外から雨の音がする。耳が割れそうなくらいの豪雨の音だ。じっくりと聞いていると、雨が木の葉っぱに触れた音だったりアスファルトを叩いていた音だったりするのだろうけれど……なんだ、とりあえず意外と雨の音にも複数の種類があることに気がつく。
もぞもぞと隣で寝転ぶ裸の恋人が俺の側に寄ってきた。雨で気温が下がったから、寒くてすり寄ってきたんだ。可愛いなぁと特徴的な頭をふかふかと触る。気持ちが良かったらしく、寝顔が妙に上機嫌だ。
「外は雨がすごいよ……千空……」
部屋の中では、最近買ったと言っていた除湿機がゴウゴウと音を立てている。あれは半日もつけていればあっという間に満水になるらしい。
「おかしい話だと思ったよ。空気中の水分を絞るなんてさ」
外の雨水すら掴めないのに。
不思議な物を揃えている。
ーー雨の音が、更に激しくなってきた。
自分達のいるこの部屋の音ばかりが聞こえてきて、外の世界の音がまるで聞こえない。この狭い部屋の中が、俺たち二人きりの世界になったみたいで心地がいい。
「ねぇ、千空……もしも……もしもだよ」
俺達二人を誰も知らない世界にいけたらどんなにいいだろうか。
「二人で街中歩いても獅子王司だとか言われる事なくデートして……」
そこまで語って矛盾に気付く。雨のせいで二人きりの世界に夢想したというのに、二人で暮らす世界に他人を加えている事に。
「……やっぱり今の無し」
「……ククク」
「起きていたのかい?」
「いや、今起きたとこだ……なんだ、俺と気兼ねなくおデートしたかったのかテメー」
肌を密着させて暖を取っていた筈の恋人はぴょこりと頭を上げた。眠気で少し蕩けた瞳が扇情的で、鎮めきった筈の欲望がズクンと疼く。一通り笑った後、千空はぼぅっと虚空に目をやってから、俺の顔を見上げた。
「実際キチーかもな。テメーの顔なら世界のどこ行っても『獅子王司』だって一目瞭然だからな」
「うん。そうかもね」
普通の少年。それは司が手に入れることの出来なかった時間の象徴だろう。普通の少年は格闘技の世界に身を置いたりはしない。普通の少年は妹の治療費を稼ぐためにそんな事まで出来ない。彼はとっくの昔に普通の子供である事を放棄せざるを得なかった。
だからこその知名度。だからこそ、こんなささやかな願いがある。
「……デートなぁ、どこ行く?」
千空はベッドの横からタブレットを取り出した。『恋人 デートスポット』と検索ワードを入力する。当然彼自身がこんな場所に興味を抱く訳ないが、俺の言葉を真正面に受けてくれたが故の行動だろう。
「箱根やら湯布院ならの温泉街とかどうだ?」
雨の音がしだいに遠くになっていく。
「いいね……君と行くなら楽しそうだ」
「あー、遠征と接待じゃ体の疲れは取れねぇよな」
「そうなんだよね……でもこの歳で温泉かい?」
「テメーはどこ行かてぇんだ?司」
千空がタブレットを寄越すと、司はするると特集のページで指を滑らせる。指が止まったのは、千葉県の有名な遊園地。
「……司、行ったことねぇのは分かるが」
「いや、気にはないって、うん、ないよ」
あるんだな。と千空は目を泳がせる。もしかしたら半年後くらいには自分の頭にネズミの耳がついているかも知れない。
雨の中、二人はポツポツと会話を重ねる。
「本当に二人でどこにでも行けたらいいのに……」
司はそう言うが、千空は出来るだろ? と当然のように言ってのけた。
「行けたら、じゃねぇ。行くんだ」
ちゅっと千空が頬にキスをすると、俺も照れ臭くなってしまった。
「……いいのかな、ベッドの中でそんな事を言って」
「天国に連れてくってか? テメーはいつの時代の親父だよ」
「そういう意味では無いんだけどな……うん」
この雨の中、実は世界の外は大洪水とかで、全部全部流されていたらどんなにいいか。俺はそんな破滅的な妄想を抱いて、君と乗る船の中で横たわる。
どこか二人、いつか二人。ただの二人になれたらいいのに。
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雨の夜
初公開日: 2020年07月31日
最終更新日: 2020年08月01日
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現パロ
ハコブネ
羽京さん目線で見るペルセウス船内での司千。作業時間目安は30分
ウメヲ
【愛され左京さん】プチプチする左京さんと ★
プチプチする左京さんに寄り添う各組+α 春:こっそり近付く千景 夏:△プチプチあげる三角 秋:106…
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