★★配信を終了しました★★
ミルクレープのお題は
「想い出」「横たえる」「撫でる」
です。
リクエスト内容は最後に書きます。
ヒント:演目二次です
1日の中で、私の好きな時間がある。
夜の帳がおりかけた頃、私だけに許された秘密の時間。
屋敷の二階、私の主人の部屋の隣にあるそこに立ち入ることが出来る者は多くない。
私と限られた者だけに許されたそこは、私の宝物がつまった部屋だった。
(明日は朝から外出、行先はxxx邸。あの邸ならば、お会いになるのは女主人だろう。そうであれば派手過ぎず、けれどもあのかたを引き立てる色――そうだ、先日仕入れた二列先にあるあの服はどうだろう)
部屋の中は徐々に暗くなり始めている。あと少しすれば辺りが見えなくなるそんな中でも目的のものを取り、部屋を出た。
行き先は隣の部屋だ。ノックを3回、ひと呼吸置いてから声をかける。
「失礼いたします。明日のお召し物をお持ちしました」
「ありがとう。入って」
「は」
扉を開けた先には、先ほど別の者が持ってきたのであろう紅茶を口につけている主人がいた。
私の入室に構わずふうふうと中身を冷ましているあたり、淹れたてなのかもしれない。
少し早かっただろうか。そんな思いは彼女の言葉で吹き飛ばされた。
「ごめんなさいね、あと一口だけ」
「いえ」
応えながら部屋の片隅にあるフックへと隣室――衣装室だ――からとってきた品々をかけ、残りを机に置く。
ドレス、帽子、手袋、靴、装飾品。これらが彼女のお眼鏡に叶うかをこれから確認してもらうのだ。
宣言通り、あと一口だけ飲んだあとティーカップを置いた彼女は席を立ち、私が置いた品々を眺め始めた。
何か声をかけられるまで口は開かない。説明は野暮なだけだ。
彼女の視線が二往復ほどした後だったろうか、小さくつぶやく声が漏れた。
「こんな服、あったかしら」
それは、先ほど衣装室で手に取ることにした新しく仕入れたドレスだった。
その色は先ほど彼女が口をつけていた紅茶、否、ハーブティーに近い濃い紫。
「たまにはこのようなお色もどうかと思いまして」
明日の訪問先の女主人は、相応に歳を重ねた老婦人だった。あまり詳しくは知らないが、何やら最近レース編みに凝っているらしく奥様が先生を紹介されたらしい。数日に一度訪っては共に編み物に耽っているようだが、実際のところは老婦人の話し相手も兼ねているのだろう。お優しいことだ。
ともあれ、品を損なってはならない以上派手過ぎず、けれども落ち着きすぎず。そんな陽の落ちた空を思わせる紫を仕入れたのは私自身だったからこそ、胸を張ってこたえる。
私の言葉に、そうね、と彼女は手を口元にやり視線を床に落としながら何やら考え事をしている様子だった。
明るいブロンドの髪が二度三度、横に動く。やがて顔をあげた彼女は、ちょっと待っていて、と踵を返した。
なんだろうかと思っていると、机の引き出しから何かが取り出されてきた。
「これ。きっとこのドレスに似合うと思うわ」
「これは?」
「この前先生のところで作ったの。かわいらしいでしょう?」
掌の上に広げて見せられたのは、チョーカーだった。ビロードの布に小さなレースがついたそれを見て、一瞬、呼吸が止まる。
「びっくりした。まさか、こんなに似たような色のドレスに出会うなんて思わなかったですもの」
そう、そうなのだ。そのチョーカーの色は――…
「そうですね。まさかこんな偶然があるとは思ってもみませんでした。明日は是非、そのチョーカーもお召しになられてください。そうだ、チョーカーをお召しになるなら、もう少し落ち着いたアクセサリーにしましょう。失礼ですが、チョーカーをお借りしても?」
「どうぞ」
一気に喋って、腰を折る。悟られてはいけない。
これは必然ではなく偶然だ。
どうにかしてせわしなくならないようにしながら扉を閉め、衣装室の扉を開いて閉め、大きく息を吐く。
目的のアクセサリーの位置は見当がついていた。濃い色の中でもきらりと輝く真珠のそれをアクセサリーボックスから取り出す。
あとはこれらを持って戻るだけなのだが、その前に。
(――このぐらいは、お許しを)
手の中にある細い布はあくまで偶然色が同じだっただけの物だ。だからこの想いはひどく身勝手で独りよがりであるとわかっている。
それでも溢れだした気持ちをここにおさめておきたくて、そっと指先で撫でた表面へ唇を触れさせる。
現実に伝えるわけではない、敬愛する主人への思慕。
幼いころ、庭で遊んでいて眠り込んでしまった彼女を部屋まで背負って帰った時とは理由が違う。
彼女も私も、それ相応に大人になってしまったから。
(……行こう)
思い出に耽るのは短時間でよい。
大事なことはこれからお持ちする品が彼女のお眼鏡に叶うか、その一点だけだ。
頭を切り替えて衣装室を出れば、窓の外に広がる空が手の中のチョーカーと同じ色をしていた。
★あとは書き足したい時に書き足します。
★リクエストは演目『執事リバーシブル』よりモリス×お嬢様でした。
ありがとうございました!