「その体温計壊れてんのか?」
 体調管理のために定期的に体温を測るように医者からも進められているから、朝昼晩の最低三回は測るようにしている。それ以外にもちょっとした暇が出来たらついでに計測するように心掛けている。
 突然本人の意思関係なく体調が悪くなるこの体はほんの少しの予兆に気付いて対処しないと命取りになるからだ。
 だから練習の休憩中にもこうして体温を測る。いつも通りの平熱で安心していたところをヤスにそう言われたからなにごとかと驚いた。
「……壊れてはないと思うが」
 朝測ったときと大差ないし体調も問題なし、のはずだ。
「でも四十度超えてるぞ」
「あぁ、そういうことか。それでいいんだよ。俺にとってはそれが平熱だ」
「種族差か」
「そうそう。だからこれも市販じゃなくて俺専用の特注のやつで、結構いい値段すんだぜ」
 俺のバイト代一ヵ月くらいだ。
「喧嘩して壊したりすんなよ」
「言われなくても」
 もうすでに喧嘩が原因で何度か買い直している事実は隠しておこう。俺自身思い出したくないしな。
「にしても四十度が平熱って、想像できねぇな辛くねぇのか」
「俺にとってはお前らの平熱の方がよほどあり得ねぇけどな」
「お互い様ってやつだな。あ、でもそれだと銭湯とかジョウにとってはぬるま湯だったりするのか?」
「いやあれくらいがちょうどいい。熱すぎてものぼせちまうし、風呂は長湯したい派だからな」
「ふぅん。にしても四十、四十度か……」
 ぺた、頬に自分よりも数度低い体温を持った手が触れた。突然の出来事で思わず尾羽がぴくりと立ち上がった。
「あつっ」
 すぐに離された。
「そりゃそうだろ四十度だって言ってるだろ」
「わかってたけど実際に触れて確かめてみたくって」
「実体験に基づく経験は糧になるが、間違っても揚げ物中の鍋やストーブやらに手を突っ込んだりするんじゃねぇぞ」
「そういうのは絶対にするなって母ちゃんに口が酸っぱくなるほど言われてっからしねぇよ」
「俺にも適用してくれそれを」
「つってもこれくらいなら火傷しねぇだろ」
「低温火傷について教えてやろうか」
「知ってる。でもそんなに触れないから」
 一度離れたのにまた、今度は両手で触れてきた。人の話を聞かねぇやつだ。片方は頬に、もう片方は髪を搔き上げて額をするりと撫でた。
「なにがしたいんだ」
「覚えておこうかと」
「なにを?」
「ジョウの平熱」
「それ覚えても何の役にも立たねぇだろ」
 そんなことより授業で習う公式を覚えろ宿題を残すなちゃんとやれ。
「少しくらいは役に立つさ。平気だって言ったのに熱出してぶっ倒れたの忘れたのか?」
「それは、そうだけど」
 だからって毎回こうして触れ合って確認する気かよと聞けば頷かれてしまった。
「人がいないから今はいいけどよ、他人に見られたらどうすんだよ」
「心配してるだけなのに、なんで他人が出てくんだ?」
 まっすぐな目で貫かれるように見られてしまえばなにも言い返せず。
 あぁうんそうだろうな。男が男に触れただけでそんなんただのじゃれあいだ。
 男と女じゃあるまいし、変な気を起こしかけてる俺が異端なだけなんだ。
 ヤスは俺のため、あるいはライブ中に倒れてしまって迷惑を掛けられたくないからやってるだけなんだ。だからこうして触れてくる。けど、確認してもらってるところ悪いんだが、恐らく俺は平熱よりも幾分か体温が上がっているだろうし、顔だって真っ赤になってるだろうから、何の参考にもなりやしないだろう。
 男の顔触ってもなんも楽しくないだろうに、悪いことをしてしまっている。けれど数度低い体温が心地がよくて、やめろの一言が言えずにいる。ずるいやつだな俺は。
 まだちょっとだけ、せめてヤスからやめるまでは、もう少しだけこのままでいさせてほしい。
「いちゃつくなら他所でやってくんねぇかな」
「しっ! 黙っとれハチ公! あやつらあれで双方互いの想いに無自覚じゃぞ。これで変に突っかかってでもみろ。相手に気付かれたらどうしよう隠さなきゃとか勘違いして拗らせまくるぞ」
「どっからどう見ても両想いなのに面倒だな」
「知らぬは本人ばかりというわけじゃ。その両片想い騒動に巻き込まれ、大変な目にあった挙句に成立した暁には今以上に甘酸っぱい青春を見せつけられる羽目になるぞ」
「うっわ見たくねぇよそんなの。つかジョウ他人に見られたらってオレたちの存在消してねぇか? 他人の目ならすでに二人分あるぞ」
「身内扱いなんじゃろうな。ノーカウントじゃ。嬉しくないしワシだってこんな光景を日常風景にしたくはない。しかし悲しいことに遅かれ早かれそうなるのは目に見えている。だが先延ばしには出来る。そのためにはあのいちゃつき公害を見て見ぬ振りをするのが最善じゃ」
「ふぁ~、結局逃れられねぇってのかよ……やだよオレ身内のそういうの見るの」
「選択は二つ。今の内に覚悟を決めとくか、二人の恋路を邪魔して破局させるか」
「悲しむ姿も見たくねぇよ……くそっ覚悟を決めるしかねぇってのかよ……」
 溜息を吐く双循と頭を抱えるハッチン。二人がそんな話をしているのに気づきもせずに、今日も今日とて鳥たちはまだ愛とも呼べぬ囁きを続けていく。
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向き
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🍱🔥
初公開日: 2020年08月05日
最終更新日: 2020年08月05日
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コメント
やすじょ的ななにがしかを書けたらいいですね
診断ネタで🍱🔥
【単語】群青【本文】あんたの罪悪感を煽るため、とうに治った後遺症が辛いなどと平気で嘯く。 こちらでい…
ゆいは
夏祭りと👊
捏造しかない話を書いていくんですよ
ゆいは