夜の繁華街はありとあらゆる欲望を刺激するために光っていた。
キャバクラ、ホストクラブ、居酒屋、BAR、インターネットカフェ、コンビニ。人を誘い込もうと電飾の看板がけたたましく点滅する。
さあて男二人で何をしようか。
後ろを歩いていた男を振り返り、顎をしゃくってその辺の看板を指してみると「酒ガ飲ミタイナ」と返事が返ってきた。
それで、そうする事にした。
風俗の呼び込みをかわしつつ適当に入った居酒屋は、立ち飲み屋と銘打っているのに椅子があった。
「お兄さんたち、二人とも大っきいですからテーブル空けます! ちょっとだけ待ってくださいねぇ」
ハキハキと大きい声で語尾を伸ばす店員に案内され、4人掛けのテーブルに通される。
正直助かった。狭いカウンターに男二人肩を合わせながら身体を縮こめる気分ではなかった。
はあい、と熱々のおしぼりを差し出され笑顔を返す。
「飲み物、お決まりでしょうかー?」
「えっと、ちょっと後で。ゴメン」
「いいえー! お決まりになりましたらお呼びくださあい」
ドイルは筆文字で書かれたメニューを静かに見つめていた。
読めんのか?
克巳が首をひねっていると、無言のままぽいと紙欠は投げ出される。
「そっち、つまみのメニューだろ。食べたいモンあったか? 先に、何飲みてえの?」
ドリンクメニューーこちらはラミネート加工されているーーを渡してやると、ドイルは大人しく受け取って眺めたあと「任セル」とメニューを押し戻した。
「ふぅん? けっこー飲めるワケ?」
「ソレナリニ」
「んじゃ、甘いのと辛いのどっち」
「……辛口ノ気分カナ」
しばし考えた末に店員を呼び戻し、いつぞや親父が呑んでいた日本酒を注文する。
自分は呑んだことはないが、まあ大丈夫だろう。
父親への信頼感を
「東北の酒だな。イギリスは、雪降るのか?」
「冬ニハ」
「そりゃそうだ」
それから、季節の話を二人で一巡りした。
春には桜が咲いて、神心会一同で花見をすること。イギリスに美しいガーデンがあること。
夏の日差しと蝉の声の話(イギリスには蝉がいないらしい)。秋の紅葉に何故か追い立てられるようになる気持ち。冬のきりりとした寒さに指が冷えること。真冬の道場の床の冷たさ。
そういう、二人で過ごすわけがない日常の話と、
未来の話を少しだけした。
注文した酒は立ち飲み屋にしては美しいきりこ細工の酒器で提供された。
とろりとした冷やの酒が喉を通って熱くなる。
「あー、けっこうキツいなこれ」
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初公開日: 2020年09月05日
最終更新日: 2020年09月05日
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