デュース×監督生
二人はできてるよ!
書き終えたら多分pixivにあげます。
「…え、帰る方法が見つかった?」
「うん…。私のいた世界とつながってる鏡が見つかったんだって。…だから、帰らなきゃならない」
帰らなきゃならない。
彼女のその言葉に冷水を浴びせられたみたいな衝撃を受ける。
監督生と付き合い始めたのは、今から約一か月前。
僕から告白して、彼女がOKしてくれた。
彼女がずっと元の世界に帰る方法を探してたのは知っている。
いずれはその時が来てしまう覚悟も…出来ていたはずだ。
だけど、何で今なんだ?
まだまだやりたいことだってあるのに。
何でこんな突然…。
行かないでほしい。まだ僕と一緒に、この世界で過ごしていてほしい。
けど、それを言ったら、きっと彼女は困ってしまう。
だから僕は笑った。
「良かったじゃないか。ようやく元の世界に帰れるんだろう?…いつ、帰るんだ?」
「それが明日なの…」
「ず、随分と急だな…。そんなに…早く帰らないとダメなのか…?」
「別の世界とつながってられるのは少しの間だけなんだって。待てても明日がギリギリみたい。その鏡が、次いつ私のいた世界とつながるかわからないから、帰るなら今がチャンスだって言われたよ」
「そう…なのか…」
夏も始まったばかりだというのに、僕たちの周りの空気だけ冷たい気がする。
声が震えそうになる。手が震えそうになる。
だめだ。男が女を不安にさせてどうする。
「なら、今のうちにたくさん思い出を作っておこう!どこか行きたいところは?どこへだって連れてってやる!マジホイがあれば」
「ねぇ、デュース」
「っ、何だ?」
「……………」
彼女の顔が曇る。
何か、変なことを言ってしまったのだろうか。
僕と思い出なんか作りたくないとか…?い、いや、彼女に限ってそんなことはないはずだ。
少しの時間が経過して、彼女の桜色の唇が、ほころんだ。
「…監督生…?」
「やっぱり、何でもない!えっと…、帰れるようになったこと、まだデュースにしか話してないから、他の人たちに報告しに行こうと思うんだけど、一緒に来てくれるかな…?」
「…?もちろんだ!」
何を言いかけたのか気になったが、結局それ以上追及することはせず、僕たちはお世話になった先輩方への挨拶回りに向かった。
ハーツラビュル寮、サバナクロー寮、オクタヴィネル寮、スカラビア寮と、順々に回る。リーチ先輩たちに、危うく海に連れてかれかけたり、アジーム先輩に魔法の絨毯で連れ去られかけたりと多少のハプニングはあったが、無事に回り切ることができたんじゃないだろうか。
彼女もしっかり挨拶ができてよかったと喜んでいる。
大事はなかったとはいえ、そんな風に喜べる彼女の神経の図太さは一体どこから来るのだろう…?
「僕がいなかったら、今頃人魚にされてたかもしれないな」
「ふふっ…んー、あの先輩たちならやりかねないなぁ…」
「何だかブッチ先輩の様子もおかしかったしな…。今日はオンボロ寮まで送ってく」
「えっ?大丈夫だよ、いつも通り鏡の間までで」
「えっ……と……」
いつも通り鏡の間までで。最後までいつも通りを貫くのも、いいのかもしれない。
彼女が帰るのは明日。ブッチ先輩のことだってあまり気にかけなくてもいいのかもしれない。
……違う、それじゃだめだ。
「その、少しでも長く一緒にいたいんだが…ダメか…?」
「…ダメじゃないよ。私も一緒にいたい」
良かった…。そう答え、彼女の手を取る。
あまり僕からこういうことはしないからか、彼女は驚いたように一度手を引いたが、すぐに握り返してくれた。
明日にはこの手のぬくもりが無くなってしまう。そう考えると悲しくて苦しくてたまらないが、彼女のことは笑顔で見送りたい。
彼女を帰したくない。ずっとそばにいてほしいと望んでしまうこの気持ちは隠し通さなければならない。
オンボロ寮に辿り着く。名残惜しそうに彼女の手が離れていった。
「じゃあ、また明日ね、デュース」
「…あぁ、また明日」
また明日。
その言葉を使えるのは、今日が最後だ。
ハーツラビュル寮に帰り、談話室に向かうことはせずに自室に直行する。
部屋の扉を開けると、部活で遅くなると言っていたエースが既に帰ってきていた。
「あ、お帰りー。……え?いや、帰ってくんの早くね!?」
「?別にいつも通りだろう?お前こそ、今日は部活で遅くなるんじゃ」
「そーじゃなくて!!明日には監督生元の世界に帰っちゃうのに何で普通に帰ってこれんの!?」
「…?今日はオンボロ寮まで送っていったぞ?」
エースの言いたいことがいまいちつかめず首をかしげる。
「それは普通じゃん」
「え、普通なのか?」
「はぁっ!?逆に今まで何してたの!?彼女のこと寮まで送ってくのくらい普通じゃん!?」
「いや、いつも監督生が鏡の間まででいいって…」
「ただでさえオンボロ寮はセキュリティゆるっゆるの超危ないところなのに何やってんの!?もー意味わかんねー!!!!」
「えぇ…」
言われてみれば…確かにそうだ…。
なぜ今まで僕はセキュリティのことを考えていなかったんだ…?
「この際だから言うけどデュース。監督生とどこまで進んでる?付き合って一か月たってるわけでしょ?キスは?その先は?」
「キキキキキキキス!?そ、そんなことできるわけないだろ!!早すぎる!!」
「一か月たってんのにキスもまだなの!?はあぁぁああマジで意味わかんない何でお前なの!?監督生帰っちゃうんだよ!?」
「う゛っ…」
ぐうの音も出ない。
普段一緒に過ごしているエースに言われるからこそ心に刺さる。
それに、エースは監督生のことを好いている。もちろん恋愛的な意味で。
監督生に告白する権利をかけて決闘したくらいだ。エースの監督生に対する思いは知っているし、今もなおその気持ちを諦めていないこともわかっていた。
だからこそ、エースから言われると何も言えない。
「信じらんねー!!こんなやつにアイツのこと譲らざるを得なかったとか、過去のオレのことぶん殴りてー!!!!」
「だっ…まだ一か月だぞ!?」
「もう、一か月ね!!大切にしたいって気持ちはわかるけど何でそんな意気地なしなの?」
「ぐっ……」
お前は手が早すぎるんだよ。そう言ってやりたかったが、ミドルスクール時代、一般的なカップルとは程遠い位置にいた僕にそんなことを言う権利はない。
今からでもオンボロ寮に向かうべきか?
いやでも、明日元の世界に帰るんだ。彼女も何か準備しているかもしれないし、そこに僕が向かったらまるで、まるで彼女が元の世界に帰るのを、邪魔しようとしてるみたいじゃないか。
でも最後だぞ?最後なんだぞデュース・スペード。
男なら腹をくくるべき何じゃないのかデュース・スペード。
でも、だけど……。
そんなことを悶々と考え続け、気が付けば夕飯の時間になっていて、気が付けば消灯時間を過ぎていて。
その日一睡もすることができないまま、僕は彼女と過ごす最後の日を迎えてしまった。
元の世界に通じるというその鏡は、図書室内部の、普段生徒は立ち入ることができない禁書が蔵書されたエリアに現れたらしい。
道理で、監督生が普通に探していても見つからないわけだ。
当然のように生徒は立ち入り禁止だが、今回は特別に僕とエースとグリム、そして当の本人、監督生のみ立ち入ることを許された。
「本当に…行っちまうのか…?」
「どうしたのグリム。私がいなくなって寂しい?」
「さ、寂しくなんかねーんだゾ!!…寂しく、なんか…」
ぎゅむ。言葉の途中で、グリムが彼女の胸に顔をうずめる。
言葉ではあぁいってるが、きっと寂しくてたまらないに違いない。
監督生とグリムは二人で一人の生徒。当然過ごしてきた時間も学園内で一番長い。
彼女と恋人同士である僕でもあの二人の間に入ることはできない。
「行かねーのかよ、デュース」
「…そういうエースはどうなんだ」
「まっ今はグリムのターンだしぃ?たまには譲ってあげてもいいかなーって」
「素直じゃないな」
「はぁ?何それ?彼氏ポジションの余裕?生意気じゃん。ヘタレのくせに」
「ヘタレっていうな」