最初に惹かれたのは声だったと思う。高校1年の春。桜の木の下で、青空に舞う桜の花びらを眺めていた時、不意に声がかけられた
「新入生かい?ここは綺麗だよね」
そう言って微笑んだ顔が、木漏れ日のように優しくて。惹かれる心を止めることができなかった。
レオナルドは恋をしている。2年前に初めて出会ったあの日から。相手は高校教師で、男で、白衣が似合う
「おはよう。今日も授業を始めようか。レオ、号令を頼むよ」
「はい。起立、礼」
今日の1限は化学。レオナルドの想い人の授業だ。朝起きた時から心待ちにしていた瞬間が始まる
「着席」
「ありがとう、レオ。じゃあ教科書の20ページを開いて………」
パラパラと教科書がめくられる音。この瞬間だけは、いくら見つめても許される。だって、傍目に見れば真面目に授業を聞く生徒としか見られないだろうから
(………ずっと、この時間が続けばいいのにな)
そんなことを考えながら、レオナルドはペンを動かした
昼休み。大急ぎで昼食を食べ終えると、レオナルドはある場所に向かう。学校の東棟の端、化学準備室だ
「ドナテロ先生、いらっしゃいますか?」
「いるよ、入っておいで」
「失礼します」
室内からの返答を待ってレオナルドは扉を開けた。そこはドナテロの住処とも言える場所。この時間は大抵ここにいるドナテロに会いに行くのがレオナルドの日課になっている
「………先生、さすがにちょっと片づけた方がいいと思います」
書類や実験器具の山に白衣が埋もれているのを見て、レオナルドはため息をついた
「いやー、なかなか時間が取れなくてね」
のっそりと顔を出したドナテロが頬をかくのにキュッと胸が高鳴る
「それで?今日はどこを聞きに来たのかな?優秀な生徒会長くん?」
「やめてください………」
悪戯っぽい表情でからかわれれば、頬に赤が差す。会う口実として用意していた問題集を見せれば、ドナテロは手元にあった眼鏡をかけた
(っ………!)
授業中は見ることのできない眼鏡姿も、今だけはレオナルドのものだ。窓からの光がドナテロの顔に柔らかく当たり、真剣な表情を優しく照らす
「なるほどね、ここはこの法則が成り立つから………………レオ、聞いてるかい?」
「っ、はいっ!聞いてますっ。すみませんドナテロ先生」
しばし見入ってしまったことを指摘され、慌ててドナテロの声に集中する
「はは。もうレオがここに来るようになって随分経つんだから、そんな他人行儀な呼び方しないでいいよ。僕としては『ドニー先生』って呼んでほしいなぁ」
すると突然、そんなことを言われてレオナルドは混乱する
「え、ええっ!?先生を、ですか?」
「うん。そう呼んでる生徒もいるだろ?」
確かに、教師に対して気安い生徒はドナテロのことをそう呼ぶこともある。しかしレオナルドは今までずっと『ドナテロ先生』と呼んできた。それをどう思われていたかなんて、今まで考えたこともなかったが、どうやらドナテロは不満があるらしい
「えっ、と………でも」
「いいだろう?じゃないとこの問題の解き方教えてあげないよ?」
ここに通うようになって最近知ったこと。ドナテロ先生は少し子どもっぽいところがある
(でも、そんなところも好きだなんて思ってしまうんだ………)
さあさあ!と急かすドナテロに、求められたように呼ぼうと口を開けたレオナルドだったが、
「ど、」
「ど?」
「どど、………っ」
なぜかとても恥ずかしい事のように思えて、うまく言葉が出てこない
「っ、本当に言わないとダメ、ですか………?」
「うん」
「うぅっ………!」
自分の顔が真っ赤になっている自覚はある。それなのにドナテロはそんなこと気づいてないかのように何も言わない。ただ、その瞳だけが楽しそうに見つめてくる
「っ、ドニー、先生」
「うん。なんだい?レオナルド」
「っ、からかわないでくださいっ………!」
「ははっ、ごめんごめん」
かわいいからつい、ね
そう言って優しく頭を撫でられれば、何もかもどうでもよくなった
キーンコーンカーンコーン
「あ………時間だ。すみません、続きはまた今度お願いします」
名残惜しい気持ちを必死に隠してドナテロから離れると、レオナルドは一礼して部屋を出る
「………あぁ、また来るといいよ」
待ってるから
最後に続けられた言葉に、自らの足音が浮き足立ってしまうのは、もうどうしようもなかった
「………あと1年は切ったけど、長いなぁ」
そうぼやくドナテロの言葉は、レオナルドの耳には届くことなく、そっと春の空気かき消された
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真っ白な初恋
初公開日: 2020年05月31日
最終更新日: 2020年05月31日
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化学教師ドニーと生徒会長レオの初恋物語。その最初の区切りまで。