよ」
「ただぼうっとしてただけだろが。一々うるせぇなイチローくんは」
「誤魔化されねぇからな。明日寂雷さんのとこ行くか」
「おい、違ぇって言ってんだろうが」
こんなことで先生の世話になるなんて嫌だ。
「じゃあ誤魔化すなよ」
「チッ」
最近一郎が可愛くない。ラップバトルをしていた頃も可愛くなかったが、最近はもっと可愛くねぇ。同棲しようって言われた時も「アンタの背負ってるもん、俺にも背負わせろよ」とか生意気なことを言いやがった。テメェはもう十分背負ってんじゃねぇか。家族やブクロって存在をよ。その上に俺のもんまで背負わせる気なんて一生ねぇよ。俺のもんは最後まで俺のもんだ。テメェはテメェのことだけ気にしてりゃいい。俺がおっしぬ時はテメェの背負ってる余計なもんも全部背負って死んでやるよ。そうしたら、テメェは綺麗なまま生きられるだろ。
「ただ昔の夢を見ただけだっつうの」
「左馬刻の昔?それって俺と会う前だよな」
「……そうだな」
「気になる、けど話したくねぇならいい」
俺の様子を見たからか、聞きたそうにしている癖に一丁前に気を遣いやがる。
「」
「これ以上傷ついてくアンタを見たくねぇよ。アンタ言ったよな。家族を大切にしろって。その家族に、アンタが入ってるってなんで思わねぇの」
「……」
「アンタは家族だし好きな人だし大切な人だ。アンタが言う、大切なもののうちに左馬刻も入ってんだよ」
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過去の話
初公開日: 2020年10月17日
最終更新日: 2020年10月18日
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