ぷきゅ、ぷきゅと玄弥が歩く度に音が鳴った。新しく買ってもらった音が出るサンダルは玄弥のお気に入りで買ってもらったその日は玄関でずっとぷきゅぷきゅと足踏みをする物だから「うるせぇ」と父が取り上げてしまう程。それほど気に入っていた。一昨日も昨日も今日も玄弥はお気に入りのサンダルでお出かけだ。
「げんちゃん、そろそろお家帰らん?」
玄弥とベビーカーに寿美を連れて近所の公園に来たのはかれこれ二時間前。そろそろ実弥の小学校が終わる頃だろう。お迎えがてら家に帰ろうと誘うが玄弥は首を降った。
「やー!」
「でもお兄ちゃん帰ってくるよ?お兄ちゃんと遊ぶ方が玄弥も好きやろ?」
「んー……」
悩んでいる。大好きな兄のことを言われるとさっきまで遊びたかった欲は薄れる。もう一押しだと志津はしゃがんで地面をほじくっている玄弥の隣にしゃがんだ。
「今日のワンピースお兄ちゃんに見せてないやつやん?お兄ちゃんに見せたくない?」
午前中に祖母の家に行き祖母から新しいワンピースをもらったのだ。新しく買ったサンダルに合わせたスイカ柄のワンピース。音が鳴って更にスイカの飾りがついているのだと買ったその日祖母に自慢の電話をしていた。今度遊びに行くとき見せるねと。そして今日見せに行ったのだがなんと祖母は玄弥のためにスイカ柄の布を用意してワンピースを拵えたのだ。案の定玄弥は大喜び。興奮して鼻血がちょっと出てしまった程だ(服には付かなくてセーフだった)。
「きっとお兄ちゃん可愛いって言ってくれるよ」
「おむかえいく!」
「それじゃあ行こうね」
やれやれとベビーカーを押して先を進む志津には玄弥がポケットになにかを入れていることにこのとき気が付かなかった。
それから公園を出て小学校へ向かう途中何人か下校途中の児童を見かけた。きっと実弥もその中にいるだろう。家に帰る児童たちの流れに逆らいながら小学校の近くまで来ると実弥が友達いうるところを見つけた。
「にいちゃ!」
「玄弥?」
小学生の集団の中から見つけた白髪に向かって玄弥は走っていく。玄弥に気づいた実弥が手を広げる。その腕の中に飛び込んだ。
「にいちゃん、おかえりっ」
「ただいま玄弥。迎えに来てくれたのか?」
小さな体を抱き上げて同じ目線になる。大きなアーモンドアイに実弥が映り込む。
「うん!あのね、おにゅーだよ!」
「ん?」
「これ!」
そう言ってワンピースの裾を摘んで見せる。それでようやっと玄弥が言いたいことがわかった実弥はああと頷いた。
「初めて見る服だな。ばあちゃんにもらったのか?」
玄弥の新しい服は大概祖母が贈っていることを知っている。きっと新しく買った音の出るスイカのサンダルを見せに行くと電話で言っていたからそれに合わせて祖母が用意したのだろうと。小学生にしては回る頭で答えをだした。そしてそれは当たりのようだ。
「玄弥〜いきなり走ったらだめやろ〜」
「母ちゃん」
ベビーカーを押しながら母がやっとこさ追いついてきた。汗だくの母に実弥は「大丈夫?」とポケットからハンカチを出して母の額の汗を拭ってやる。
「ありがと。それねおばあちゃんが作ったんやて」
「へぇ!玄弥、兄ちゃんによく見せて」
一度玄弥を下ろすとワンピースの裾を少し持ってくるりと一回転してみせた。戻って膝を少し曲げてごあいさつ。まるでお姫様のようだ。
「かわい〜」
「不死川くんの妹かわい〜」
同じように下校中の女の子がその様子を見てほっこりと笑う。玄弥はそこで兄以外がいたのだと急に恥ずかしくなって慌てて母の後ろに隠れた。
「あらあら隠れちゃった」
「なんだよ、玄弥。見せてくれるんじゃねぇの?」
「うう……おうちでみせるぅ」
恥ずかしいのか母のお尻ぐりぐりと頭を押し付ける玄弥にみんな笑った。
「そっかそっか。じゃあ家でたんまり見せてもらうか」
玄弥の手を繋いで皆で団地へと帰る。実弥の足音と母の足音、ベービーカーの車輪の音。そして玄弥のプキュプキュと鳴る足音が帰路に続いた。
帰り着くとすっかり汗だくになった実弥たちは水風呂にでも入ろうかと狭いバランス釜に母と実弥と玄弥と寿美でおしくらまんじゅうのように入った。母と久々に一緒に入った実弥はちょっと恥ずかしそうだった。寿美がむずり出したから先に母と上がってしまうが実弥はホッとした。
「にーちゃ?」
「ん?どうした?」
「シャボン玉してー」
「いいよ」