時計の長針も短針も12時をすぎた時何も無い無機質な部屋にリドルは一人だった。
それはリドルがこの世に生を受けてからおおよそ20回目の8月24日。まあつまり20歳の誕生日だった訳だ。別に誰に祝って欲しいわけでもなかった。毎年健康に気を使いながらも盛大に祝ってくれた母とはもう1年連絡をとっていない。スクール時代の面々に声をかけるのはなんだか気が引けたし、大学に仲のいい友人はいなかった。1人だった。感慨も実感も湧いてこなくて、漠然と酒が呑めるようになったんだなあと思っていた。体には悪いけど。
  何もする気が起きなくてパソコンの電源を落とした。無機質なチャイムがなったのはその時だった。こんな時間になんだろう、とか隣の人から注意を受けるようなことなんてしたかなとは思っていたけれどとりあえず、ドアスコープから外を覗く。そこには見慣れない、いや見慣れていることはいるのだけれどこの場にいるには不釣り合いというか、いるわけが無いオレンジ色の髪をした男がたっていた。
その男はいっぱいにしたレジ袋を2つ下げて笑っていた。
ガチャリと反射的に鍵を外していた。
「なっなんでここにケイトがいるんだい?」
「リドルくん〜おひさ〜!近くによったからついでにあそびにきちゃった!」
嘘だ。と思った。ケイトの地元も進学先も輝石の国だし。TU加盟国だからってそう簡単に行き来するもんじゃない。
「あれ〜フリーズしちゃった?入れてねリドルくん。」
お邪魔しま〜すと呑気な声をかけて押し入ってくるケイトは礼儀正しいのか図々しいのか。まあ多分後者だろう。
「ケイト。まだボクは良いと言っていないよ」
「え〜だってダメじゃないでしょ?」
「それはそうだけれど」
「オレリドルくんに追い出されちゃったら今日寝るとこないよ」
「…」
「おねがい」
「今日だけだよ」
「うーん、嬉しいんだけどそういうの誰にでも言わないほがいいよリドルくん」
「キミだから言ってるんだ。誰にでも言うわけじゃない」
ケイトは部屋の中に押し入りながらそういうことだよと呟いた。リドルくんは誰にでも勘違いさせるような物言いをするから不安なのだ。あと、仮にドアスコープを覗いたのだとしてもチェーンはかけたままドアを開けるべきだ。相手が明らかに知り合いだとしても。
「あいにくティーポットがあるような部屋じゃないんだ。ティーバックでいいかい? 」
「うん、おっけーってかこんな時間にいきなり押しかけてごめんね〜」
この個性的で言ってしまえばボロい、バイトでやりくりしている大学生が手が出せる範囲のアパートに、りどるはひどく不釣り合いなようにケイトには見えた。こんな所にいていい人間じゃないし、だけれど同時にリドルくんも同じ人間なんだと思って少し安心した。おかしな話だった。三年も一緒にいたのに。
「押し掛けてきた自覚はあったようで良かったよ。で、どうしてこんなとこにきたんだい?」
「え、いや用事とかないよ?」
「さっき用事があって近くまで来たと言っていたじゃないか」
「うーん。いったね」
「あれは嘘なのかい?」
「まあまああったっちゃあったようん、うんごめんね」
この感じ久しぶりだなと思った。リドルくんと話すとこちらのペースを崩されるというか。それはリドルくんも同じなのかもしれない。言葉を額面通りにしか受け取れないリドルくんと言葉の裏を読むことでしか会話できないオレってホント合わないよね。リドルくんもオレも2年だっても変わらないもんだね。
「でさ、リドルくんちってオーブンある?」
無理やり話題を変えた。いやほんと無理やりだけど、こういうの気にしないとこがリドルくんって思い出してきたから。
「あるわけないだろう。トレイでもあるまいし。ボクにお菓子作りはむいていないよ」
「やぱ?なんかさオレ急にタルト作りたくなっちゃってここに来る途中に買ってきたんだよね、材料」
そうやってケイトは右手を上げてゆるくレジ袋を振った。
「は?」
「マジクックでオーブンなくても作れるレシピ探してきてよかった〜」
お脈絡もなくそんなことを言うものだからリドルも毒気を抜かれたようにしかめた眉を下げた。
「台所借りるね〜」
「ボクも手伝うよ」
2人で台所に立った。トレイの手伝いでケーキを焼いた時以来だったからそれはおおよそ2年は前のことだった。
「なんかリドルくんとこうやってなんかすんの懐かしいね」
「ああ、久しいね」
そうやってくすくすとふたりで笑う。幸せだった。
「ケイト、この適量ってどのくらいだと思う?」
「え〜リドルくんが好きなだけ入れちゃいなよ」
リドルがレモン汁の瓶を思いっきりかたむける。さすがにそれ入れすぎじゃないかな?とケイトは思ったけどなんにも言わなかった。
ただ几帳面にはかり入れるリドルの横顔を眺めていた。
結果から言うと、タルトは不味かった。
そもそも8月のイチゴタルトなんて季節外れ甚だしくて。冷凍イチゴは小さくて酸っぱかったし、タルト生地焼け切ってなくてどこか生っぽいのに、不思議と焦げていた。フォークもケイトが気を利かせて買ってきたプラスチック製で、お皿もひとつしかないからそこから直で食べる。なんの特別感もなくて、何かの罰ゲーム?みたいな感じだった。レシピ通りに作ったのにとリドルは憤慨していたけど、ケイトは楽しかった。こういうの久しぶりだなと思った。そのままあっと思い出して冷蔵庫をあけた。
「お酒も持ってきたんだよね、リドルくん2年生でしょ?もうのめるよね〜」
「まあ、飲めなくはないけど。」
「じゃあじゃあ」
缶チューハイのプルタブを開ける。
「リドルくんの誕生日を祝ってカンパーイ」
そうやって勝手に缶をぶつけるとリドルは驚いたような顔をして固まっていた。
「なになに、りどるく〜ん。お〜い」
そうやって顔の前で手をふると額に皺を寄せケイトの方を向く。
「ボクの誕生日…知っててきたのかい?」
「うーん、まあ、そう?かな」
「ありがとう。タルトも美味しかったし、久しぶりにキミに会えて嬉しかったよ」
キミは卒業をしてから恋人にも連絡をよこさないようだったからね。リドルは皮肉をきかせて笑う。その表情はあまり似合ってなかった。ケイトは触覚に手をやりながら苦笑する。
本当は来る予定じゃなかったのだ。カレンダーを見て、明日誕生日だなあ、はたちだなあと思って気づいたら夜行バスに乗っていた。1目顔が見れたらなと思っていたけど、きがついたらピンポンをならしていた。それだけだった。
「ごめんねえ突然押しかけて」
「でも嬉しかったよ。今年は誰にも祝われないと思っていたから」
「ごめんね、」
「だからいいって言っているじゃないか」
「そうじゃなくて、連絡しないでごめんね、連絡するねって嘘ついてごめんね、」
「それも別に今は怒ってる訳では無いよ」
「リドルくんにオレのこと忘れて欲しかった。リドルくんはきっとすごい人になるからオレと交際関係にあったことなんて黒歴史だよ」
「それはボクが決めることだよ」
「リドルくんの意志なんか関係なくて結局それが世間の評価なんだよ」
「別に構わないよ」
「そっか」
「うん」
「すきだよ、リドルくん」
「ボクもすきだよ」
深夜のボロアパートで安酒片手に何やってんだろうねって2人で笑って、そのままシャワーとTシャツを貸した。ボクのTシャツはケイトにはなんだかつんつるてんなのが気に食わなかった。むくれるとケイトはころころと笑う。
「リドルくんお誕生日おめでとう」
「ありがとう」
「おやすみ」
「おやすみ」
熱帯夜だとニュースでは騒がれていたけどシングルのベットに2人で手を繋いで眠る。ギュウギュウでとても暑くって、でもお金はないからクーラーは付けられなくて。でも、それでも幸せだった。ボクが辞書を作ることになったら幸せの意味の欄に今日この日のことを付け足しただろう。だからケイトも同じだと思っていた。今この時間のことを幸福に思ってくれていると信じていた。
あさが来た。遮光カーテンじゃないから日差しがよく入る。目を擦る。おかしいと思った。隣にケイトはいない。夢なのかと思った。全部全部夢で昨日のことはボクがみた幻なのかと思った。でもベットの隙間はまだ暖かかった。折りたたみテーブルの上にはメモが置いてある。そこにあるのは3年間よく見た、懐かしい字だった。
『ごめん、またね。大好きだったよ。』
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お誕生日の文
初公開日: 2020年08月24日
最終更新日: 2020年08月23日
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リドルくん生誕のケイリドを書きます