食の革命<後編>の執筆配信。
途中までは書いたので、その続きから最後まで書き切るのを目的とした配信。
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スチームゴリラⅡ号と命名されたのは、なんと自動車だった。司帝国との全面戦争を勃発させた際に活躍してくれた乗り物を、製作者のカセキは暇を見つけては改良を繰り返していたのである。
それに乗り込み、運転席には南が座り真とカセキは後ろの席へと腰を下ろしていた。
「…………」
スチームゴリラ二号が動き出し、新科学王国から離れて石神村へと向かう道中。目の前の光景に真は言葉を失っていた。
「なんだか、不思議だな……」
「え?」
「ほら、私って今の場所から離れることなんてなかったじゃない。だから、こうして初めて飛び出してみて、ストーンワールドになった世界を目の当たりにしたから……」
石器時代のような世界が広がり、所々に石化した人間の像が散乱している。東京から箱根までの道を走っているわけだが、見慣れた景色など存在していなかった。
「ギャップが凄くて、驚いちゃってるんじゃな?」
「……うん。でも、これが現実だもんね。受け止めなくちゃ」
「大丈夫よ、ここには貴女の弟やその仲間たちがいるわ!このストーンワールドを科学の力で切り開こうとしてるんだもの、二人が組めば楽勝よ!」
「ふふ、ありがとう。そう言ってくれると、やる気が出てくるよ」
そう話しながら、真は空を仰ぐ。いくつか雲が浮かんでいる青空を見つめてから、ゆっくりと瞳を閉ざす。
ドッドッド、と音を立てて走り続けるスチームゴリラⅡ号は、道を間違えることなく真っ直ぐ目的地へと向かって進んでいった。
♪
走り出すこと暫くして、もくもくと煙を出している釜と少し離れた場所で往来している人影が見えてきた。ガタガタと五月蠅く走行していく車の音に気付いてか、周辺を往来していたであろう人たちが集まってくる。
「Wピストンで坂も登れるようになったスチームゴリラⅡ!!」
誰もが目を見開き、そう叫んでいた。「もともとエンジンとか全部あったしね」と話すカセキは、走行が止まる車から降りながらそう千空たちに話しかけた。
「つーかどうしたんだよカセキのじいさん!その服!!」
「フッフッフ、イケてるでしょ?ワシこれからこの格好で行こ思ってね」
黒いサングラスを掛けている彼に驚愕の声を上げている横で、服を着替えた理由を聞いた真と南はパチパチと瞬きを繰り返した。
「え、そういう理由だったのか……」
「ううーん、ちょっと洒落こみたかった気持ちは分かるけれどねぇ……」
だが、背筋を伸ばして優雅に歩くカセキへ千空がコソコソと耳打ちをする。彼をここに呼んだ理由は、少しばかり細かい細工作成を頼むためだ。
一部始終を聞いた彼は、折角着こんだ服をパァァアアン!!と引きちぎるかのように吹き飛ばした。興奮すると裸になってしまうのが、カセキの特徴でもあった。周囲から「服ぅぅうう!!」と驚きの声が上がったのは、言うまでもないだろう。
「さあて、カセキ大先生様はこれで良いとして……姉貴は何しに来たんだよ」
「パン作りに興味があって着たってところね、一通りの工程を聞けば無効に戻っても作ることができるかなって思ってね」
それに、真に会いたがっている人がいると聞いていたから会いに来たことも話せば、千空は心当たりがあるのか「案内してやる」と話してくれた。
真が足を踏み入れている場所は、クロムの秘密基地として使用している空間を科学王国へと改造を繰り返した一角だ。そこから少し歩けば、長いつり橋が掛けられている小島が見えてきた。そこが、度々耳にしていた『石神村』であると彼女が理解するのに時間はそれほどかからなかった。丁度村の中を往来している男女二人組に千空が声をかけ、彼から二人の名前を聞くこととなる。
「姉貴、ジャスパーとターコイズだ。村長代理っつーことで、この辺りに住んでいる爺婆の面倒を見てんだ」
「ちょっと、言い方ってものがあるでしょう」
「…………」
ムッとさせながら話をしたのは、ターコイズ。無言で会話へ耳を傾けている男がジャスパーだ。
「すまない、弟の千空が手を焼かせているようだな。心中察するよ。初めて、私は千空の姉で石神真だ。真で構わないよ」
「ああ、噂は耳にしているよ。村長が尊敬しているっていう姉君だってね」
「体術も凄いと聞いている、我々も頼りにさせてもらいと思っているところだ」
「ああ、頼られるのは嫌いではないからな。とはいえ、基本的に旧司帝国に居座ることが多いからね……ここに顔を出せるのも少なくなるだろう」
「仕方がないさ。向こうにも統率してくれる存在がいないといけないからね!」
「ところで、調味料が欲しいと耳にしている。我々が持っているもので欲している物があれば良いのだが……」
「うん、その辺りは目星をつけているから大丈夫だろう。今から話すものを少しばかりお裾分けしてくれると助かる」
そう話しながら、指折りをしながらジャスパーに調味料を伝え終えるころ。バシィィンと高らかに指を鳴らす存在が姿を現す。
「はっはー!真、よく来たな!!」
「龍水、相変わらずのようだな。それと……」
ふと、真は龍水の背後に控えるようになって立っている一つの影があることに気付いた。杠が用意した長袖長ズボンの服を着こなしている青年であろう人物は、彼女の視線に気付くと深々と頭を下げた。
「お初にお目にかかります、龍水様の執事をしているフランソワと申します」
「ご丁寧にありがとう。私は――」
「石神真様、でしょう?千空様からお話を聞いております。科学の知識を持ち、武術の心得もある。我々の良きお力になってくださる頼れる姉君であると」
「……そんな大それな存在でもないさ」
フランソワの話に、少しばかり照れながら頬をかく真はゆっくりと首を振って話をする。
「すまないが、先程から美味しそうな匂いを嗅ぐのだが……もしやフランソワは何か作ったのではないか?」
「はい、長い船旅をされると聞きましたので試作としまして『ヤギの恵みのシュトーレン』をお作りしました。真様もいかがでしょうか?」
「残っているのであれば、是非とも頂くとしよう」
ニコリと笑いながらそう話をして、フランソワからパンを受け取った真は久し振りに口にする現代食に感動したのは言うまでもない事だろう。そして、すぐさまフランソワから作り方を伝授してほしいと相談を持ち掛けて一緒になってパン作りに励むこととなる。その横では、千空の指示によって細かな細工を作製するカセキの職人技や千空お得意の科学の力によって一つのアイテムが生み出されていた。
銀板写真(タゲレオタイプ)――人類史上最古と言われているカメラである。そう、南が隠し持っていた復活液を提供した対価として千空に科学の力で欲した代物。記者として活躍していた彼女にとって、カメラは大事な商売道具だ。
「こんな石器時代も同然の世界に、カメラが爆誕したのか」
「欲しい=正義ですので。何かを欲するその力は、とんでもない原動力になりますから。それを千空様は、よくご理解されています」
「ああ、我が弟ながら頭が良く回る奴でな」
そう、頭が回りやすい千空はよく周りを観察している。そんな彼だからこそ、周りの人たちのやる気を引き出したり、元々持っている能力を伸ばすのに努力を惜しまないのだ。
千空が、南の為にカメラを造ったことで油田探しに多いな力となるものを手に入れることが出来た。そう、カメラを増産させ航空写真を作りそこから油田を探していこうというのである。
カメラを貰えたことに感動した南ではあるが、増産されたことで感動が塵となって消えて行ってしまい打ち震えていく。せめて、せめて一番最初に撮る写真は自分の手にしているカメラで撮影したいことを主張し、周囲の人たちの話し合いの結果で千空の姿を撮ることでこの場はまとまったのであった。
♪
「――っていうのが、今日の大雑把な流れかな」
「カメラが出来たん!?沢山写真撮りたいわー!」
「そうだね、油田探しが落ち着けば千空たちがカメラを沢山持って帰ってくるでしょう。その時にいくつか借りて、一緒に撮影しに歩き回ろうね」
「うん!」
ここは、精神世界。さらさらと流れる川の畔では、いつものように出迎える司と顔を合わせた真は一足先に到着していた未来や氷月とほむらと合流していた。
川の近くに立っている大きな樹の下で腰を下ろす未来の横に座る真は、彼女の頭を優しく撫でていく。
「パン、作ったの?」
「うん、試しにいくつかね。南さんに運転を頼んだから、明日持って帰るよ。食べてくれると嬉しいな。フランソワさんから作り方も聞いてきたから、今度は失敗しないパンを作れると思うよ」
「わぁー!じゃあじゃあ、明日からの献立にパンも仲間入りするってわけなんやな?」
「そうだよ。氷月とほむらちゃんも、一緒にパン作り手伝ってくれると嬉しいな」
「私、作りたい……!」
グッと握り拳を作るほむらの横では、「パン作り……」と呟く氷月が眉間に皺を寄せている。あまり乗り気ではないようだ。
「まあ、無理にとは言わないさ。普段とは違う事をするというのも、気分転換になると思うからね。作りたい気分になったら、いつでも声をかけてね」
「……僕はそうすることにします」
賑やかに話をする四人を横に、司は瞳を細めてその様子を見つめていた。コールドスリープしている彼が、いつ目覚めることができるのか現時点では分からない。だから、彼らの輪に入れるのはこの精神世界だけで現実世界では叶わないところになる。
未来たちが羨ましいと思うのは嘘ではない。だからこそ、目覚めた後にやりたいことを一つでも多く作っておこうとしているのだ。今回のパン作りも、やりたいことの一つになりそうだと司は思う。
「それじゃあ、僕が目覚める頃には真の腕も上がってるだろうから手作りのパンを楽しみにしていようかな」
「わぁ。さりげなくプレッシャーかけないでくれるかな?私はプロじゃないんだから、プロ顔負けのものが出来るとはおもえないんだけどなぁ……」
「そんな高度なものを期待している訳じゃないよ。俺は、俺の為に作ってくれる真の手作りが食べたいんだからね。うん、そう思うと早く目覚めたくなってきたから早く石化装置を手に入れてきてくれ」
「分かってるよ!もう、そうする為に船造りも並行しているって分かっていってるでしょ?もう……」
腕を組んで頬を膨らませる彼女がなんだか可愛くて、年上だというのに自身よりも年下に見えるのだから不思議なものだ。そう思う司は、ゆっくりと抱き寄せながら彼女の頭を撫でた。ゆっくりと、それでいて確実に、目的に向かって進んでいくのを見守っていきながら……
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無事に完成しましたー!
あとは少しの誤字脱字の最終確認をしてから、Twitterにて公開しようと思います!
ここまで見てくださり、ありがとうございました~!