あの子たちはまだ近くにまで到達していないのか、僕だけがいるらしいこの世界はやけに静かだった。
……いや、違うか。其処此処の物陰から黒い、シャドウと呼ばれるんだったか? が顔を出し、たまに近寄ってきて何をするでもなくまたどこかへと去って行く。襲っては来ないようだ。
「……住処とか、あるのかな」
現れては去って行く黒いものたちの行方が気になった。
あの子たちが現れない限りは特にすることもない。ついて行ってみるのもありか。
妙に自分らしくないような感情に支配されながら目をつけた黒いものの後を追ってみた。途中でついて来ている僕の存在に気づいたような素振りを見せたが、気にもせずに蠢きながら進んでいく。まるで目的があるかのような動きに、どういう精神構造なのか人と変わらないのか、なんて思っているとそれは目的地に着いたらしく、うにょうにょと不定形に形を変えながら何かに近づいた。その何かは足下で蠢くそれを見て、ざらざらとした耳障りな音を出し、少し離れている僕に気づいてこっちに視線を寄越した。
その何かは、僕にまとわりついてくるあの高校生と同じ姿形をしているが、唯一違うところは瞳が金色だということ。ああ、あともう一つあった。声がおかしい。もしかしたら人語を話さないのかもしれない。僕を見て首を傾げながら何事か呟いているが、まったく単語を拾えない。
さらにおかしいことに、その少年もどきは金色の瞳からボタボタと涙を零しているのに、拭いもせず、喉をひくつかせることもなく、しかも流れた涙に至っては学ランに染みていくこともなくただ流れているだけだ。
「なにか言った?」
僕の声に呼応するように唇を動かすが、やはり意味のある言葉は聞こえてこない。これがあの子のシャドウ? ってやつ?
ジッと泣きながら見てるけど、どうしたらいいのか。撃っとけばいいのか。
襲ってくる様子はないけど、ついて来ても面倒だしなぁ、と銃を構えてもただ見つめてくるだけ。その額に黒い小さな穴が開いても棒立ちで僕を見ていた。これじゃあ倒せないのか。
「なんか、無駄なことしてるな」
変な好奇心出すんじゃなかった。そう思いながら戻ろうと背を向けると、駆け寄ってくる足音が聞こえて、ちょんちょん、と肩を突かれる。振り向くと拳が目の前にあって、殴る気か、と構えると首を振った。
「違うの?」
頷いた彼もどきは僕の手を掴むと拳の中にあったものを落とす。
掌を見てみるも、何も乗っていなかった。
◇
「……あれ、何だったんだろうねー」
「あれ? 何かありましたっけ?」
ふとあの時のことを思い出して呟くと、彼もどきではない彼本人がちゃんと灰色の瞳を瞬かせて首を傾げた。
「昔、向こうで金色の瞳のキミと会ったんだよ。聞き取れない言葉を話して、ずっと泣いててさ」
「つまり、俺のシャドウ、ですか?」
「そうなんじゃないの? で、なんかくれたんだけど何もなかったんだよね」
「くれたんですよね?」
「うん。手に乗せた、と思ったけど何も乗ってなかったよ」
首を傾げたまま考え込んでいた彼は、気持ちだと思います、と真面目な顔で言った。ただ、まだ首は傾いたままだから変な感じだ。
「あー……キミらしい、ね」
「現実で泣かないと、あちらで泣いてしまうんでしょうか」
「あれがキミのシャドウかどうかも定かじゃないけどね。他の黒いのと同じ言葉喋ってたよ」
「ううん」
考え込む彼が言うには、お友達のシャドウたちは自分たちと同じ言葉を話していたらしい。
「でも僕らちょっと違うじゃない」
「それも、そう、ですね」
俺は自分を貴方のところに置いてたんですか、とまた首を傾げ始めた。本当のところは、誰にも分からないんじゃないかな。