例えば、だ。
美しく流れる髪だとか。藍染めの浴衣から覗く白い肌だとか。宝石よりも美しくきらめくその瞳だとか。
そんな風に、触れるのを躊躇ってしまうほどに見惚れる要素はいくらでもあって、それは事実なのだが。
――例えば、だ。
うなじに汗で張り付く髪だとか。隣を歩いているからふと触れる手だとか。あるいは祭りに喜んで上気する頬だとか。
そんな風に、『触れるのを躊躇ってしまう気持ち』を凌駕するほどの熱を生む要素があることもまた、……事実なのだ。
「あどにす殿は何味が良いであるか?」
「……あ、あぁ」
ひょいっと隣からのぞき込むようにして声をかけられて、アドニスの声は一瞬詰まった。
その問いが不審だったわけではない。むしろ、真っ当な問いだ。祭りに来てかき氷の屋台に並んでいてもうすぐ自分たちの会計の番が来るというときにする問いとしては、正しい問いだろう。
「か、神崎は何味にするんだ?」
日が落ちても高い気温のせいか、かき氷の屋台は混み合っていた。アドニスと神崎が並び始めたのも少し前からで、それなのに決まっていないとは言いだしづらく、アドニスは申し訳なく思いながらそう尋ねた。
「我であるか?我はいちご味にしようと思うである」
うきうきと告げる神崎は本当に嬉しそうで、可愛い。改めてハードなスケジュールをこなして祭りに来てよかったと思う。祭りに来るまではあんなにも身体が重かったのに、今は嘘のようだ。
「そうか。なら、俺も同じのにしよう」
そんな『友人との祭り』を楽しむ神崎への若干の罪悪感を抱きつつ、それを表に出すわけにはいかないので、アドニスはふわりと笑みを浮かべてそう告げた。
神崎は「よいのであるか?」と首を傾げたが、そこでちょうど順番が来たのもあってそれ以上は何も言わなかった。店員にイチゴ味を二つ頼んで、財布から小銭を出している。毎回二人が財布を出すのも手間だからと、今日の出店巡りは順番に支払いをしていた。先ほどのタコ焼きはアドニスが払ったので、今度は神崎の番だ。
アドニスからすれば、こうして神崎と出かけられるだけで嬉しいのだから全部出しても全く構わないのだが、それを祭り会場に向かう途中で告げると神崎に「それで言ったら我もあどにす殿と出かけるのが嬉しい故、半分こである」と言われた。その笑顔があまりにも可愛かったので、つい頷いてしまった。
(楽しい、な)
かき氷の片方を受け取りながら、内心でそう呟く。
神崎がアドニスを思う感情と、アドニスが神崎に抱く感情は、少し違う。それが分かっていながら、だけどやっぱり彼の隣は心地よい。『友人との祭り』は楽しい。
「冷たいであるな」
「あぁ、美味しい」
空いているベンチに腰かけて、二人でかき氷を食べる。甘いシロップがかかった氷は、むしむしとした夏の夜に食べると心地よい。
食べながらちらりと横目に視線をやると、楽しそうにかき氷を食べる友人の姿がある。会ったときからずっと美しいと思う横顔は、短くはない時間近くで見てもなお、色褪せず美しい。
……この美しさを、隣で『友人』として見るだけで満足できたなら、きっともっと楽だったのだと思うけれど。
「あ、そういえば」
シャクシャクと食べ進めていた神崎の視線が、ふとアドニスの方に向いた。ぱちっと合った視線にドキリと心臓が鳴る。
「着付けのときに鬼龍殿から教えていただいたのであるが、かき氷を食べると舌に色が移るらしい」
「色?」
聞き返したアドニスに「うむ!」と頷いた神崎はそのまま舌を出した。
「どうであるか?」
「あ、あぁ、確かに赤くなっているようだ」
んべ、っと出された舌は鮮やかに色づいていて白い肌との対比が相まって、ドキリとしてしまう。
(その舌に、噛みついてしまいたいなんて)
おおよそ『友人』にふさわしくないであろう感情は、隣で抱えるには少し苦しくて、でも彼に対する感情だと思えばどこか愛おしくて、ぐっと呑み込んだアドニスは「俺はどうだろうか?」と舌を出して応じた。