彼女はいつも同じ服を着ていた。和装だった。別に華美なものではなく、白地に梅柄の可愛らしい着物だった。合わせられた鶯、いやメジロの帯ですぐに「梅に鶯」を表した着こなしなのだろうと分かった。彼女の黒く艶のある髪は肩口で切り揃えられており二つ前の時代の香りを感じさせたが、不思議と彼女にはそれが一番ふさわしいように思えた。
 彼女の名前はワダチだ。年は十を少し超えた頃で、小学六年生の教科書を片手に歩いている事が多かった。
 彼女はよく笑った。特に生き物に対して強い関心を持ち、飼っている小さな柴犬を生前からの友人の様に常に側に置いた。時折一緒に問題を解いている様子が見られる。もちろん柴犬は近くでお座りをしているだけなのだが、彼女はそれでも楽しそうだった。
 俺とワダチが出会った場所はとあるお屋敷の松の木だった。春先で、青々としていた立派な松の上から降りれられなくなっていた彼女を俺が助けたのだ。
 松の木の下で小さな柴犬が「助けろ」とキャンキャンと吠えていた事もあったが、一番はワダチが昔別れた妻の小さい頃に似ていたからだ。
 七五三の祝いで撮られた写真に写る幼いころの妻は、おかっぱで赤地に白く大きな花柄のいかにも今風の派手な着物を着ていた。おかっぱである事以外ワダチと元妻の相違点はないがそれでも全体的な雰囲気が似ていた。特に笑顔はそっくりだった。
 松の枝に腰を下ろしていたワダチは俺を見ると、梅の花のように香るような笑顔をこちらに向けてきた。その面立ちが異様に写真で見た妻の顔だった。すぐにその事に気付いた時の俺の狼狽具合は驚いた柴犬が足に噛みつくほど醜くみっともないものだった。その様子にワダチは一層楽しそうに口を隠しながら笑った。その時に俺は心に決めた。この子を妻にはしてやれなかったほどやさしく愛してあげよう、と決めたのだった。
 そう決めた俺の行動は早かった。それまで勤めていた会社を辞めてお屋敷に突撃した。お屋敷自体は十年来の友人のいとこの家だったため連絡をするとすぐに会う約束をしてくれた。持つべきは何も聞かずいとこの連絡先を教えてくれる友ととりあえず話を聞く約束をしてくれた友のいとこである。
 改めて踏み入れた屋敷の中に彼女がいると思うと異様に緊張した。元妻の両親に結婚と離婚の挨拶するとき以来であった。
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麗しのロリータ、愛を
初公開日: 2020年10月02日
最終更新日: 2020年10月02日
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