グリーンの数えきれない美点のうちのひとつに、したくないことでもすることができる、というものがある。
 そうとうに横暴で、他人を判断する明確なものさしを自分のなかにもっていて、ジムリーダーという立場もあってまるで王様のようにふるまっていると思われている彼だが、その実彼は国を支える善良な支配者そのものであって決して独善的な独裁者ではない。たしかに昔は横暴だった(そのきっぱりとした言動の被害者はおおむねレッドだった)。だったけれども、彼は一度として無責任で身勝手な言い分を振りかざしたことはない。挑発的で一方的な物言いはいつも彼の並々ならない責任感から来ていた。
 彼はいつもたくさんのものを背負っていた。ほんの子どものころから、それこそレッドがくしゃみをして洟を垂らしてきょうのおかあさんのごはんはなんだろう? なんて考えていたどうしようもなく幼稚なころから、同じ年月しか生きていないはずの彼は自らの背負っているものの正確な重みを知っていた。自分がなにをしなければならないか――なにをすることを期待されているのか、それを理解していた。
 理解は責任につながり、責任は彼を横暴に導いた。
 なぜならグリーンはなんでもできる子どもだったからだ。なんでもできる子だったから、周囲が、とりわけ自分といちばん近しいはずのレッドがそれをできないことにやきもきした。面倒見のよい彼は当然指示をする。しかしレッドは群を抜いたぼんやりぶりで、しかもグリーンの言い方は厳しかった。ちいさな町でたったふたりの同い年でしかも同じ男の子の、彼らを知る周囲の人々は、グリーンのそれを横暴と見なした。グリーンは頭の回転が速すぎ、レッドの反応は鈍すぎた。
 彼が本当のほんとうに横暴だったなら、たぶん、誰もそれを横暴とは思わなかっただろう。おかしな話だが、そういうことなのだ。心から横暴なグリーン(仮)は誰とも関わらなかったはずだ。特にレッドとは。だって無駄だからだ。指示の通らない鈍感不器用に指示しつづける根気のよさ、善良さは、根っから横暴なグリーン(仮)には存在しない。
 グリーンはいつも自分がなにをしなければならないか知っていた。ごく真っ当に、時にはちょっと病的なほどに、それに対する責任を感じていた。彼ほど責任感のつよいひとをレッドは知らない。きっと一生知らないままだろう。
 期待に応えたい、応えなければならない、という気持ちがつねに彼には寄り添っていた。寄り添われすぎてかつて身を滅ぼしかけたものの、いまは落ち着いて、なかなかうまくやっているようだ。自分に求められることを認識できる叡智とそれを本当に実行すべきかどうかの思慮の狭間で彼はいつも戦っている。この狭間があるおかげで、グリーンは、したくないことでもすることができるという美点を備えているのだった。
 彼がひっそりと本棚に眠らせている「かわいいポケモン」の特集誌のあいだに、さらにひっそりと挟まっていた一枚の写真を取り上げたレッドは、とてもひっそりとは言えないやり方で笑った。
 明らかになんらかの催しとわかるにぎやかな景色を背中に、見るからにいやそうな顔をしたグリーンがスカートを履いている。
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202010051910
初公開日: 2020年10月05日
最終更新日: 2020年10月05日
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