#レオラギ短編1
今日はお祭りの日。新調した真っ赤なワンピースに、出したばかりの赤い靴を履いてのお出かけだった。
「ちぃちゃん、はぐれないようにね」
お母さんの手を握って歩く。何時もより賑わう街並みは異世界に迷い込んだみたいで心が浮足立つ。お気に入りのお人形さんを抱えて足取りは軽い。そんな折にお人形さんはちぃちゃんの手を離れて人波に攫われていく。「あっ」と思わず声に出た。お母さんとの約束よりお人形さんのことで頭が一杯で、気づいたら走り出していた。何処まで行くんだろうか、不安を胸にお人形さんを追いかけるが、道は険しく、行きかう人の足にぶつかり何度も転びかける。追いかけ、追いかけ、辿り着いたのは噴水広場だった。建物と建物を繋ぐようにして飾りがキラキラと光り、見慣れた街とは思えない。お人形さんは開けた場所に落ちていた。
「あ?何だこれ?」
ちぃちゃんが拾うより早く、誰かの手がお人形さんに伸びる。ちぃちゃんのお人形さんが連れていかれる! そう思ったら思わずその体に突進していた。お人形さんを拾ったのは名前も知らないお兄さんだった。
「かえして!!ちぃちゃんのなの!!」
大粒の涙をぽろぽろと零しながら、キッと睨みつけた。いや、睨みつけるだけではない、ぽかぽかと足を両手で叩く。お兄さんは困ったように溜め息をついたが、ちぃちゃんには関係ない。お人形さんが自分の手の中にないだけで不安は溢れるばかり。そんな時にお兄さんより小柄な人が後から現れて、お兄さんかお人形さんを受け取ったと思ったら「はいどうぞ、おちびさん」って返してくれた。泥だらけになったお人形さんは確かにちぃちゃんの手の中に帰ってきた。
「おちびさんじゃないの、ちぃちゃんはちぃちゃんなの……」
「ごめんねちぃちゃん。このお兄さん悪気はなかったんだけど、どうしたらいいか分かんなかったみたいなの」
視線を合わせてくれた小柄なお兄さんがちぃちゃんに謝ったら、偉そうなお兄さんが「おい」って怒った。それに対して小柄なお兄さんは「まぁまぁ、此処はオレに任せて欲しいッス」って、まるでお母さんとお父さんみたいで、思わず「お母さん」って呼んじゃった。そうしたら、小柄なお兄さんは驚いたように真ん丸なお目目を更に丸くさせた。
「へえ、お母さんねぇ」
「レオナさん殴っていいッスか? んんっ、そういやちぃちゃんのお母さんは何処なんスか?」
「わかんない……。はぐれちゃった」
お母さんとの約束を破ったこと、どうしようか途方に暮れるちぃちゃんに小柄なお兄さんは「それは困ったッスねぇ」って頭を撫でてくれた。
「レオナさん、どうします?」
「このガキ連れて行くってか?慈善活動しに来たんじゃねぇぞ」
「それはそうなんスけど……。でも、この子の大切なもの拾ったのはレオナさんなんですから、責任もってお母さんに会わせてあげてもいいんじゃないッスかね」
「めんどくせぇ」
お兄さんたちが言い争っている内容がちぃちゃんのことなのは何となく分かった。ぎゅうとお人形さんを抱えて走り出そうとした。此処にいちゃダメだって思ったから。なのに、偉そうなお兄さんはちぃちゃんの服を掴んだ。
「おい、ガキ」
「何でそんな言い方するんスか。ちぃちゃん、お母さんの特徴分かる?あー、えっと、今日着てた服とか」
「おかあさん、きいろのワンピース……。それで、しろのカバンもってたよ」
必死にお母さんのことを思い出す。ちぃちゃんとお揃いでお母さんも今日はワンピースを着ていた。お兄さんたちはきょろきょろと視線を動かすとにやりと笑った。
「ちぃちゃん、お母さん見つかったッスよ」
「ほんと?」
「ほんとッス」
両手をお兄さんたちが引っ張ってくれた。何だか、やっぱりお母さんとお父さんみたいだった。ぎゅっと握り返すと、ぎゅっと返ってくる。それが何だか嬉しかった。
「ちぃちゃん!」
「おかあさん!!」
お兄さんたちが連れてきてくれた先にお母さんが居た。ばっと駆け出した。お母さんに抱き着くと、ぎゅっと抱き締めてくれた。お兄さんたちにお礼を言おうと振り返ると、お兄さんたちは何処にも居なかった。
「あれ……?」
「もう、心配したのよ!良かった……無事で……」
「……ごめんなさい」
お母さんの泣き出しそうな声に、凄く悪いことをしたんだなって思った。もう二度とはぐれないように気をつけるって、そう思った。
「それで、あの子見届けて立ち去って良かったんスか?」
「あー?別にガキのお守りしに来たわけでもないのに何でんなかったりぃことすんだよ」
迷子の女の子は無事母親と出会えた。めでたし、めでたし、ハッピーエンドで幕を閉じた。
「まあ、いいんスけど。レオナさん薄情だなってだけなんで」
「おい」
ラギーはなんとなしに空を見上げる。闇の中にぽつんと浮かぶ月が淡く辺りを照らす。
「お母さん、か」
「お前が母親なんて願い下げだな」
「野菜食わないレオナさんが悪いんスよ!つか、オレが母親だったら、レオナさんは父親ってことになるんスかね……?」
何だかそれはそれで笑い話だ。どちらもそんな柄ではない。けれど、そんな顔も見てみたいと思ってしまった。ラギーの心を見透かすようにレオナは鼻で笑う。
「何だ、ラギー。子どもが欲しかったのか?」
「べっつにぃ?欲しくないッスけど??」
付き合っているような、そうでないような距離感。卒業と同時に赤の他人に戻る。期間限定の恋人。それが寂しいなどとは思わない。だが、思い出くらいは残してもいいのではないかと時々思うのだ。
「繋がりなんて残したらめんどくさいだけですよ」
「そうだな」
「でも、たまに欲しくなるんスよ。別れが決まってる関係ってどんな気持ちッスか?」
「さあな。けど、俺もお前も夢から覚めるんだろうな」
これが一抹の夢だと、レオナはそう言った。夢は覚める、どんなものであっても必ず。何時までも子どもでは居られはしない。みっともなく縋る真似など死んでもごめんだからと、結局別れを受け止めるのだろう。お互い、良い人に出会えることを願って。良い人に出会わなければ良いと本心を隠して。
「あと、どんくらい一緒に居られるんスか」
「さあな。そんなこと言うなら王宮に来ればいいだろうが」
「笑いものにされるだけッスよ。薄汚いハイエナが何しに来たって。アンタと世界をひっくり返すっていう夢、諦めたわけじゃないッス」
「そうかよ」
レオナさんがどう思っているのか知らないが、だが、それは紛うことなき本心だった。腐った世界なんて要らない。レオナさんなら、オレが選んだ王様なら変えられるとそう信じていた。
「じゃあ、その夢大事にしまっとけ」
さっさと歩きだす背中を追いかける。馬鹿にするでもなしにレオナさんはオレの夢を肯定した。それが何よりも嬉しかった。二人で歩く道は、この先分かたれるとしても、そんなこと関係なかった。きっと、また出会える。否、会いに行く。別れたが最後ではない。また、二人歩く未来を夢想する。
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初公開日: 2020年09月06日
最終更新日: 2020年09月06日
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