勉強しながらなので絶対に作業の手は止まり何もない空白の時間が出来るような気がしますが書きます。飽きるまで。
 真ん丸の円を描いて、その中にまた円を。複雑で怪奇な文様、理解不能に思える言葉の羅列。それらを書き上げて、最後に小さな星を。中心に書かれたそれのおかげで幾分かかわいらしさが出たような気がするその魔方陣は、しかしながら恐ろしい魔術の礎になるものである。中心の星は、子供が見上げて「綺麗」と声を発するようなものとは、また違った意味合いを持つ。
 夜空に浮かぶ星。古代から魔術的観点において重要な位置に置かれ、おそらく幾多の人々がその力を借りようとした。だからこそ、魔方陣には五芒星が書かれるようになったのだろう。それは学術書で証明されていることではない。しかし、イデアにとっては半ば確信に近い想像だ。だからこそ一番簡素な魔方陣にさえ五芒星が用いられ、歌にさえ歌われる。
 歌。子供の頃に父親に教えられた。おそらく、父親が親らしくしていたのはその時が最後で、そのあとのイデアの記憶の中では、父はひどく影の薄い存在だった。しかしながら、その歌を一緒に覚えた相手だけは、どんな時も薄れることなく残っている。顔だけ似ついて、しかし性格は正反対だった。イデアの手を引っ張り、にこにこと笑いながら、友達との誘いを断ってまでイデアと一緒に遊んでいた。
 僕が兄だったのに、手を引っ張るのはいつも、その「弟」だった。
 星の歌を覚えた時のことも、よく記憶に残っている。珍しくも、父から直接教わったその歌を、その楽譜を、弟は大事そうに抱えていた。「父さんが、初めて教えてくれた」と、言っていたか。イデアもそれは同様で、父が直接教えることの珍しさに瞠目した。しかし、きっとそれは、シュラウド家が得意とする召喚術に置いて、星というものが非常に重要だったからであって、愛情などみじんも籠っていないのだ、と幼いながらすぐ気づいた。父は、そういう男だった。
 しかし、それをわざわざ弟に言う、など。イデアにとって弟の笑顔は何よりも大切で、それが勘違いによって生まれたとしても、壊すことはできなかった。父の本性を知らない弟を、ひどくかわいそうに思った。愛おしい弟は、父が冷酷だと知らないまま過ごすのだろうか。知ってしまった時、どんなことを言い、そしてどんなことをイデアは言われるのだろうか。本性を知りながら、教えなかったイデアに対して。それは耐えられない。愛おしい肉親に、そんなことを言われるのは。
 そんなことを考えて、イデアは父の冷酷さを言い出せず、弟が星の歌を何回も何回も繰り返して歌う姿を、ぼうっと見ていた。そんな記憶まで、よく残ってる。
「きらきらひかる おそらのほしよ」
 そんな弟の歌声まで、鮮明に。
 つまるところ。きっと、弟は両親からの愛に飢えていたのだと思う。
 だから、親からもらったものに大げさなほど喜び、うれしがった。ずっと持っていようと思ったのだろう。父親からもらった楽譜だって、きっと今も机の引き出しの中に入っている。しかしながら、母親の愛情は足りていなかったのだろう。子供を育てる母親の存在は、通常であったら必要不可欠で、しかしシュラウド家にとって乳母を雇う金など塵にすぎなかった。母親は、不要であった。
 しかし、きっと母親が”存命であれば”————弟は、過剰な憧憬を抱きはしなかっただろう。イデアたちにほとんど会わず、子育てが乳母に任せっきりであったとしても、おそらく生きていれば。
 シュラウド家は、死を信仰する一族だ。厳密に言ってしまえば違うのだけれど、イデアの目にはそう映る。
 死後にある冥府。その存在を信じる。死した人間は冥府へ行き、冥府でまた一つの人生を送る。そんなことを信じている。そして同時に、シュラウド家の人間は死に好かれている。シュラウドの血を継ぐ者は、いつも首に死神の鎌をあてがわれている。それは簡単に首を落とす。いとも、簡単に。
 だからか、イデアが生まれた時には祖父母ともども死んでしまっていた。ただ、それは母方の方だけで、父方の祖父母は現在も存命だ。父は婿養子のようなものだ。血を継いでいない父は、おそらく死神に狙われる対象ではないだろう。
 しかし、母はその血を継いでいた。シュラウドの血を継いだ母は、最初から早死することが決まっていた。それがいくら残酷な事実だったとしても、もはや覆せるようなことではなかった。その運命通り、母は早くに命を落とした。
 弟を、生んだ日のことだった。
 
 
 
 
 
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初配信 勉強しながらtwst書く
初公開日: 2020年07月25日
最終更新日: 2020年07月26日
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書いたり書かなかったりです。あと夢書く可能性あるのでお気を付けください。