「いやあ、デク君すごかったね!爆豪君みたいな動きもますますキレが増してきたんとちゃう?」
「そうかな……!でも、僕も今回はうまく動けたなって思ってたんだよね、実は」
ランチラッシュが大忙しなお昼時。
各々選んだお昼ご飯を乗せたお盆を持って、緑谷、麗日、飯田、轟はそろってテーブルにつく。
いただきますの挨拶をして、先ほど終えたばかりのヒーロー学の授業について麗日が高めのテンションで話しかけると、緑谷は褒められるのを真っ向から受け取れず視線を下に向けて、しかし照れながら少しばかりの自画自賛をした。
「麗日さんも、今日調子良かったよね?物を浮かせる時間がいつもより長めだったし、解除後の持ち直しも早かった。戦闘に移るタイムラグが短かったように見えたけど……あ、あと飯田君もトップスピードに乗るまでが早かったよね。轟くんも空気中の水分を取り込むのと氷結する速さがいつもより上がってた気がする。他のみんなも個性の扱いに少し幅が出てきた感じがあったな……。あとでノートにまとめ直しておかなきゃ……」
「まったくぶれないな君は!褒められるのは嬉しいが!」
麗日への返事から流れるように独り言に移り変わった緑谷が、記憶を手繰るように顎に手を当てぶつぶつと言い始める横で、飯田が箸を持たない方の手を手刀のように動かし突っ込みを入れた。
轟は我が関せず、と言った具合に好物の冷えた蕎麦をすすっているが、その口もとは密かにきゅっと上がっている。
「そうなんよ!個性使った後の酔った感じが最近あんまないんよね。特訓の成果かなあと思っとるんやけど……」
麗日は少し言葉を濁した。どこか腑に落ちていないような、引っかかっているような物言いに、男子三人は麗日を見て視線で続きを問う。
「デクくんとかの場合、体に動きが馴染んできたんだろうなって思うんだけど、私のって個性が出てからずっと酔い感が付き物で、あんま酔わん調子のいい日も確かにあったんやけど……。なんかこう、急に使用後の負担が軽くなった感じがあって。徐々に軽くなっていくんなら慣れたんかなって思えるけど、少し前に、今日は体の調子がいいなあって思ってからずっと続いてる、気がするんよ」
「それは、良いことではないのか?」
「良いこと、なんやけど。なんで負担が軽くなったんか、これだ!って理由が思い付かんくて、嬉しい反面もやもやーってしてて」
うーん、と首を傾げつつ、麗日は胸元に手を当てる。
良いことではないのかと尋ねた飯田も、なるほどと頷いた。
緑谷が何かを考える横で、轟が口を開く。
「俺も麗日の言う感覚、分かるような気がする」
「轟くんはどういうところが気になるの?」
「最近、体に霜が降りづれえんだ」
緑谷は、体に霜、という言葉に引っ張られるように体育祭でのことを思い出した。個性を使うと、周りの気温と自身の体温が低下し、霜が降りていた轟の体。
「体温に影響が出るのを防ぐのに左を使うようになった。でもここんとこ、体温調節に気を回すことがねえから戦闘に集中しやすい――そういや最近、左のコントロールもやりやすいな」
思い出したようにぽつりと言葉が落とされる。
そんでたまに今なら何でもできる気がする!って気になるんだ
心操に対して推してしまう
トレーニングに関して何かしてる時、または相澤先生といる時
それを指摘されて、ごめん使ってる感覚なくて…
先生に呼ばれる透田。
お昼時。唯一他科と顔を合わせる機会。爆豪勝己がぞわっとする。
ンだこれ気色悪ィ
お前顔と言葉が反比例してっぞ
目は釣り上がっているものの、口元は普段に比べると凶暴さに欠ける。
せやかて心操くん、個性が推事って時点で最早無理だと思うんだ、私。
心操くんにやめて欲しいとお願いされ、それが蔑みなどではなく、ただ単にヒーロー科への転向を目指す彼のストイックさからきたものであるからして、願い通りにしたいのが本音であり理性的判断。けれども意思は関係なく、脊髄反射と同様に作用する個性である。私の意思はある意味あるけど、ある意味でないに等しい。
心操くんが心操くんであったことが、彼の運の尽きだった。
と、ここで考えることを放棄してしまえば終いなのだが、なにせ推しである。
推しの願いは現実的に不可能な事だけども、推しの願いだからこそ可能性を求め叶えたい。この私にこの個性だからこその、矛盾した思いである。
さてどうしたものか、と悩む翌日。
授業前半を終えて、食堂へと向かった。ランチラッシュの作る料理はなんでも美味しく、メニューの端から端まで一通り食べるのが今年の目標だ。
お昼時は唯一、前科の全学年がひとところに集まるので、広い食堂はいつもごった返している。寮生活が始まってから、今までお弁当を持参していた人も食堂を利用するようになったせいもある。
わいわいがやがや、喧騒じゃないことがなく、同じクラスの人を見つけるのも困難な人混み。そんなわけで、実は未だにヒーロー科のA組の人たちを見たことはなかったりする。それがいいような、悪いような。
見たい、という思いはもちろんあるけど、見たら尊さと眩しさとで目が弾け飛ぶ気がする。弾け飛ぶのは言い過ぎだけど、万が一目と目があったなら、失神する勢いで崩れ落ちる自信はある。