「いい加減観念してくださいよ、寮長」
誤算だった。綺麗に余すところなくやり遂げた筈の「秘密」は、いとも簡単に紐解かれてしまった。ボクしか知らない真白のそれを、傷つかないように、見つからないように、強い決意を込めた真紅で塗り潰したはずだったのに。誰にも触れられないように、それはそれは大切に大切に、閉じ込めたはずだったのに。踏み荒らされてぐちゃぐちゃにされるくらいなら、自分で染めて隠してしまった方が気が楽だった。はじめてボクの中に生まれた感情だったそれはキミに向けてはいけないものだと思っていた。ただの寮長と寮生という間柄のキミにこんな感情を向けてはいけない、この立場に君臨する人間として抱くべきではない感情だと分かっていた。分かっていたから隠した。塗り潰して、見つからないようにしようとしていた。赤薔薇の集団に溶かし込んだ白薔薇のように、それはそれは完璧に、隠した筈だったのだ。
「…どうして、どうしてそんなことを言うんだい、折角見つからないように、キミのために隠しているのに。どうして分かってくれないんだい、」
「寮長」
「分かってるじゃないか、そうだよ、ボクは寮長で、キミは寮生。ただそれだけの関係だ。それ以上でもそれ以下でも、って、っ⁈」
急に目線が目の前の茜色とぱちり、と合う。まるで奥に隠した筈の心を見透かされているようなこの眼差しから逃げたいともがくが、大きな手のひらがボクの頰を包み込み、それを許してはくれない。いやだ、いやだ、これ以上見つめらたら、ほんとうに、
「ね、寮長、よそ見しないで見て。オレの目」
「っひ、」
「なんでオレのためとか言うの。寮長はオレじゃないでしょ。オレ隠して欲しいなんて言ってないんだけど」
「…寮長は、寮生にこんな、こんな感情を、むけるべきじゃないし、こんな感情で縛るわけには、いかないんだ。だから」
目線が泳いだボクを、エースは見逃さなかった。添えていた手はボクの頰の真横に叩きつけられ、ぐっと距離が近くなる。茜色が目の前いっぱいに広がって、灼きつくしそうなそれにボクは目眩がした。
「、っく」
「ねえ、そんなこと聞いてないよ、オレ」
「だって、そんな」
「寮長じゃなくて、アンタ自身の言葉が聞きたいんだよ、…オレが知りたいのは寮長としてのの気持ちじゃない、…リドルとしての、気持ちなわけ」
「…っ」
壊されるくらいなら、踏み潰されるくらいなら、自分で押し殺してしまおう、そう思っていたはずなのに。そんなに大切にされるなんて、聞いてない。こんなの知らない、そう言えたらどんなに楽だったか。
「オレは、好きだよ。寮生としてじゃなくて、オレ自身として」
塗られた赤色が、溶けて剥がれていく。真摯な言葉のひとつひとつが、ボクの心を掴んで離さない。もう逃げられない、そう思ったボクを、もう逃さぬまい、と言わんばかりの言葉が降り注いだ。
「ね、教えて…リドル。ここにある気持ち、オレに。リドルの感情、オレにちょうだい」
ああ、まずい、これは。折角隠していたのに。そう感じた時には、もう何もかもが遅かった。
「…っ、そんな反応されちゃうと、自惚れちゃうんすけど」
「どうしてだい、何も言っていないよ、ボクは」
「その…顔真っ赤、だから」
「…⁈」
「…リドル、」
焦らされた茜色の瞳に、白薔薇が映し出される。
「オレの事どう思ってんの?」
ついに、見つけられてしまった。
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ひみつのひみつはばらのなか
初公開日: 2020年08月18日
最終更新日: 2020年08月18日
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