朝食の味噌汁には、刻んだみょうがと万願寺とうがらしが入っていた。すましに近いそれを一口啜って、みょうがを囓る。すう、と鼻に抜ける爽やかさがあった。そういえばみょうがを食べたら物忘れをする、という話を聞いたことがあるのだが果たして本当なのだろうか。
「あ」
審神者が溢した呟きなど、多くの刀たちが詰めている朝食会場の中ではすぐに消えてしまうものであるはずだった。おそらく、いつもならば。
「そういえば、今朝変な夢を見たんだ」
「夢ぇ?」
皿から丸干しを摘まみながら次郎太刀が聞き返した。出陣のときとは異なり化粧っ気のない顔だ。今朝は二日酔いしていないらしい。兄貴、醤油を取ってと彼が声を掛けると、審神者の背中越しから大きな手が醤油差しを手渡す。
主の隣に座っているのは太郎太刀と次郎太刀の大太刀兄弟である。並の人間よりも背が高い彼らの谷間で、もう一口味噌汁を飲んで審神者は続けた。
「そう、暗いところにいるんだけど、いきなり耳元で名前を呼ばれて、びっくりして目が覚めちゃった」
「名前……ですか」
太郎太刀の手が止まる。
「あのさぁ、一応聞くけど、それって本名?」
次郎太刀が眉をひそめて、声のトーンを一段階落とした。
「うん、本名。本丸に来てからは殆ど呼ばれてないから、余計驚いた」
「……」
審神者の頭越しに、大太刀の兄弟は顔を見合わせる。
「兄貴」
「はい」
ひときわ座高が高いふたりは、キリンが仲間を探すように朝食会場を見渡した。頭ひとつぶん背が高い『同種』たちが腰を上げ、まだ呑気に朝食を食べている主のもとへと集い始める。
「おはようあるじ。それで、夢の話だけれど」
今朝の石切丸は寝坊をしたのだろうか、右の前髪がぴょこりと跳ねている。
「もう少し詳しく聞かせては貰えぬか」
祢々切丸が膝を付いた。その気迫に気圧された審神者が箸を取り落とす。その音に周りの刀たちの視線が集まった。
「俺も混ぜてくれなきゃやだ」
他の大太刀の脚をかきわけるようにして、ジャージ姿の蛍丸が顔を出す。
「ねえ、なにかあったんでしょ。聞かせてよ」